↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
73/152

70話「癒希様は私が保護すっから、お前は公園で亀とでも遊んでろ!」

ドタバタ回の第2話です。

よろしくお願いします。

 今年で70歳になるグラントは、数年前に妻を病で失った。そして彼も同じ病を患っており、歩くのも辛い状態である。息子夫婦は店を畳んでの同居を提案してきたが、グラントはそれも断った。

 孫と過ごす余生に惹かれないはずがない――それでも彼はこの店を離れようとは思わなかった。

 グラント&ローザ玩具店。その年季の入った椅子から天井を見上げれば、そこには帆船の大型模型。宙に吊られ、わずかに揺れている。波上を走っているかのように――


「結局、行けずじまいじゃったのぉ……」


 子供たちに夢を与えたい。そういった想いで開いたこの店は、近隣の人々からとても愛され、そして個人経営にしてはかなりの大型店舗だが、夫婦だけで切り盛りしてきた。子供が親になり、その子供がまたこの店を訪れる――そんな幸せの対価として、グラント夫婦の幸せはかなわなかったが。


『いつか、海の向こうに行ってみたいものですね』


 先立った妻の口癖であり、最期の言葉。思い出す度に激しい後悔に襲われる。が、夫婦で駆け抜けた多忙な日々は2人にとって間違いなく幸せだった。

 次の世でも一緒になってくれるだろうか。その答えは本人に訊かなくてはわからない。つまりもうすぐわかるということである。グラントの寿命は病に蝕まれ、ほとんど残って――


 ばきばきばきぃっ!


「なんじゃああああああああああああああ!?」


 グラントの感傷が、帆船模型と、ついでに天井ごと粉砕された。

 なにかが屋根を突き破って落っこちて(・・・・・)きたらしい。それを証明する意図でもあったのか、衝撃音がこれでもかと床にめり込む。


 ずしんっ!


「あああああああああああああああああああああああああ!?」


 先ほどの絶叫を引き継ぐように叫んだ後、グラントは椅子から勢いよく立ち上がった。

 なにかが落下したあたりは木屑や土煙がもうもうと立ち込めており、それを視認することはできない。が、そこにいるものの正体はわかった。


『癒希様!? 空中でいきなり頬を引っ張られますと、バランスの維持が困難になってしまいます!』

『――!』


 人間である。羽が生えているのかまではわからないが――そんなことを考えているうちに視界が開けた。そこにいたのは赤い法衣を着た男女。女性は白金色の髪で長身、男性は黒髪で小柄――少年である。


「神官様がなぜ空から!?」

「あの! 執拗に頬を引っ張る理由は何なのでしょうか!?」

「――!」


 グラントは割と切羽詰まった声で訊いたが、癒希はオリアナの頬をぐいぐいと引っ張り続けており、オリアナも困惑の表情で、癒希の手を頬から引き離そうとしていた。

 と――


 ががががしゃんっ!


「お次はなんじゃああああああああああああああ!?」


 正面のドアを突き破り、恐ろしく重いなにか――銀鎖の鞭(シルバー・ウィップ)が店内を右から左へと、洒落にならない威力で薙ぎ払った。それに続いたのは女性の怒声。神官戦士のヴァレッサである。


「オリアナ! 癒希様を保護したなら私に知らせろよ!?」

「そんな義務がどこにあるというのですか?」

「はあああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 ヴァレッサはお怒りモードで――半壊した――店内に踏み込んでくるや否や、猛獣がハムスターに思えるほどの形相で叫んだ。


「癒希様は私が保護すっから、お前は公園で亀とでも遊んでろ!」

「なんですって!?」


 オリアナもまたお怒りモードになってしまい、手練れた神官戦士のお姉さんたちは武器を構えて対峙した。彼女たちが全身にまとった闘志が玩具店全体を揺らす――と。


「比良坂さん!」


 黒いスーツを着た女性が――戦場となりつつある――店内に駆け込んで来た。国語教師のお姉さんこと矢木咬日織である。ぜえぜえと息を切らしながらも眼鏡の位置を直し、オリアナに訊く。


「比良坂さんについてお聞きしたいことがあるのですが?」

「すぐに片付けますので、ご安心ください」

「まったく答えになってないのですが!?」


 矢木咬は大声で指摘したが、オリアナは強敵(ヴァレッサ)に全神経を集中させているらしく、まともな返事は期待できそうにない――矢木咬は眼鏡の端をきらりと光らせ、懐に手を入れた。


 かっ!


 黒スーツの内ポケットから黒い輝きが迸り、矢木咬がそこからなにかを取り出した。

 円筒状の金属である。色は赤。彼女たちがいた世界では消火器と呼ばれている。スーツ内に“黒百合図書館”を展開し、そこから取り出したのだろう。教え子を――いまいち理解できない――危機から救うため、参戦する気のようだった。右手で消火器の本体を持ち、左手でホースを構える。さらに。


『癒希さん! ご無事ですか!?』

『フレア様、ちょっとヤバそうな雰囲気なんですけど!?』


 どたばたと11人の少女が店内に駆け込んで来た。護衛を伴ったフレアである。彼女はパステリアの、頬を引きつらせながらの叫び声にも耳を貸さず、周囲を見回した。直後。


 きゅぴーん!


「癒希さんの危機を察知しました! 私がお守りしなくては!」


 フレアは瞳に闘志(ガッツ)のお星さま(・・・・)など宿すと――不思議と可憐さを感じさせる――格闘の構えをとった。乙女の直感で色々と察したらしく、やる気まんまんといった様子である。護衛の少女たちも、こうなったらやってやるといった表情で短剣を抜き放つ――大乱闘(バトル・ロワイヤル)の役者が揃ってしまったようである。ヴァレッサが、にやりと笑ってから鼻孔を鳴らした。


「面白れぇ! 最後まで立ってた奴が癒希様の護衛だ!」


 他のお姉さんたちはなにも答えなかったが、代わりに闘志が答える。


 ごごごごごご……!


「て、店内で暴れるのはやめて欲しいのじゃがのおおおおおおおおおおお!?」


 店主であるグラントは商品棚の陰に避難しつつ叫んだが、残念ながらそれに取り合う余裕がある者はいなかった。4つの闘志が呼応するように膨れ上がっていき、店内の空気が急速に張り詰めていく。そして。


『はあああああああああああああああああ!』


 すべてが弾け、バトルロワイヤルが始まる――

不定期更新です。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。