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62話「人生設計を狂わされそうなので、やっぱいりません!」

癒希×フレア回の5話目です。

よろしくお願いします。

 僕は間合いを測っている。戦杖とノーマンさんの細身の剣(サーベル)はほとんど同じ長さだけど、腕の長さの分だけこちらが不利だ。ついでに僕のすぐ後ろでは縁太君が健やかに眠っている。その分を含めると、かなり不利。彼を台車で撤去してもらいたいけど、ここは封鎖特区という無法地帯だから審判もいない。それはさておき。


(縁太君を守らなくちゃならないから、この場を動けない。きついな……)


 ヒールがあるから多少の無理は利くけど、やっぱり痛いのは嫌だ。と。ノーマンさんが左腕だけで肩を竦めて見せた。やっぱりやめましょう――そんなことを言ってくれることを期待なんかしつつも、僕はサーベルから目を離さなかった。相手は正真正銘の戦人(いくさびと)というやつなんだから、勝つためならなんでもしてくるはずだ。


(奇襲だってお手のものなはず)


 戦杖を握る手に自然と力が込められる。それを見たノーマンさんが嘆息混じりに口を開いた。


「人質を取る気はありませんので、存分に戦って頂ければと」

「……」


 細目の人に殺気全開の表情でそう言われても、ちょっと困るっていうか信用できない。でも。


(アラスタさんの承認なしに縁太をどうこうするのはまずいはず)


 それならそもそも戦う必要もないって話だけど――思考を働かせた瞬間、ノーマンさんのサーベルが鋭い弧を描いた。


 ふぉん!


 かっこいい感じの風切り音と同時、サーベルの切っ先が僕の髪を少しだけ薙いだ。ノーマンさんは、恐ろしく洗練された動きで次撃の予備動作に入る――髪型のセットに45分かけるタイプじゃないから、僕も髪の乱れを気にせず、応戦の戦杖を振り上げた。


 きん!


 サーベルの振り下ろしを戦杖が真正面から受け止めた。十字に交差した剣と杖。それを挟んで伝わってくる殺気は冗談やふり(・・)の類とは思えない。殺気の匂いの香水じゃないのなら、やっぱり縁太君を殺すつもりだ。ノーマンさんの言動と矛盾するけど、こうなってしまったら僕のコマンドはたたかう(・・・・)しかない。


「大切なご友人を守りたいのなら、私を倒すしかありませんよ」

「はっきりと言っておきたいんですけど、縁太君は大切でも友人でもありません。とりあえずはまあ、クラスメイトなだけなので」

「ふうむ、癒希様はつくづく良い性格をしておられますな」


 ノーマンさんは感心したように頬を緩めて嘆息した。けど、サーベルの燃え盛る炎で陰影が強調された彼の顔は、すっげー(・・・・)恐ろしい。


「ところで笑顔が怖いって言われませんか?」

「しばしば言われてしまいますね。笑顔が怖いとは、まったく不思議な現象です」


 世の中には殺ス(・・)笑顔っていうのがあって――いや、説明するのは残酷な気がするからやめておこう。他にすることがあるし。


「えいっ!」

「むう!?」


 僕は戦杖の頭(・)を斜め後ろに引いてサーベルを受け流しつつ、力いっぱいに振り上げた。それをついっ(・・・)と下がって躱すノーマンさん。サーベルを地面に突き立てるのが見える――


 ぼぼっ!


「うわっ!?」


 そこから炎が走り、僕の足元で豪快に爆ぜた。魔法の武器が発した炎だからか、かなりの熱量だ。思い切り距離を取って仕切り直しといきたいけど、縁太君から離れすぎるのもまずい。だからこの場に踏みとどまるしかない。


「熱(あっつ)いな、もう!」


 高熱の火片が飛散する中、叫んだ――その時、ノーマンさんが大きく踏み込んできた。気配では察知していたから迎撃体勢は整ってる!


 がんっ!


「その武器かっこいいですね! 僕にも作ってくれませんか!?」

「ブリジット様と一夜を共にして頂ければ武器だけと言わず、鎧から結婚指輪まで喜んで制作させて頂きましょう!」

「人生設計を狂わされそうなので、やっぱりいりません!」


 自分でもよく分からないことを叫びつつ、僕はノーマンさんと武器を交えた。

 戦杖対炎のサーベル。そして回復術士対騎士でもあるし、それは術系クラス対近接クラスとも言い換えられる――


 がっ! きききききんっ! がぃんっ! 


「うわあっ!?」


 とんでもない速さの水平斬りを受け流しきれず、僕は防御体勢のまま壁まで吹き飛ばされてしまった。サーベルの切っ先で地面を削りながら、ノーマンさんが突っ込んでくる。


「癒しの奇跡ですが、右手がなくなっても使えますかな?」

「まじで!?」


 ヒールは左手でも使えるだろうけど、自分の右手が宙を舞う姿なんてロケットパンチ以外で見たくない。他人のでも嫌だけど。それはさておき、僕は短杖を投擲するために取り出そうと――して思い出した。


(ブリジットさんに投げつけちゃったんだ!?)


 すかった(・・・・)左手を法衣の中から引き抜いた時、サーベルは僕の右手を狙って斬り上げられていた。激しい火花を噴き出しながら迫る強威力の斬撃は片手持ちの戦杖じゃ止められないし、両手持ちにする時間もない。つまりサーベルを止められない――止められる! 今の(・・)僕にはそれができる!

更新は毎週日曜日です。

よろしくお願いします。

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