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22話「かかってこい!」

癒希がやり返す回の1話です。

次話がすぐに投稿されます。

よろしくお願いいたします。


「もう大丈夫ですよ」

『……!』

 親指だけを立てた拳を向けてそう言うと、アゾリアさんは目を見開いて絶句した。

 ただのグッジョブですけど、僕なにかやっちゃいましたか?

 もしかして、この世界では卑猥なジェスチャーなんだろうか。それをアゾリアさんに向けてしまったんだとしたら、大地を吹き飛ばす勢いで怒鳴られてしまうに違いない――冷や汗なんか浮かべた時、フレアさんがふらふらと立ち上がった。

 そして僕の方を向いた途端、彼女も体をびくりと震わせて絶句してしまった。


(……やっぱりマズいジェスチャーなんだ)

 僕は右手を素早く腰の後ろに隠してからごまかしの笑みを浮かべた。


「えっと、もう大丈夫ですよ?」

 それからメスが飛んできても防御できるように戦杖を右手に持ち替えたけど、アゾリアさんは絶句したまま僕の顔を見つめている。よく見ると、視線は僕の後ろに向けられているみたいだ。

 実は生きていたカァムさんが立っているのかな――そんなことを考えながら後ろを振り向こうとした瞬間。


『ゾレハドガナア!』

「え!?」

 ちょっと聞いたことのない怒声を張り上げられて、僕は慌てて声の方に振り向いた。

 そこには、なんかもうめちゃくちゃな体勢でゴンザロスが倒れていた――その後ろには3人の黒鎧兵が額に怒りのマークを浮かべて立っていた。結構なダメージを受けたらしくて全体的に痛々しい。

 彼らが両目を充血させている上に狂暴な形相なのは、大ダメージを食らってぶち切れてるからなんだろう。それにしても、鎧や盾の防御力を無視する最終奥義に耐えるなんて信じられない。

 肉体が鋼でできていない限りは戦闘不能にできるはずなのに――いや、ゴンザロスの陰に隠れたならあり得る。

 ゲーム内のシャイニングレイジは防御力を無視するけど、地形効果の影響は受ける。現実世界の地形効果は遮蔽物ってことなんだろう――それ以外には考えられない。つまりゴンザロスは壁にされたってことだ。部下に恵まれたね、ゴンザロス。


『ゴノガキガブッゴロシテヤリュウ!』

『クビリゴロジデツブジゴロジデヤル!』

 それはそうと黒鎧兵たちは怒りのあまり、異界の言語っぽいなにかでまくし立て始めた。

 理解不能だけど、物凄い剣幕だから仲直りしようって意味ではなさそうだ――つまり戦闘は続く。こっちは戦闘員が僕しかいないからまずい。もっとまずいのは、その僕が最終奥義を使った直後だってことだ。

 最終奥義は強力だけど、使うとMP(メンタル・パワー)を全消費してしまうからヒールはしばらく使えない。

 僕は“精鋭兵(エリート・ソルジャー)”の3人を相手に杖1本で戦わなくちゃならないってことになる。森で麻痺効果のあるやくそう(・・・・)でも拾っておけばよかった。


(どうする!?)

 僕の筋力じゃあいつらの鎧を砕けない。

 そしてヒールが使えないならクリティカル・ストライクを狙っての耐久戦も厳しいだろう――


「アゾリアさん! みんなと避難してください!」

「全員司令塔に走れ! 扉を封鎖して信号弾を撃て!」

『はい!』

 跪かされていたアゾリアさんの部下たちは一斉に立ち上がると、見事な2列縦隊で司令塔に走った。あの人たちは文官や医療従事者なんだろうけど、軍属だからきびきびしている。

 それはそうとフレアさんは避難する様子がない。

 侍女のみんなも法衣の下から短剣を抜いて構えてる――フレアさんに最期までついていく覚悟なんだろう。


「馬鹿なことを考えずに避難しろ!」

 改めて指示が下されたけど、やっぱりフレアさんたちは動かない。何を考えてるかはわかる。そして、その考えは絶対に間違ってる。


「フレアさんのせいじゃないんですよ!?」

「……あなたは本当に優しいのですね」

 僕は掛け値なしの本音を叫んだけど、悲しそうな笑みが返ってきた。原因は上の連中(・・・・)がゴンザロスみたいなゴミを任務に就かせたからだっていうのに――


『ドイヅモゴイヅモブチゴロジダ!』

『モヂロンダァ!』

『ドウゼンダビョナァ!』

 それはそうと、黒鎧兵たちは理性を失ってまではいないらしくて会話が成立してる。怒りに任せて獣みたいな戦い方をしてくれれば、まだ勝てる可能性はあっただろう。さらに――


 ぼっ!


「錬怒!?」

 ゴンザロスほどの威力はないにしても、MPゼロの回復術士(ぼく)にとっては致命的だ。つまりフレアさんを守れない。


「癒希! あなたは逃げなさい」

 それはとても理性的な提案だ。

 目的が達成できないなら被害は少ない方が良いに決まってる――戦ってもフレアさんを守りきれないなら、僕だけでも逃げ延びた方が得に違いない。でもそれを選択してしまったら、カァムさんまで負けたことになる。


『攻め込んできた連中は僕たち(・・・)が返り討ちにしました。お疲れさま』

 これが僕好みの展開だ。絶対に譲らない。

 一人前の神官でも子供だからわがままを言わせてもらう――僕は戦杖を黒鎧兵たちに向けた。


「かかってこい!」

『ダアアボッシュアウィラウゼ!』

 人語ですらないなにかを叫びながら、黒鎧兵たちが一斉に鎚を振り上げた。

 迎撃するのはMPゼロの回復術士(ヒーラー)。ゲームなら修正パッチ必須のステージだけど、カァムさんに懸けて負けるわけにはいかない。


(関節を狙えば……!)

 可動部は装甲がないから、僕の腕力でも骨を砕けるはずだ。 

 鎖帷子とか着けてたら、それこそ骨が折れるってやつだけど――これ以上は考えても意味がない。やれることをやるだけだ。

不定期更新です。

よろしくお願いいたします。

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