第60話:トラウマ
「舞桜、あなたにこれを託します」
そう言ってお母様は「舞」の継承者の印である緋扇を私にさしだしてくる。
「お母様、私はまだ11歳。小学生なんですよ?
私が緋扇を頂くにはいくら何でも早すぎます」
ぐいっとお母様に緋扇を押し返す。
「そうかしら?舞桜になら私はいいと思ってるんだけどなぁ」
「いくら何でも買いかぶりすぎですよ」
と拒絶の意を示すのだが
「もうっ!なら命令!受け取りなさい!」
『命令』大人の言うその言葉には人形は絶対に逆らえない。
「わかり...ました」
私が大人しく緋扇を受け取ると「よしっ!」と満足そうに頷くお母様。
「そうだ、舞桜刀は大切にしてる?」
刀とはつい最近頂いた黒い刀身のアヤメという銘の刀だ。
「はい。もちろんです。お母様」
「ならばよしっ!私のしなきゃいけないこともここまでかな?」
そんなどこか不安になるようなことを言いながらぎゅっと私を抱きしめてくれる。
とても暖かくて、心地良い。安心する。
「舞桜、私はいつまでもあなたのことが大好きよ」
「私も、大好きです。お母様」
ぎゅっと小さな身体で抱きつくようにしてそう言う私。
そして......そしてその日、お母様は死んだ。
「っ!?」
ガバッ!と飛び起きる。
呼吸が荒い。
「うお、大丈夫かよ...?悪い夢でも見たのか?」
「ここ...は?」
呼吸を整えつつ周りを見回すと目に入ってきたのは、見覚えの無い部屋に、見覚えの無い大きなベッド。
「俺の部屋だ。お前の寮に連れて行っても良かったんだが...。
さすがに服を弄るとはどうかと思ってな。仕方なくだ」
...あぁそっか、私勝手に一人でパンクして気絶しちゃったんだっけ?
「えっと......とりあえずありがとう」
「おう。あ、そうだ、ちょっとここで待っててくれ」
そう言って部屋の外に出ていってしまった。
セミダブルくらいはある大きめのベッドから降りてキョロキョロと周りを見回す。
特別散らかっているわけではなく、程よく片付いている。
...というより、もともとものが少ないようだ。
多分私と同じように依頼などで部屋を空けていることのほうが多く、そこまで使わないのためだろう。
ベッドのそばに私の制服の入った紙袋を見つけた。
ガサゴソとそれを漁り、スマホを取り出す。
時間を確認してみると10時前。
かなりの時間寝ていたようだ。
にしても、この部屋大きいね...。
この一部屋だけでも私の部屋の2部屋〜3部屋分くらいあるんじゃない?
確か入学時に説明されていたやたら高いVIP寮だ。
そんな話をしていた気がする。
あまり帰らない場所だし、そもそも最低限の生活ができればそれで良い。
私にとってお金がかかるだけでバカらしいから、ほとんど話を聞いていなかったので詳しくは知らないけど...。
言われた通りしばらく待っているとガチャリ、と扉が開いて漣が入ってきた。




