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71話「僕とオリアナさんだけで行ってきます」

ドタバタ回の第2話です。

よろしくお願いします。

 首都から北東に馬車でかっ飛ばす(・・・・・)こと1日。僕たち3人は果実の村(ミレオレット)に着いた。

 理由はわかっていないみたいだけど、この村付近では季節を問わず、あらゆる果物が実をつけるらしい。僕がいた世界にも促成栽培というものがあったけど、もはやそんなレベルじゃない。

 だからこの村の経済はとても潤っているんだろう――村を囲む鉄壁(・・)の石壁、しっかりとした造りの家々、その他の設備諸々がそれを証明している。村規模の町だ。


(栽培の苦労はあるにしても、果物の出荷だけでこれか……)

 どこかに果物()の純金像が建てられているに違いない。

 ちなみにその出荷先にはルイ大帝国の町も含まれている。国単位では敵対していても、民間では多少の交流が許されているのなら、平和への道のりは閉ざされてはいないはずだ。けど。

 パステリアさんと彼女のお兄さんはご両親と一緒にルイ大帝国への出荷に赴き、その途中で盗賊に襲われてしまった。

 そしてたまたま通りかかった第3王妃――つまり星崎さん――の馬車隊に救出されて、ただ1人の生き残りだったパステリアさんはその時から護衛隊の訓練を受けることになったらしい。10年が経過した現在、パステリアさんは故郷の地に降り立った。ちなみにミニスカート(・・・・・・)タイプのメイド服を着ている――それに関しては些細な意見があるけど、似合っているから、まあいいや。


(迂闊なことを言うと蹴られるかもしれないし)

 僕より小柄なお姉さんは、僕よりすっげー(・・・・)狂暴だ。そんなことを考えながら村の門をくぐると、白銀の鎧を着た戦士――じゃなくて騎士が、不思議そうな顔で出迎えてくれた。

 年齢は20代半ばで、身長は180センチメートルくらい。長い銀髪はさっらさら(・・・・・)。そして100人中99人が美男子(イケメン)だって答えそうな端正な顔立ち。ちなみにその100人の中でノーと答えた1人は僕です。それくらい妬ましい。


(勝ち組ってこういう人のことを言うんだろうなぁ……)

 僕は彼の自信に満ちた佇まいを見て心の底から嘆息した。ちらりと横を見やれば、パステリアさんも面白くなさそうな顔をしている。今ならちびっ子(・・・・)連盟として意気投合できるかもしれない――自嘲気味な冗談はともかく、オリアナさんが驚いたような顔をした。


「聖騎士……ですか?」

「その通りです。名はエクセス。領主より、この村の防衛を仰せつかっております」

 さっらさら(・・・・・)な前髪をかき上げながらエクセスさん。あと1文字で表計算が特技になるところでしたね――なんて突っついたらみっともないからやめておこう。それはさておき、オリアナが聖騎士の説明をしてくれるみたいだ。


「聖騎士は女神の祝福を受けた者……」

 要は選ばれたものだけが就くことができる職業(クラス)。ゲームで例えるなら勇者ってところだろう。


(だったら大貴族の騎士団とかで重要な役職についているはずだけど……)

 いくら経済的に潤っているといっても、果物が豊富なだけの村に魔王は攻めてこないはずだ。

 そこの防衛程度では不釣り合いと言わざるを得ない――僕の視線に気づいたのか、エクセスさんがふっと笑った。SNSのフォロワー数が1万人増えそうなほどかっこいい。おでこに油性マジックで()と書いていいですか?

 ちびっ子(ぼく)の嫉妬の視線の先で、エクセスさんは右手のひらを自分の胸に当てた。真剣な顔を向けてくる――


「主との方向性の違いでここに遣わされたました。が、不満などありません。騎士は己が使命を全うするのみです」

『だよな、エクセス様!』

『応援してるわ!』

「……」

 遠巻きに集まっていた村の人たちから声援が飛んで来て、そしてエクセスさんは煌びやかなまでの笑顔を返す――絵に描いたようなイケメン騎士(・・・・・・)だ。


(久しぶりのジーザス……!)

 虚しい嫉妬が燃え上がる。と。


「時に、神官戦士と……メイドの方がなぜこの村に?」

「え?」

 イケメン聖騎士が不思議そうな顔で訊いてきた。

 メイドさんがいるのは確かに不思議だろう。けど。


神官戦士(ぼくたち)にまでその疑問を向けてくるのは、なんか変だ)

 オリアナさんが何かを言おうとした――その時。


「おお! おお! ようこそおいでくださいましたな!」

 70代くらいのお年寄り――村長さんだろう――が、僕たちの方に向かって歩いてきた。

 おぼつかない足取りだ。そう思った時、彼がすごい勢いで倒れ込んできた。その手がオリアナさんの乳房を――


 がしっ!


 掴む寸前、僕はその手を左手で引っ掴み、さらに右手で村長を受け止めた。そして視線が交差する。


『……』

 邪魔しおってからに。悔しそうな視線からそんな不満がありありと伝わってきた。

 僕は額に怒りのマークが浮かび上がらせ、そして瞼を半分だけ閉じた。怒りの半眼ってやつ。それに相応しい声音を意識して、一言だけ申し上げておこう――!


