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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第5章 酒席に誘う親父、ご機嫌な彼女、来々軒のラーメン

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21 やっぱり、俺たちは似た者同士なのかもしれない

 人の気持ちなんて分からないけど、ラーメンのウマいマズイは分かります。

 このままじゃいけない、変わらなきゃならないのも、分かります。

 その後押しを、この旨いラーメンがしてくれるんです。

 です、けど…

 人の気持ちなんて、判らない。

 いつも顔を突き合わせている彼女の気持ちだって、判らないかも知れない。

 だから、俺は人が嫌いだし、なるべく関わり合いたくない。

 関わらないように今まで過ごして来たし、これからもそうするつもりだった。

 でも。

 彼女が、俺を変えていく。

 来々軒のラーメンが、俺を変えていく。

 腹の中から沸き立つような、この熱い思いが、俺を変えていく。


          ~ ・ ~


 店から客の気配が消えた時刻。

 何も手に付かなかったまま、気もそぞろに俺は来々軒に向かう。

 表口から入ろうかと思ったが。

 それも何だか野暮かも知れない。

 れんげちゃん、よそよそしいと思ってしまうかも知れない。

 俺は迷った末に、裏口から入る事にした。

「…こんばんわ…」

 まるで忍び込むみたいに、そっとドアを開けて覗いてみる。

 すでにお客は誰もいない。

 人の沢山いた、その気配、残り香が、一抹の寂しさと共に漂っていた。

 そんな中で、れんげちゃんが一心不乱にテーブルやカウンターを磨き上げている。

「…あのぉ」

「あっ、鳴人さん。どうぞどうぞ」

 にっこにこと笑いながら、手拭きで自分の手を拭いて、れんげちゃんはドアを開けてくれた。

「スープが無くなってしまったので、マスターが店を早く閉める事にしたんです。午後の分二百食が完売なんですよっ!」

 本当に嬉しそうに彼女が話す。

 俺も嬉しくなって、ついと店内を見渡すと。

 奥の方で、親父が俺を見つめていた。

 い、いたのか…

 いや、まあ、そりゃ、いるよなあ。

 店を閉めたばかりなんだし。

 逆に、いなきゃ変だし。

「忙しい所、悪かったなぁ」

「い、いや…」

 別に親父が苦手、という訳ではない。

 ただ、心の構えというか、予想していなかったというか。

 ただ、それだけの事なのだが、俺の心臓は駆け足でもしているかのようだった。

「マスター、後は私がやりますから…」

「そうか、じゃあ、すまないがよろしく頼む」

 ああ、親父、帰っちゃうのか。

 それじゃあ、れんげちゃんと二人っきりで試食会なのか…?

 だが、親父は片手にビンビール、もう片方にグラスを二つ持って、小上がりに上がった。

 俺に、向いに座るようにという雰囲気を漂わせて。

 親父と差し向いで、酒を飲めっていうのか…

 別に、嫌じゃないけど、こんな事初めてで。

 それでも、勝手知ったる来々軒。

 戸惑いなどおくびにも出さず、俺も小上がりに上がる。

「こんなものしかありませんが…」

 実にいいタイミングで、れんげちゃんがおつまみを持ってくる。

 具材のメンマとナルトを切ったもの。

 旨味たっぷりのチャーシューと、薬味として苦み走った新鮮な糸状のネギ。

 その味をよく知っている俺は、全く不満は無かった。

「あれ、栓抜きを忘れ…」

 親父がごそごそと探している。

 と、軽やかにれんげちゃんが瓶ビールを取り去り、魔法のような手つきで現れた栓抜きで、シュポンと開けてくれた。

「どうぞ」

 俺と親父にビールを接いでくれると、れんげちゃんは調理場に入って片付けの続きを始めたようだ。

「さて、何に乾杯しようか?」

 いつになく、くだけた口調の親父。

 というより、ラーメン屋の一国一城としての貫祿が出て来たようにも思えるし。

 それでも、昔の“やる気のない人生”を全身から発していたような元は残っているような気もするし。

「なんでもいいんじゃないですか?」

「それじゃあ、あの子に、ということで」

「それ、いいですね。じゃあ、れんげちゃんに」

「“れんげちゃん”に」

 グラスが、チリンと音を立てて響きあった。

 カウンターの向こうで、きょとんとした顔をして彼女がこっちを見つめている。

 思わず苦笑いを浮かべた俺の向こうで、親父も同じように苦笑している。

 やっぱり、俺たちは似た者同士なのかもしれない。

 ホント、人の気持ちなんて分からない。

 親父と差し向かいでビールを酌み交わすって。

 れんげちゃんと二人っきりで試食会じゃ、なかったのかぁ!


 なんて事は、言わない。

 別に、何でもないふりをして、小上がりに座り込むのです。

 男の、意地というか、カッコツケというか。

 好きな女の子の前で、みっともなくオロオロなんて、出来ないんです。

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