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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第6章 抱きしめる彼女、来々軒を語る親父、譲れないラーメン

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25/48

25 ラーメン屋はラーメン屋に相応しいメニュー構成というものがあると思うんです

 ご予約席は、止めてくれぇ…

 何で特別扱いされるんだよぉ…


 だって、特別なお客様ですから。

 こうして特別扱いしていれば、その内、バイトだって引き受けてくれるんだろ?

 そんな事があって、俺は「ご予約席」の一件を、又しても言えずじまいだった。

 これでは、困る。困るのだ。

 目立ちたく、ないのである。

 迷いに、迷った。

 しかし、とにかく、会って話をしない事には、始まらない。

 俺は、店が閉まった頃を見計らって、来々軒に顔を出しにいった。

 だが、変に裏から入ると「従業員」扱いされてしまうかも知れない。

 今度は「客」として表から入る事にした。

 暖簾の下ろされた、来々軒の入り口。

 カギは、まだかかっていない。

「…こんばんわ…」

「あの、もう閉店…鳴人さんっ?」

 奥の方で片付けをしていたらしいれんげちゃんが出て来て、俺の顔を見て驚いていた。

「ああ、鳴人君かい? やあやあ、よく来た、さ、入って入って」

 親父も、やけに嬉しそうな顔をして出迎えてくれる。

 手が泡だらけだ。洗い物でもしていたのだろう。

「いや、あの、そうじゃなくて、違うんです…」

 ああっ、もうっ!

 俺は、こんな歓迎されるために来たんじゃなくて。

 ただ、「ご予約席」っていうのはヤメテ欲しいだけで…

「マスター、後は私がやりますから…」

「ああ、そうかい? それじゃあ、よろしくたの…」

 うわぁ、勘違いモード突入じゃないか。

 さすが親子(かどうかは知らないけど)、店での時といい、息がピッタリ合っている…

 なんて、感心している場合じゃないっ!

「ち、違うんですっ! 今日は、おは、おはなしがあって…」

「まあまあ、飲みながらでも話は出来るじゃないか。いやあ、嬉しいなあ…」

 おーい、人の話を聞けよっ!

 肩を抱えて小上がりに誘わないでくれっ!

「さっきの一件は、ホント迷惑かけたねえ」

 うわっ、もうれんげちゃん、ビール瓶持って来てる。

「ま、ま、まずは一杯…」

 だ、だからぁ!

「ちょ、ちょっと待って下さいよ。俺、こんな事しにきたんじゃなくって…」

「なんだい?飲みながらじゃ、話せないことなのかい?」

「そ、そういうわけじゃ…」

「じゃあ、乾杯といこう。そうだね、あのカレーライス好きの子供に」

「こ、子供に…」

 グラスが、チリンと鳴る。

 な、流されてるなあ、俺って…

「彰油さん、あの料理は、とっさの思いつきなのかい?」

 調理場のれんげちゃんに、親父が声を掛ける。

「いえ、ただの賄い料理ですよ。ただ、あの時は、別なものを出さないとあの子、納得しないと思いまして…本当に御迷惑お掛けしました」

 おつまみを持って、れんげちゃんが近づいてくる。

 相変わらず、手が早い。いつ用意したのか、まったく判らなかった。

「いやあ、あっしの方こそホント、助かったよ。今までラーメンしかおいて無かったけど、店を広げたら、別のメニューも用意できるかなぁ、どう思う?」

 えっ、お、俺に話を振られても…

「そうですね。鳴人さん、どう思います?」

 れんげちゃんまで…

 俺はグッとビールを空けた。

 タイミングよく、れんげちゃんがお代わりを注いでくれるのが気持ちいい。

「この店が、定食屋だったら、カレーとかは定番で、必ず置かなければならないと思うけど」

「うーん、お客さんはそう思うだろうね」

「でも、こんな美味いラーメンを出しているのに、他のメニューはかえって格を下げると思う…ます…」

 親父、目が真剣だ。

 なんで俺の話なんか、そんなに真面目に聞くんだ?

「いや、カレーライスが悪いとかいうんじゃなくって、ラーメン屋はラーメン屋に相応しいメニュー構成というものがあると思うんです。

 …えっと、うちはラーメン専門店だから、他の物が食べたければヨソに行ってくれ、だけど、ラーメンならウチをおいて他にはないゾっていう、その、プライドというか…」

 パチパチパチパチ…

 れんげちゃんが、なんか満面の笑みを浮かべて、手を叩いている。

 親父、なんか目が潤んでいる。

 泣きそうな、顔をしている。

「鳴人君っ!」

 ガシッと、両肩を掴まれた。

「君って男は…君って男は…」

 な、なんでそういうノリになるんだよ!

「な、なんでそんなに感激しなきゃならないんですかっ!」

「いや、あっしは、感激したっ!無性に、感激したよ。感激したとも…」

 だめだ。この親父、ビール1杯でイッちゃってるよ。

 れんげちゃんも、面白がってお代わり注がないでよ。

 あっとスイマセン、俺にまで…

「鳴人君っ! 君くらい、ラーメンを愛している人はいないっ!いないよぉ…」

「よ、止して下さいよ、俺は、別に…」

 だから、そんな話をしにきたんじゃないのに…

「あっしも、そういう“信念”を持って、今までこの店を続けてきたんだよ。だから、鳴人君も知っての通り、定食物や、定番物は元々作ってないんだ。作ってないんだよ…」

 そういえば、そうだよな。

 小上がりにチョコンと座って、れんげちゃんがグラスを出して来た。

「おっ、彰油さんも、飲むか?」

「ええ、楽しそうなお話ですので。マスターに手伝って頂きましたから、お店の準備は明日でも出来そうですし…」

 ちょっと、はにかみながら。

 でも、サンダルはしっかり脱いで小上がりに上がって来ている。

「そうかそうか、ま、ま、お一つ…」

 親父、やたら嬉しそうに、れんげちゃんにビールを注ぎだした。

「頂きます…」

 小さな白い両手で、大事そうにグラスを抱えると。

 ング、ング、ング、ング…

 首を徐々に、上に傾けながら。

 それでも、上品さは損なわないように。

 綺麗に、れんげちゃんはビールを飲み干した。

 ほおっ、と、俺は見とれていた。

 多分、親父も同じように見とれていたのかもしれない。

 それ位、絵になっていた。

 まあ、それは、俺が女性のお酒を飲む姿をあまりにも見ていないからかもしれないが。

「おお、いい飲みっ振りじゃないか、彰油さん。ま、もう一つ…」

「あ、ありがとうございます。あ、ス、スイマセン、もう…」

 顔を、ポッと朱に染めて。

 それでも、お酒は別に嫌いではなさそうだ。

 やはり、この二人、親戚なのだろう。そんな所がよく似ている。

「あ、あの、鳴人さんは、来々軒のメニューのこだわりって、どう思います?」

 目元を可愛く弛ませて、尋ねられると、俺としても答えないわけにも行くまい。

 隣で、親父も機嫌よさそうにニヤツキながら俺を見ているのは、まあ、見ない事にしよう。


 お店での酒盛りに、れんげちゃんも参戦。

 いい飲みっぷりです。こういう絵になる姿は、ぜひ書きたいですね。

 作者権限ですので、その辺を自由に書けるのが、創作の醍醐味ですね。


 こうやって、親父もれんげちゃんも、鳴人君を煽ってるわけですよ。

 さ、さ、お前の本心を吐き出せ、吐き出すんだ。

 お前のラーメン愛を、存分に語りつくすがいいっ!

 

 

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