「足元には気を付けてください。怪我しますよ」

「こ……これはすまんのぉ」

 村長は頬を引きつらせながら僕の手から逃れ、それから、しゃきっと背筋を伸ばした。転倒したのはやっぱりわざとで間違いない。戦杖で元気に(・・・)してあげればよかった。


(まあ、オリアナさんなら避けるか蹴り飛ばすかできただろうけど)

 僕は村長――オスロさん――の名前を油断大敵リストの最上段に極太の油性マジックで書き記し、さらに赤線を引いて強調した。必要なら×(バツ)印を描くことも厭わない――僕は戦杖の射程範囲にオスロさんを捉えつつ、彼の説明に耳を傾けた。


「――ということですじゃ」

 この村のすぐ北にある森には2つの種族が住んでいるんだけど、どうやら森の領土をめぐって諍いが起きているらしい。

 そして果実の村は昔から、例の村同士のトラブルを仲裁する義務を負っていて、それを怠るとこの村は滅びてしまう――そんな言い伝えがある。けど2つの種族はずっと平和だったので、今の果実の村に仲裁するほどの戦力はなく、聖騎士エクセスさんは村の防衛が任務なので離れることができない。だから僕たちが呼ばれた。


「なんか面倒事を丸投げしたって感じだな」

「大変申し訳ないのですが、その通りですじゃ……」

 パステリアさんが呆れたようにそう言うと、オスロさんは申し訳なさそうに頭を下げた――次の瞬間。


「いきなり持病の腰痛があああああ!」

 そんなこと叫びながら前屈みになり、次いでパステリアさんに結構な機敏さで飛び掛かった。彼女の胸に右手を伸ばす――割って入ろうとはしたけど、僕とパステリアさんの間にはオリアナさんがいる。つまり少し距離がある。間に合わない――


 がしっ!


「ほんっと変わんねぇな、ジイサン!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 パステリアさんはオスロさんの手を捻り上げるや否や、見事な一本背負いで猥褻ジイサン――じゃなくてオスロ村長をぺいっと地面に放り投げた。村長は高齢とは思えない身のこなしで受け身をとり、それからぎょっとした顔で叫ぶ。


「その声――まさかパステリアか!? おお、おおおおおおおおおおおおおおお!」

『パステリアって……ヨザムさんのところの子か!?』

『亡くなったと思ってたけど……!』

 そして周囲の皆さんがざわめき始め、彼らの視線が一斉にパステリアさんへと向けられた。その中心で、辛そうな顔で俯くパステリアさん。


(……家族のことを聞かれるからだろう)

 10年前に亡くなったと思われていた人が目の前に現れれば、そういった話になって当然だろう。

 もちろん、村の人たちに悪意があるわけじゃないけど、1人だけ生き残ったパステリアさんにとっては辛い話になってしまう――その時。


『お姉ちゃん!?』

 村人たちの中から、僕よりも背の高い少女が飛び出してきた。咄嗟に戦杖を強く握ってしまったけど、彼女はパステリアさんに向かって駆けていき、そして勢いよく飛びつく――


 がばっ!


「本当にパスタお姉ちゃんなの!?」

 その少女は僕と同じくらいの年齢だけど、何度まばたきしても僕よりも背が高い――彼女の顔を見たパステリアさんが驚愕の表情になった。さらに声を引きつらせて叫ぶ。


「クリシーネ!?」

「昔みたいにクリスって呼んで! パスタお姉ちゃあああああん!」

「つうか背が伸びまくってる!?」

 パステリアさんが激しくショックなんか受けてることには構わず、クリシーネちゃんの熱烈な抱擁が炸裂した。


 むにゅっ!


「こっちまで伸び(・・)まくってんのかよ!? ちっくしょう!」

「えへへへへへへへへへへ!」

 村の人たちどころか、僕やオリアナさんまで完全に忘れ去ったらしく、クリシーネさんはわいわい――パステリアさんはぎゃあぎゃあ――と騒ぎ始めた。血はつながっていないみたいだけど、完全に姉妹だ。関係はそれ以上かも。


『……』

 そして2人を見守っている村の人たちは、誰もパステリアさんに家族のことを訊かない。心優しい人たちばかりってこと。ちょっと安心した。それはさておき、パステリアさんは地面に押し倒されてしまっているし、クリシーネさんも激熱の抱擁をやめる様子はない。百合姉妹という単語に興味と心が惹かれるけど、先にやるべきことを済ませたい。


「じゃ、揉みくちゃにされるので忙しそうなので、僕とオリアナさんだけで行ってきます」

「そうですね。10年ぶりの故郷を満喫してください」

「おい!? 私だって役に立つから――!」

「お姉ちゃん! 無事だったなら手紙くらい送ってよ! もう、そういうルーズなところもホント好き♡」

「やめろおおおおおおお!?」

 村の人たちが和やかな雰囲気で環視するなか、熱烈なキスをされるパスタさん。彼女をそのままに、僕とオリアナさんは村の北にある森へと向かった。

不定期更新です。

よろしくお願いします。

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