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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第6章 抱きしめる彼女、来々軒を語る親父、譲れないラーメン

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24 みのるちゃん

 新章開始。


 人見知りが、接客業のバイト?

 うわぁ、嫌だ、ありえないでしょ!


 いや、厨房なら、そうでもないぞ?

 だって、あっしでも出来てるし。しかも、長年、この商売を続けているんだぜ?

 でもなぁ、ソイツとは一日中、ずっと顔を突き合わせるんだぞ。

 気心が知れた奴じゃないと、イヤだろう?

 大学の帰り。

 いつもの、来々軒の前で。

 20人程の行列の後ろに並びながらも、俺は入るのをためらっていた。

 いや、ラーメンを食べたくないとか、そういう事じゃないんだ。

 そういう、事じゃない。

 それは、断じて、ない。

 バイトの件は「考えておきます」と言って、お茶を濁してはきたのだが。

 親父の「そっか、一つ、前向きに頼むよ」という、期待に満ちた目と。

 れんげちゃんの「鳴人さんと一緒に働けたら、本当に嬉しいです」なんて一言。

 いや、参った。

 本当に、参った。

 大体、俺は自分で言うのもなんだが、極端な人見知りである。

 こればっかりは、子供の頃からの性格で、もはや変えようが無い。

 これでも、一生懸命に直そうとはしたのだ。

 学校で、友達をつくろうと無理やり話題の輪に入ってみたり。

 部活やサークルに入ってみたり。

 でも。

 この性格がどうしても災いして、みんなと打ち解ける事が出来なかった。

 俺が、どんなに一生懸命にやっていても、溝が深まるばかりなのだ。

 必死に考えてなにか言ってみる度に、みんなの冷やかな反応や、異質な者でも見るかのような反応がたまらなく嫌だった。

 それが嫌で、たまらなくなって。

 俺は、こういう事を考えているんだ。

 俺は、こんな風に思っているんだ。

 俺は、こういうのは絶対にオカシイから、断固として反対なんだ。

 それを、大声で言ってみたり、付き合わせたり、実際にやって見せたりしていた。

 すると、決まって無視されたり、付き合ってくれなくなったり、追い出されてしまったり…

 せめて、勉強だけは一生懸命やろうと、努力した。

 その結果が、滑り止め以外の大学に全て落ちたという、結果だった。

 もう、どうでも良くなった。

 どうでも、いいはずだった…

「あっ、鳴人さんっ!もう、お待ちしていたんですよっ!」

 れんげちゃん、だ。

 少し、気が散っていたのかも知れない。

 彼女が目の前に来たのに、気付かなかったなんて。

「さ、早く。皆さんをお待たせしているんですから」

 さも当然のように、俺の手を握って店の中に引っ張って行こうとする。

「ちょ、ちょっと待って。俺、こんなんだから、バイトの件は…」

「何言ってるんですか?」

 れんげちゃんは、きょとんとした顔をすると、すぐに笑顔を返した。

「以前にも申し上げたじゃありませんか。早く食べて頂かないと、席が開かないんですよ」

「なっ…」

「さ、早くっ!」

 居並ぶ客たちの行列の前で、俺はれんげちゃんに手を取られ、店の中に入れられてしまった。

「ヘイイラッシャイッ!」

 親父の威勢のいい掛け声に迎えられて入った店内は、相変わらずの満席だった。

 しかし、行列の出来るラーメン屋特有の、あの殺気だった様子はない。

 落ちついて食べる事のできる雰囲気ではある。

 しかし、寒空の中、外で待つお客たちの事を考えると…

 やはり、店を広げるべきなのは、良く判る。

 それでも、俺は…

「んもうっ!早く座って下さいっ!」

 そんな俺を、れんげちゃんは可愛い声で急かす。

 いつもの、奥のカウンター席には、昨日と同じ「ご予約席」の札が立っていた。

 すでに、グラスとおしぼりまで用意されている。

「れんげちゃん、あの、俺…」

 こんな事されても困る…

「ご注文、お決まりですか?お決まりでしたら…」

 にこにこ笑って、完全無視を決めなくったって…

「い、いや、いつもの…」

「ハイッ!マスター、味噌ラーメン一丁ッ!」

「アイヨ!味噌ラーメン一丁っ!」

 ささっと、れんげちゃんがいなくなったかと思うと。

 もうラーメンを持って来ている。

「えっと、ほら、他のお客が先…」

「ご予約のお客様優先ですよ?お待たせしました、ごゆっくりどうぞ」

 お、お待たせって、全然、待ってないし…

 他の客たちも、別段不審な顔をしている訳でも無いか。

 大体、店に入りさえすれば、すぐにでもラーメンが出てくるんだし…

 それに、なにより、またこの出来立ての味噌ラーメンの旨そうな香りときたら!

