63話「もう思いつかないかな」
癒希×フレア回の6話目です。
よろしくお願いします。
「聖なる盾!」
「なん・だとぉ……!?」
戦杖を中心に展開された純白の光盾が、サーベルの斬り上げを受け止めた。
ノーマンさんはいきなり出現した盾を見て絶句してる――僕の能力が癒しだけだと思っていたんだろう。生命術士へのランクアップで得たスキルは、救いの風と聖なる盾の2つ。土壇場でのランクアップだったけど、それ以前の職業とはまったく違う――僕は握りしめた左拳を思いっきり突き出した。狙いはノーマンさんの細い顎。
がすっ!
至近距離、おまけに急所への一撃が大の大人を思い切りよろけさせた。
僕の人生設計のために、戦杖で追撃しておこう。
どかっ!
怖い目に遭わされたお礼も忘れちゃいけない。
鳩尾を狙っての体当たり。
ごすっ!
「ぐふぉあっ!?」
「もう思いつかないかな」
ノーマンさんは3連撃で向かいの壁まで吹っ飛ばされた後、ずるずると冷たい地面に倒れ伏す――やっと終わった。僕は戦杖を握ったままの両手を天井に向けてぐっと伸ばした。
「うーん、どうにか丸く収まった――」
緊張が解けたような声で言いかけた時、背後で気配が蠢いた。
そっちに振り向くと目を覚ました縁太君。彼は地面に這いつくばったまま、右手を向けてくる。痛々しいその手に握られているのはオイルライター。開閉式の蓋が付いていて、振ればかちかちと鳴らせるやつだ。
「喫煙――じゃなくて、まさか!?」
「おらあああああ!」
身を躱すと同時、縁太君がライターを振って蓋をかちりと鳴らした。その刹那、赤い光条が僕の脇を掠めて鉱山出口の先に着弾した。
きゅぼっ!
「ちょっとおおおおおおおおおおおお!?」
赤黒い超爆発と同時、爆風が鉱山全体を激しく揺らした。
爆発の規模に鑑みると、森の2割くらいが吹き飛ばされてしまっただろう。余波が鉱山を直撃し、天井から石や砂利が雨のように降り注いでくる。
がらがらがら……!
「崩落しちゃうから! 自分の能力がどんなのだか、いい加減に理解してよ!?」
「比良坂のくせに指図すんな! 死ねよ! げひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「縁太君――」
その振る舞いと言動は退場確定のキャラがするものだよ。そんなことを言っても無駄だろうから、別のことを言うことにした。こっちも無駄かも知れないけど、彼をどうにかしたくはない。
「君の言う通りにするから話し合おう!」
「うるっせええええええええええええええええええええええ!」
「やっぱだめか」
うん、まあ、思った通りだった。
眼は血走ってる上に、額には何本もの血管を浮き上がらせている。そんな人との話し合いを夢見るほど子供じゃない――僕は身を低くして縁太君への突撃体勢をとった。ライターの蓋が鳴らされるだろうけど、実戦経験と杖装備スキルがあれば素人の動きなんて時間停止状態と変わらない。でも。
がらがらっ!
「うわっ!?」
始めの1歩目を踏み出した時、頭上から大きめの石が降ってきた。横っ飛びで躱したけど、咄嗟のことで体勢は維持できていない――慌てて縁太君を視界に捉えると、右手のライターが真っ赤に輝いていた。さらにその輝きが増していく。最大火力を出すつもりなんだろう。
そして僕は横っ飛びしたので壁を背にしている。爆破を避けたら鉱山全体が爆破されてしまうかも知れない。もしそうなったらオリアナさんやブリジットさんまで――
「あのさ! 本気で怒るよ!?」
「ひゃっはああああああああああー!」
縁太君は完全に目がイっちゃってる状態だ。こうなったらもう、彼をどうこうするしかない。僕は戦杖を両手で天井に向けて突き出した。本日2度目の一か八かの大勝負。それを見た縁太が狂気の笑みを浮かべる。
「ひおちゃんもすぐに送ってやるから安心しろよぉおおお!」
「へえ! 人生フィニッシュの自爆スイッチを押したって分かってるかな!?」
僕を中心に純白の輝きが集束を始め、縁太君のライターも赤黒い輝きを増していく。
チート対チート。超強力な爆破同士の激突。どちらか、またはどちらも死ぬ――でも退くわけにはいかないし、負けるわけにもいかない。死んでも勝つし、殺してでも勝つ。
「女神によろしく!」
「なに言ってんだぁ!? 死ねよ!」
眩い白と昏い赤が炸裂する――
ざしゅっ!
「え!?」
「げ……!?」
その直前、紅蓮の輝きが縁太君の腹部を貫いた。飛んできた方を見やれば、ノーマンさんが壁に寄りかかった状態でサーベルを突き出している。炎の刺突を飛ばしたんだろう。それはさておき、縁太君は地面をごろごろと転がりだした。出血も激しい。
「超痛ええええええええ!?」
「すぐ治すからじっとしてて!」
「うるせえんだよおおおおおおおおおお!」
僕は駆け寄ってヒールをかけようとしたけど、縁太に思い切り突き飛ばされてしまった。尻もちをついた僕にライターが向けられる――
「治療しないと死んじゃうよ!?」
「お前が死ねえええええ!」
「じゃあ、しょうがないよね!」
そう叫び返しながら、僕は戦杖を投擲しようと振りかぶった。縁太君の能力は対象だけを爆破するものだから、右手に向かって戦杖を投げつければ、僕や鉱山を標的から逸らせるかも知れない。
ごちんっ!
それよりも先に天井から崩れ落ちてきた大きめの石が、縁太君の頭頂部を直撃した。彼は少しの間だけ、落石を頭で支えていたけど、ふらりとよろけると、それから地面に倒れ伏した。
「縁太君!」
僕は慌てて駆け寄ってヒールをかけた――でも何も起きない。困惑していると、縁太君は青い輝きになって解け消えてしまった。
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