13 親父、必死だな… 俺も、必死で頑張るよ…
旨いラーメンは、みんな、よく分かるんですよ。
どこからともなく、お客さんが湧いてきますね。
その一人が、おれ…
俺の遅すぎた大学生活は、しかしまずまずといった滑り出しを見せていた。
自分より年下の連中が多い授業ではあるが、それなりに付き合う事は出来る。
そんな精神的余裕が、今の俺にはあった。
来々軒のラーメンが、俺にみなぎる活力を与えてくれている。
嘘も偽りもなしに、全くの掛け値無しに、俺は元気に大学に、バイトに明け暮れる毎日を送っていた。
来々軒といえば、日増しに客の数も増えていった。
「美味くて安い」
「腕が良くて威勢のいい親父と、可愛くてよく気の回る、元気な看板娘」
「清潔で小洒落な店内」
とくれば、客が入らないわけがない。
とりわけ「スープの美味さ」は全国区クラスである。
今はまだ、その真の味を理解できる客は、そう多くはない。
それでも、周囲に知れ渡るのは時間の問題だろう。
~ ・ ~
「いらっしゃいませっ!」
「ヘイイラッシャイッ!」
相変わらず、息のあった親父とれんげちゃんの声に出迎えられながら、俺は来々軒の暖簾をくぐった。
店内は、ほぼ満員に近い。
客たちの放つ「湯気」「熱気」がむんむんと伝わってくる。
みんな、黙々とラーメンに取り組んでいる。
麺をすする音。
スープを飲み干す音。
具を噛みしめる音。
静寂な“音”が、さらに来々軒を静けさへと導いていく。
食い終わった者のみが放つ「プハァ…」というため息が、幸せという雲となって、来々軒の空に浮かんでは消えていく。
ラーメンを待っている間にも、客が続々と入ってくる。
来々軒に、行列??
驚きかけて、しかしそれは当然の事と思い至った。
こんな美味いラーメン、滅多に食えるものではない。
並んでも食べたいのは、むしろ当然である。
それにしても。
れんげちゃんの顔から、笑顔が絶えない。
お客さん相手で、てんてこ舞いなはずなのに。
逆にそれが、彼女の活動力になっているみたいに、精力的に動き回っている。
しかも、調理場で親父の汗を拭いて上げる余裕すら伺われる。
親父も、汗だくになって麺を茹で上げている。
それでも、声は腹からはっきりと響き、「ヘイイラッシャイ!」「アリガトヤシタ!」を繰り返している。
親父、必死だな…
俺も、必死で頑張るよ…
熱くて美味いラーメンにやる気を吹き込まれ。
頑張る親父と笑顔のれんげちゃんに声を掛けられて。
俺は、幸せのたっぷり詰まった腹を抱えて、来々軒を後にした。
~ ・ ~
アパートに戻り、講義の資料を広げながら、ふと思った。
まあ、小さい店だから、大丈夫だとは思うが。
行列の出来る店は、必ずしも美味いとは、実は限らない。
毎日の大変さに、ついつい手を抜きたくなるものである。
黙っていても客がくるのだから、無理しなくても良いと思いがちになるのだ。
「ご当地ラーメン」「観光地ラーメン」「海の家ラーメン」などは、その代表といっても決して過言ではない。
一見さんの客にラーメンの味は判らないと思い、味の追求をついつい怠ってしまいがちなのだ。
しかし、客の舌はボケているようで、実は敏感である。
食べている時は「美味い」と感じても、後で思い出すことすら出来ない、表面だけの薄っぺらな味に成り下がる事もままあるのだ。
来々軒も、やがてそうなるのであろうか…
あの親父のことだ。
目一杯無理して働いてはいるが、本当に“続く”のだろうか。
俺如きが考える事では無い事は、充分良く判っている。
しかし、俺と親父は、なんとなく似ている。
あくまで、何となく、ではあるのだが。
そして、もし俺が忙しいラーメン屋の親父なら…
よそう、こういう考え方は。
今日は、疲れているのかも知れない。
俺は、それでもなぜか、ゆっくりと安らかに眠る事ができた。
腹の中でラーメンが「大丈夫、大丈夫…」と囁いている気がした。
やる気が出ない時。
元気が欲しいとき。
行きたくなるラーメン屋さんがあります。
ラーメンって、やっぱりイイもんですよね。




