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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第6章 抱きしめる彼女、来々軒を語る親父、譲れないラーメン

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27 ちょっと待ちたまえ

 ああ、終わった、ヤラカシてしまった…

 最初はウジウジ言ってるのに。

 急に後先考えずに突っ込んで。

 で、ヤラカシて、ハッとなって逃げだして。

 後から、またウジウジと後悔し始めるまでが1セット。

 

 鳴人君よ、お前、ホントそんなんばっかだな。

 いやぁ、書きやすいわ。

「なる、ひと、くん…」

 呆然と、親父が、うめくように、俺の名を呟く。

 だめだ、もう、だめだ。

 あんなに旨かった来々軒のラーメンも、今日限りで食べられなくなる…

「なる、ひと、さん…」

 萎れ、震えた声で、れんげちゃんが俺の名を呟く。

 全ては、もう、終わった。

 折角、同じアパートに住む事になったのに、お隣同士になれたのに…

 俺は、そのまま振り返りながら屈み込み、靴を履き直そうとした。

 とにかくこの場にいたくなかった。

 自分の愚かさ加減、馬鹿さ加減にホトホト呆れていたから。

 

「ちょっと待ちたまえ」

 親父の声が、低く、腹の底から伝わるように、店の中一杯に響いた。

 だけど、でも…

「いや、だから…」

「いいから、座りなさい」

 俺を見つめる顔は、あの時のものだ。

 お客を背に抱えて、俺と対峙した、あの時のものだ。

 はっきりいって、迫力は別に感じなかった。

 いったい、何をするつもりなのか、判らなかった。

 あの時の、顔だ。

 怒っている訳でもなく、悲しんでいる訳でも無い。

 冷静と言う訳でも無く、熱くなっているわけでもない。

 言うなれば、アイ、としか言えない。

 言うなれば、来々軒のラーメンの顔、なのかも知れない。

 その、根っこの所で…


『来々軒は、ラーメンを食わせる店だ。昔から、それだけは変えない。

 あっしが、女房と二人でこの店を始めた時、そう誓い合った。だから、それだけは、変えない。変えちゃいけないんだ。

 だから、ラーメンを食わせるのだから、メニューなんて、「醤油」「味噌」そして「塩」だけでいい。余計な物はいらない。

 大体、「トンコツ」は、ラーメンじゃないだろ?

 そんなモンが食いたいなら、ヨソでいくらでも食わせてくれる。

 来々軒は、この来々軒は、ラーメンを食わせる店なんだ。

 例えなにがあろうと、飾り物を食わせる所じゃない。そんなモノ食わせる位なら、店をたたんだ方がマシというもんだ。

 あっしは、はっきり言わせて貰うよ。ああ、言わせて貰うとも。

 そういうのが食いたいなら、ヨソに行ってくれ!ってな。

 まして、ゴテゴテに飾りつけて客を騙すような「スペシャル」なんか、暖簾を汚すだけだ!ラーメンってもんを、まるで判ってない犬畜生の食うモンだ!

 それを、なんだとぉ?

 言うに事欠いて「トッピング」だと?!

 寝言も程々にしやがれこの若造!

 ラーメンは、麺とスープを味わう物だ。

 具は、添え物にしか過ぎん。そんな、そんなモンを大層に偉そうに飾りつけて、お客の舌と心をを誤魔化そうなんて、ラーメン道を語る資格はないっ!

 いいか、耳の穴かっぽじってよぉく聞きやがれ!

 ラーメン屋の造る味っていうのはな、「店主の好み」なんだよ。

 「お客の好み」に合わせる位なら、こんなラーメン屋など最初っからやってないんだよ!

 お客っていうのは、自分の足で好みの味を「探す」もんだ。こっちで味をコロコロ変えたりしたらだめだ。それ位、自信と誇りを持って出しているんだよ。

 それが、ラーメン屋の「プライド」というものなんだよ。判ったか、青二才?!

 …だが。

 サイドメニュー。

 こいつは、必要かも、しれん、な。

 確かに、ギョーザとチャーハンは、あってもいい。あっても、いいよ。

 実は、前に、試しに造ってはみたんだ、みたんだよ。

 でもな、どうしても納得のいく味が出来なかった。出来なかったんだ。

 だから、止めた。

 うちはラーメン一本で行くと、その時に決めた。

 でもな、だけどな。

 今日、彰油さんが出してくれた賄い料理が、大いに参考になるかも知れん。

 いや、あっしも依怙地になるつもりは、ないんだ。

 譲れない物は確かにある。

 だけど、聞いてもいい、やってみてもいい、変えてもいいモノってのは、確かにあるんだ。そいつは認める。

 だから、これに関しては、鳴人君の言う通りだと思うよ。

 無論、それなりの手間暇は掛かるだろう。でもなぁ、手間を惜しんではラーメン屋とは言えなくなっちまう。

 安い素材を、手間隙掛けて美味いラーメンに仕立て上げる。

 その気持ちとノウハウがあれば、やってやれないことはないんだ。

 だが、それには、若い力が、若い感性が必要だ。

 来々軒も、あっしの力だけではどうしようもないかもしれん。

 だから、そういう、率直な意見は充分汲み取っていかないと…』

 

 親父、顔を真っ赤にして。

 今にも脳の血管が千切れて倒れるんじゃないかという位の、熱弁で。

 それは、今し方、俺がぶちあげた「ラーメン論」に真っ向から対立するもので。

 でも、親父のそれは、鏡に映した俺自身で。

 親父のそれは、経験を足したぶん、鏡の俺より迫力があって。

 親父のそれは、年月を足したぶん、鏡の俺より浅はかで。

 それは、仕方の無い事だし。

 それは、どうしようもない事なんだし…

 だけど、俺は…

 だから、俺は…

 こういう、ぶち上げちゃうところ、鳴人君と親父は似てるんですよ。

 俺、歳を取ったらこんな感じになっちゃうのかなぁ。

 俺、歳をとってもこんな感じにはなりたくないなぁ。


 親父も、似たような事を思ってるんでしょうね。

 コイツ、俺の若い頃にソックリだなぁ。

 コイツ、歳を取ったら、俺にソックリになるんだろうなぁ。


 なので、何となく気が合うんでしょうね。

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