◇第一話
「――アリエス、まずは落ち着きなさい」
「ねぇ、お兄様、説明して……」
「……」
謁見室に呼ばれ、入ってみれば王座の前で国王であるお父様、王妃であるお母様に、王太子のお兄様が床に膝をついて何かを見ていた。広い謁見室に漂う重苦しく冷たい空気にいやな予感がして、煩い心拍数を無視しゆっくりと近づく。
彼らが囲っていたのは、小さな箱。白く陶磁器のように見える箱の中に入っていたのは……――骨。
一瞬にして、身体が凍り付いた。息が、出来ない。言葉が、出ない。
「たった今、アーデルへイド王国から使者が来て……クラリスを連れてきた」
お父様のその言葉に、まるで金づちで頭を殴られたような感覚に陥った。
箱に優しく手を添えて涙を堪えるお父様。口を抑えて涙するお母様。悔しい気持ちに床を叩きつけるお兄様。
「あぁ……何てこと……」
「あの悪魔め……アーデルへイド王国は一体何をしていたというのだっ!!」
嘘だ。
「……嫁いで2年も経った。だというのに、こうなってしまった訳も、死因すらも伝えられず、更には嫁ぎ先の墓にも入れてもらえないとは……」
嘘だ。
「これでは、クラリスが報われないじゃないか……!」
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……
その言葉が、私の脳内を埋め尽くした。
妹が、あんなに幸せそうに、リスクがあると分かっていても隣国に嫁いだ妹が、どうしてこんな姿になって帰ってきたの……?
ねぇ、どうして……?
一体、何があったの……?
「……アリエス? アリエスっ!」
――誰が、妹をこんな姿にしたの……?
その疑問と、信じられない現実に押しつぶされ眩暈を感じる。
『もう、アリエスは心配性なんだから。私は大丈夫だから、アリエスも元気でね!』
『はいはい、お幸せに』
『うんっ!』
脳裏に浮かんだのは、素敵なウェディングドレスを身にまとうクラリスだった。
私と血を分けた、双子の妹の笑顔だった。
流れる涙と共に、私の意識は静かに沈んでいった。
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