 なんか、そんな些細な気遣いというか、無茶というか。

 そんなこと、ドウデモよくなってしまう!

 俺は、夢中で味噌ラーメンを頬張る。

 そう言えば、今回は「スペシャル」じゃないんだな。

 糸状のネギ、定番にしたのか…

「…醤油一つと、カレーライスをお願いします」

「スイマセン、カレーライスは、置いてないのですが…」

 ラーメンを頬張る俺の耳に、困ったようなれんげちゃんの声が聞こえた。

「ヤダヤダっ!カレーがいいっ!」

 母親と子供一人のペアだ。

 小学低学年位の、生意気そうなガキが駄々をこねていやがる。

「そうねえ、困ったわねえ…」

 母親も、戸惑った様子を浮かべながらも、子供の駄々をとがめる様子は無かった。

 この、ド阿呆が!

 こんな美味いラーメンを食わせる店に、カレーライスなんて置いとく訳ないだろうが。

 そんなものの為にガスレンジを一つ埋める位なら、スープ鍋の追加を温めた方がずっとマシだ。

 そんな事も判らないで、来々軒に来るんじゃないっ!

 俺は、つい、殺気だった目で親子連れを睨んでいたらしい。

 しかし、他の客たちも同じように親子連れを睨み付けていた。

 興味津々、というレベルではなく。

 俺以外にも“常連”は数多くいるらしい。

 そんな共通の連帯感のようなものが、スルドイ視線となってガキを貫いた。

 さすがに子供、敏感に周囲の雰囲気を感じ取ったらしい。

 だが所詮、ガキのやる事。

「ウワアアアァァァアアアン…!!」

 事もあろうに、泣きだしやがった。

「あらあら、これ、みのるちゃん、はずかしいから…」

 母親も、火に油を注ぐような事を言ってなだめようとしている。

 あのなあ…

 そんな甘っちょろい言い方してたら、ますますツケあがるに決まってるだろう!

 俺が、いっそつまみ出してやろうかと、席を浮かしあげた時。

 れんげちゃんが、母親に軽く会釈すると。

 ガキを、ムギュッと、抱きしめたのだ。

「…ゴメンネ。カレーライスは、ないの。でも、マスターが、もっと美味しいもの造ってくれるから、それで許してネ…」

 耳元で、優しく囁く声は、なぜか俺の耳にも、他のお客たちの耳にも届いていた。

 そしてガキは、ピタッと泣きやんだのだ。

 れんげちゃんは、子供の頭を軽く撫でると、母親に再び頭を下げ、調理場に向かった。

 親父に二言、三言、言葉をかけ、頭を下げると。

 なにか作り始めた。

 いくらもたたないうちに、調理場のレンジの辺りから派手な炎が吹き上げ、素材が高々と宙を舞う。

 同時に、ラーメンのものとは違う、香ばしい香りが店内を満たした。

「お待たせしました。ゴメンナサイ、これで許してネ」

 母親には、旨そうな醤油ラーメン。

 そして子供の方には、餡掛けヤキソバのような料理が、平皿に盛りつけられて運ばれて来た。

 どうやら、麺はラーメンのもので、その上に具材を餡掛け風にしたものらしい。

 どう見ても、カレーライスには見えない。

 有り合わせをなんとかまとめた、としか、思えない。

 それでも、れんげちゃんの精一杯の品なのだ。

 ガキャア、イヤダなんてぬかしやがったら…

 しかし。

 子供はおずおずと食べ始めた。

 そして、すぐに夢中になって食べ始めた。

 よほど美味しいらしく、顔すら上げない。

 れんげちゃんはにっこり笑って、どこへともなく(多分、俺たち全員に対して)頭を下げた。


 みのるちゃんに、罪はありません。

 こんなところにガキを連れてきたお母さんが、原因です。

 もっとファミリー向けのお店があるだろう?


 だってだって、どうしてもあの評判のラーメンが、食べたかったんですものっ!

 子供を一人で家に留守番させておくわけには行かないじゃないですか。

 だから、連れてくるしかないんですのよ。

 これだから、子育て経験のないラーメンオタクどもは…


 なにぃ、お前の方が場違いだっちゅーの!

 なんですって!誰しもが美味しいラーメンを食べる権利があるというものなんですよっ!


 ヤバいな、色々と書きたくってしょうがなくなってるな。

 こんな後書きで思考リソース使うなよ…

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