表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/92

38話「はああああああああああああ!? うっっっそでしょ!?」

癒希がやり返す回の16話です。

よろしくお願いいたします。

 あの後、先生には図書館を閉めて教会に来るよう頼んでみたけど、再び心のシェルターを降ろされてしまったから教会の護衛チームが見守ってくれることになった。そして暗殺者との戦闘が予想される任務に奇蹟の子(ぼく)の参加許可が下りるはずもなく、この1時間くらいの間、自室で悩み顔をしている。


(……先生が狙われた理由がわからない)

 本当にこれが分からない。

 あの図書館が薬物の蔓延防止に一役買っているにしても、この町は広い。買い手なら――残念ながら――他にたくさんいるだろう。真っ昼間から刃傷沙汰(にんじょうざた)を起こす理由にはなりえない。

 そもそも殺人は大事件だ。行政と上手くやっているはずの盗賊ギルドがこんな危ない橋を渡るだろうか――そこまで考えた時、僕の頭の中でピンポン! という音がした。クイズ番組のあれだ。それはさておき。


(……今回の襲撃って、盗賊ギルド全体の決定なのかな?)

 司会者がはきはきと正否を答えてはくれなかったけど、もしかして――思考のドアを開ける寸前、部屋のドアが勢いよく、しかし無音で開かれた。前髪に静かな風を感じながらそっちを見やれば、オリアナさんが気配もなく立っている。

 どこか焦ったような表情の神官戦士のお姉さんは、やっぱり音もなく床を蹴って僕の方に突っ込んできた。あまりの素早さに身構えることもできない――そんなことを考えてる間に両手で頬をむぎゅっとされてしまった。


「えっと……」

 目を瞬かせながらオリアナさんの顔を見つめると、彼女の額には冷や汗が浮かんでいる。すっげー(・・・・)焦ってるのは疑いようもない。それは僕の頬をむにむに(・・・・)し始めたことからも明らかだ。それともこの世界では頬を揉むことで鎮静効果が得られるのかな――


「矢木咬様が逮捕されたと護衛から連絡が入りました!」

「はああああああああああああ!? うっっっそでしょ!?」

 思わずオリアナさんの頬を揉みしだいてしまったけど、やっぱり鎮静効果は得られなかった。 

 騎士団は外部の敵から人々を守り、警備隊は内部の敵――要は犯罪――から人々を守るらしい。

 どちらも守るための組織であり、騎士団と警備隊のどっちが偉いとかはないとオリアナさんが教えてくれたけど、小さく嘆息してたから、まあ、そういう(・・・・)ことなんだろう。右手と左手の仲が悪いのは、僕がいた世界の組織でもよくあることだ。

 それはさておき、僕は首都(メリーダ)の警備隊すべてを統括する、メリーダ警備隊中央局。その真ん前に立っている。警察署というよりは要塞とか基地って言葉がしっくりくる外観だ。行政やら司法やらのお役所が密集した区画にあるから、人通りもかなり多い。


(教会が手を回してくれたらしいけど、まだ釈放されないのかな……)

 僕は話を聞かされてすぐここに飛んできて、それから3時間くらいこの場に立ち尽くしている。

 今は太陽さえ勤務時間を終えつつある時刻――要は夕暮れ時だ。身なりも貧しい子供が1人で立っているのは目立つらしく、通りを行く人たちが怪訝な視線を向けてくる。僕がいた世界で例えるなら、子供が警察署の前でそわそわしてるわけだから当然かな――でもそんなことはどうでもいい。


『先生が逮捕された』

 この衝撃的な現実の前では、たとえ目の前で魔王が復活したとしても気にならないだろう。

 魔王は高笑いを無視されてしょんぼり(・・・・・)するかもしれないけど――それも今はどうでもいい。


(チート弁護士の能力をもってたら今すぐ先生を助けられるのに……)

 僕は気づかないうちに松葉杖のグリップを強く握っていた。

 そのまま待つことしばし――御立派(・・・)な扉を内側から押し開けて、先生が出て来た。数時間に及ぶ取り調べで疲れたのか、足取りはふらふらしている。

 

「先生!」

「…………比良坂さん?」

『……』 

 僕が先生に駆け寄ると、扉の左右にいた警備兵たちがじろりと睨みつけてきた。オセロみたいにひっくり返るわけじゃないけど、居心地は良くない。


(夕焼け色に染まった警備兵たちを眺めても郷愁感は得られそうもないし……さっさとここを離れよう)

 先生に肩を貸して適当なベンチまで案内すると、彼女はよろけつつも何とか腰を下ろした。

 元から線が細い人だけど、憔悴したような表情と相まって病中にさえ見える――かなり消耗してるんだろうけど、話を聞かせてもらわないと助けになれない。


「……なにがあったんですか?」

「……」

 先生は細い指で髪を梳いてから話してくれた。 

 どうやら警備隊が暗殺者襲撃の件を捜査中に図書館の本棚の裏から違法な品を発見したらしい。

 犯罪者が色々な場所にブツ(・・)を仕込むことはよくあるけど、あの図書館には先生が住んでるから本棚の裏に仕込むのは不可能。先生のものだと断定されてしまったらしい。

 とにかく否認し続けたから拘留は避けられたけど、捜査は続けられる――警備兵が配置された日に襲撃があって、さらに違法な品まで発見されるなんて偶然が重なり過ぎてミルフィーユになってる。

不定期更新です。

よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