39話「オリアナさん、この木って蜘蛛がたくさんいたりします?」
癒希がレベルアップする話の第1回です。
よろしくお願い致します。
(そもそも襲撃事件で本棚を調べる理由って何?)
僕が戦った暗殺者は絵本から飛び出してきたわけじゃない。
そして先生が図書館に住んでるなら他人が仕込むのは確かに無理だ。開館している時も人の目がありすぎる――図書館の前で騒動とか起きて人々の視線がそっちに向けられでもしない限りは不可能だ。つまり――
(あの襲撃自体が仕込みだったんだ)
図書館にいた人たちの注意を外に向けておいて、その間に警備兵たちが違法な品を本棚の裏に仕込んだとしか考えられない。
暗殺者たちが真っ昼間から襲ってきたとか、小剣を持っていたのに最初は短剣で襲ってきたとか、途中から標的を僕に移したとか、その他諸々の妙なことの説明がつく。
先生が狙われた理由はやっぱり分からない――でもログスたちが薬物に絡んでるのは確実だ。
『平和を担う者たちが犯罪に加担していた』
ドラマとかではよくあるけど、実際に遭遇すると腹立たしいにも程がある。税金を返せっていう言葉で場外ホームランにしてやりたい。
そして教会が手を回してくれなかったら、先生はまだ取調室にいただろう――額に怒りのマークが何枚も貼り付いていくのを感じる。
(このヘビー松葉杖であいつらを餅つきの刑に処してやる――)
でも捏造した証拠はないから、僕はここで奥歯を軋ませているしかない。
と――先生がよろよろと立ち上がった。
「では、これで失礼します……」
「はい!?」
表情はさっきと変わらず辛そうだし、この状況で独りにはできない。
「あの! 安全で清潔で3食昼寝お洗濯付きの部屋に無料で泊まれる方法があるんですけど、興味ありませんか!?」
「そんないかがわしい言い回しをどこで覚えてきたのですか?」
主にインターネットと漫画です――と答えるのは正解じゃなさそうだ。
僕が言葉の選択に迷っている間に先生は立ち去ってしまう――その時、右膝のあたりを抑えて苦しそうに呻いた。脳裏にディナさんの言葉がフルボイスで再生された。
『警棒で足をぶっ叩いてきやがんの!』
あの時は話半分に聞いてたけど、取り調べ中に暴力を振るうなんて、まさかそんなこと――あり得ないとは思うけど、万が一の可能性を考えて訊いてみよう。
「あくまで1万分の1の確率としてお訊きしますけど……ログスに足を叩かれたんですか?」
「……比良坂さんには関係ありませんが?」
先生は答えてくれなかったけど、表情がすべてを語ってる。ジーザス! ログスに関しては餅つきで済ます自信がない。
僕がいた世界にはハンマーで砕いて食べるお菓子があるんだけど、それくらいしてやらないと気が済まない。なんていう名前のお菓子だっけ――それを思い出すよりも先に先生の傷を癒さないと。
「すぐ治しますから安心してください」
「必要ありません……」
「……」
僕はヒールをかけようとしたけど、先生は逃げるように歩き出してしまった。よほどひどく叩かれたのか、やっぱり足取りはおぼつかない。
「あっ……!」
案の定、先生は数歩も歩いたところでバランスを崩してしまった。
僕は支えようと手を伸ばした――けど、その前にすさまじい速さで現れたオリアナさんが先生を抱き留めてくれた。白金色の髪に葉っぱがついているから、街路樹の茂った枝葉に隠れていたのかな。ちなみに彼女の肩には小さな蜘蛛がついている。
「っ……!」
先生はそれを見て頬を引きつらせたけど、神官戦士のお姉さんはまったく気にした様子がない。戦う職業の人にとっては小さな蜘蛛なんか小石みたいなものなんだろう――飴玉みたいなものでは決してありませんように。
それはさておき、豆粒サイズの蜘蛛が変身3段階目の魔王にでも見えるらしく、先生が顔を青ざめさせた。
「速やかに放して頂きたいのですが!?」
「いいえ、絶対に放しません」
先生はかなり深刻そうな表情で体を捩ったけど、オリアナさんは放さない。国語辞典を引き裂く腕力でも発揮しない限りは逃げられないだろう。オリアナさんはどこか神妙な声で続けた。
「貴女は女神の使徒にして癒希様の導き手です。図書館まで護衛させて頂きます」
「まずは放して頂けると嬉しいのですが!?」
対して先生は10年に1回のレベルですかってくらい取り乱してる。蜘蛛がすっげー苦手みたいだ。ちなみに僕も得意ってわけじゃない。
それはさておき、先生は涙目で睨みつけたけど、いまいち話が噛み合ってないからオリアナさんは放そうとしない。
(まあ、僕が蜘蛛を木に戻せば済む話なんだけど――でも)
せっかくだから蜘蛛さんに先生の説得を手伝ってもらおう。手が8本もあるんだから喜んで手伝ってくれるに違いない。脚だけど。まあ、いいや。
「オリアナさん、この木って蜘蛛がたくさんいたりします?」
「ええ。この木自らが蜘蛛が好む匂いを放っています。害虫から身を守るためという説が有力です」
「じゃあ、素晴らしく茂った枝葉の中で、先生とゆっくりお話をしてくれませんか?」
「比良坂さん!?」
「かしこまりました。では矢木咬様、樹上で話しましょう。それはそれはゆっくりと」
「ひ――!」
オリアナさんが跳躍のために身を屈めた瞬間、先生はピーマンサラダのゴーヤドレッシングがけでも頬張ったみたいな顔で、図書館までの護衛を快諾してくれた。
不定期更新です。
よろしくお願いいたします。




