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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第6章 抱きしめる彼女、来々軒を語る親父、譲れないラーメン

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28 むぇ、むぇんめむぁん…

 互いに、ラーメン論は譲れない。

 でも、認め合うことは出来る。

 散々論議をぶつけ合った後に、芽生える友情、みたいなもんか?

 

「だから、俺は、自分の“ラーメン”は譲れない。けど、今日は、こんな話をしに来たんじゃなくって…」

 俺は、どっかりと腰を据え直して、親父を睨んだ。

「あっしも、自分の“ラーメン”は譲れねえなあ。話を、聞こうじゃないか」

 親父も、どしんと腰を据えつけて、真っ向から俺を睨む付ける。

 バッとだしたグラスに、れんげちゃんが心得ているかのようにビールを継ぎ足す。

 自然に、俺もグラスを突き出しており、トクトクと気持ちの音を立ててビールが注ぎ込まれていく。

「だから、俺はただの客なんだから、あの“ご予約席”っていうのは、やめて欲しかっただけで、ただ、それだけなんだよ」

「そんな“駄々”こねる為に、わざわざ足を運んだのかい?ラーメン屋でカレーライス頼むクソガキみたいに」

 親父が、不敵にニヤリと笑う。

 その表現があまりに可笑しくて、似合っていて、親父がそんな発想できるのが可笑しくて、皮肉られているのが俺自身ということがますます笑えて。

 俺も、ニヤリと笑い返してやった。

「俺は、客商売なんて、まったくやった事がないんだぜ?」

「あっしも、女房と、全くのド素人の状態から始めたんだよ」

「俺は、ただのラーメンオタクなだけだぞ?」

「心配すんな。御託なんぞ並べる気力も無い位、毎日忙しいから」

 親父、さっきの迫力はどうしたんだよ。

 涙腺が、なんか緩んでるぞ。

「大丈夫です、私がいます。大丈夫、私がずっとおそばにおりますから…」

 れんげちゃんまで、なぜか、泣き顔になっている。

 微笑んでいるのに、なぜか涙があふれている。

「鳴人さん、どうしてでしょうね…どうして、こんなに…」

 後は、言葉にならなかった。

 なぜって、れんげちゃん、感激のあまり。

 俺を「ムギュッ!」と抱きしめてくれたから。

「むぇ、むぇんめむぁん…」

 抱きしめる腕は力強く。

 抱きしめる胸は柔らかかった。

 それはあまりに熱く、柔らかで、包み込まれるようで、気持ちよくて、息も出来ないほどで、故に苦しくて…

「むぐぉぉ…」

「あっ、ご、ゴメンナサイっ!」

「い、いや…ど、どうぞ、これからも、よろしく…」

「ええっ??」

「あ、いや、その、また抱きしめてネなんて意味じゃなくって…」

「え、あ、そ、その…」

 れんげちゃんは、顔中を真っ赤に染めていた。

 多分、俺も同じように真っ赤に染まっていたと思う。

 側で見ていた親父が、堪えきれないように笑い出した。

 親父の顔も、酒に酔って真っ赤に染まっていた。


          ~ ・ ~


 れんげちゃん、あんなに小柄なのに、胸、大きかったなあ…

 道理であのガキ、抱きしめられた後、黙りこくったわけだよな。

 それに、感激屋だし、彼女、あんな風に喜びを表現するのかぁ…


 親父、なげやりそうに見えて、真剣にラーメンの事、考えていたんだな。

 俺のオタクくさいこだわりを、全力で受け止めてくれて。

 だから、俺は実際に関わらなければならない。

 単なる常連じゃなくて、ラーメンに関わる者の一人として。

 きちんと親父に向かい合えるように。

 そして、れんげちゃんとも…


 俺は部屋の中で、ニヤニヤ笑いながら、嬉しさを噛みしめていた。

 明日という日が、こんなに楽しみな事は、今まで無かった。

 来々軒のラーメンが、俺の心に、温かい熱意を注いでくれる。

 たかが、ラーメンなのに。

 それでも、美味いラーメンは、俺自身を変え、親父を変え、来々軒をここまで変える力を持っているのだ。



                             (続く)


 れんげちゃん、小柄で華奢だと思っていたのに。

 意外に着痩せするタイプだったのね。

 だからってね、これからもよろしく、は、ないでしょ?

 いや、れんげちゃん、まんざらでも、ないらしいですネ。

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