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来々軒繁盛記 ~ 寒くなったねぇ。ここで、熱いラーメンを一杯、食べていきなヨ  作者: 白河夜舟
第4章 必死な親父、引っ越してきた彼女、別次元のラーメン

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13/38

13 親父、必死だな…  俺も、必死で頑張るよ…

 旨いラーメンは、みんな、よく分かるんですよ。

 どこからともなく、お客さんが湧いてきますね。

 その一人が、おれ…

 俺の遅すぎた大学生活は、しかしまずまずといった滑り出しを見せていた。

 自分より年下の連中が多い授業ではあるが、それなりに付き合う事は出来る。

 そんな精神的余裕が、今の俺にはあった。

 来々軒のラーメンが、俺にみなぎる活力を与えてくれている。

 嘘も偽りもなしに、全くの掛け値無しに、俺は元気に大学に、バイトに明け暮れる毎日を送っていた。

 来々軒といえば、日増しに客の数も増えていった。

「美味くて安い」

「腕が良くて威勢のいい親父と、可愛くてよく気の回る、元気な看板娘」

「清潔で小洒落な店内」

 とくれば、客が入らないわけがない。

 とりわけ「スープの美味さ」は全国区クラスである。

 今はまだ、その真の味を理解できる客は、そう多くはない。

 それでも、周囲に知れ渡るのは時間の問題だろう。


          ~ ・ ~


「いらっしゃいませっ!」

「ヘイイラッシャイッ!」

 相変わらず、息のあった親父とれんげちゃんの声に出迎えられながら、俺は来々軒の暖簾をくぐった。

 店内は、ほぼ満員に近い。

 客たちの放つ「湯気」「熱気」がむんむんと伝わってくる。

 みんな、黙々とラーメンに取り組んでいる。

 麺をすする音。

 スープを飲み干す音。

 具を噛みしめる音。

 静寂な“音”が、さらに来々軒を静けさへと導いていく。

 食い終わった者のみが放つ「プハァ…」というため息が、幸せという雲となって、来々軒の空に浮かんでは消えていく。

 ラーメンを待っている間にも、客が続々と入ってくる。

 来々軒に、行列??

 驚きかけて、しかしそれは当然の事と思い至った。

 こんな美味いラーメン、滅多に食えるものではない。

 並んでも食べたいのは、むしろ当然である。

 それにしても。

 れんげちゃんの顔から、笑顔が絶えない。

 お客さん相手で、てんてこ舞いなはずなのに。

 逆にそれが、彼女の活動力になっているみたいに、精力的に動き回っている。

 しかも、調理場で親父の汗を拭いて上げる余裕すら伺われる。

 親父も、汗だくになって麺を茹で上げている。

 それでも、声は腹からはっきりと響き、「ヘイイラッシャイ!」「アリガトヤシタ!」を繰り返している。

 親父、必死だな…

 俺も、必死で頑張るよ…

 熱くて美味いラーメンにやる気を吹き込まれ。

 頑張る親父と笑顔のれんげちゃんに声を掛けられて。

 俺は、幸せのたっぷり詰まった腹を抱えて、来々軒を後にした。


          ~ ・ ~


 アパートに戻り、講義の資料を広げながら、ふと思った。

 まあ、小さい店だから、大丈夫だとは思うが。

 行列の出来る店は、必ずしも美味いとは、実は限らない。

 毎日の大変さに、ついつい手を抜きたくなるものである。

 黙っていても客がくるのだから、無理しなくても良いと思いがちになるのだ。

 「ご当地ラーメン」「観光地ラーメン」「海の家ラーメン」などは、その代表といっても決して過言ではない。

 一見さんの客にラーメンの味は判らないと思い、味の追求をついつい怠ってしまいがちなのだ。

 しかし、客の舌はボケているようで、実は敏感である。

 食べている時は「美味い」と感じても、後で思い出すことすら出来ない、表面だけの薄っぺらな味に成り下がる事もままあるのだ。

 来々軒も、やがてそうなるのであろうか…

 あの親父のことだ。

 目一杯無理して働いてはいるが、本当に“続く”のだろうか。

 俺如きが考える事では無い事は、充分良く判っている。

 しかし、俺と親父は、なんとなく似ている。

 あくまで、何となく、ではあるのだが。

 そして、もし俺が忙しいラーメン屋の親父なら…

 よそう、こういう考え方は。

 今日は、疲れているのかも知れない。


 俺は、それでもなぜか、ゆっくりと安らかに眠る事ができた。

 腹の中でラーメンが「大丈夫、大丈夫…」と囁いている気がした。

 やる気が出ない時。

 元気が欲しいとき。

 行きたくなるラーメン屋さんがあります。

 ラーメンって、やっぱりイイもんですよね。

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