23話「いっくぞー!」☆☆
「いっくぞー!」
僕は右端の黒鎧兵に向かって全力で駆けた――瞬間、背後で純白の輝きが弾けた。
思わず振り向くとフレアさんが眩い輝きを放っていて、さらに両手を天に向けて突き出している――それはどこかで見たことがある絵面だった。
「フレア・ホシザキ・ルイが契りと共に命じます。守護なる聖霊よ、癒希に永遠の護りを。エンジェリック・フォース!」
「――!」
深夜アニメで見たことがある。たしか少女向けマンガが原作で、聖女の主人公がイケメン騎士に無敵の鎧を与えるって内容だ。
もちろん僕がいた世界での話――10秒以内に答える必要があったかはわからないけど、ゲス女神から貰った能力なんだろう。フレアさんは僕と同じ世界の人ってことになる。
それはそうと輝く重鎧が僕の全身に形成されていく――でもホリマスのヒーラーは金属鎧を装備できない。
つまり本来の筋力だけで重鎧を支えなくちゃならないってことだ。フレアさんは僕の背筋力がどのくらいかを知らないから――
ずしゃっ!
重鎧が形成された瞬間、僕はその重さに耐えきれず、地面に両手と両膝をついてしまった。
全身にあらん限りの力を込めたけど立ち上がることすらできない。戦うには僕が5人は必要だろう。
「こ、この鎧を解除してください!」
「え!?」
当然と言えば当然だけど、フレアさんは思いっきり困惑したみたいだ。
まさか騎士がここまで貧弱だとは思ってなかったんだろう――回復術士ですけど、なにか?
『ブワジュエゴギリョオオオ!!』
そして僕の窮地に遠慮なんかするはずもなく、黒鎧兵たちが一斉に鎚を振り下ろした。
がんっ! ごぎっ! がぎんっ!
「……あれ?」
錬怒付きの鎚で殴りつけられたはずだけど、まったく痛くない。ダメージどころか衝撃すらないなんて、さすが能力だ。
黒鎧兵たちはそれでも何度か殴りつけてきたけど、僕にダメージはない――動けないから気分は最悪だ。浦島太郎の亀がいたずらされてた時はこんな気分だったんだろう。
『もういい!』
『ああ! だなっ!』
僕を殴ったことで冷静さを取り戻したのか、黒鎧兵たちは舌打ちしてからフレアさんの方に向かった。
お姫様のピンチに気合を見せたいところだけど、僕は立ち上がることすらできない――
「お願いですから逃げてください!」
心の底からの叫びも届かず、フレアさんは動かない。
侍女のみんなは腰を低くして戦闘態勢に入ったけど、短剣じゃ黒鎧兵たちには文字通り刃が立たないだろう。
「フレア様をお守りしろ!」
『それしか言えねぇのかよ、ゴミが!』
『邪魔するなら死ね!』
そして黒鎧兵たちが襲いかかる――その時、アゾリアさんがいくつかの球体を黒鎧兵たちに投げつけた。
カラーボールくらいの大きさで真っ黒。砲弾のミニチュアに見える。
ぼっ!
「返すぞ!」
『ぎゃあああっ!?』
それらが着弾した瞬間、黒鎧兵たちはまとめて炎に包まれた。
空気と反応して発火する化学物質だったんだろう――でも重鎧相手には火力不足と言わざるを得ない。
『あっちぃだろうがぁっ!』
「知っているとも!」
怒り狂った精鋭たちが一斉に鎚を振り上げた。
アゾリアさんは右手に握ったメスで応戦する気らしい――それがミスリルかオリハルコンでできていない限りはダメージなんか与えられるはずがない。アゾリアさんが殺されてしまう。
「お願いですから逃げてください!」
「……」
僕は喉が裂けるほど全力で叫んだけど、返ってきたのは優しい微笑みだった。
この状況でそんな笑顔は見たくない――
『ぶち割れちまえよぉっ!』
ぐしゃりという鈍い音が僕の耳に突き刺さった。
・
・
なんて言うかすっげーグロい光景だ。
僕がいた世界の15歳に説明するなら“頭だけを落としただるま落とし”が適切だと思う。
それをモザイクなしで見てしまった可憐で清楚なフレアさんは両手で顔を覆っていて、戦う訓練を受けたはずの侍女のみんなでさえ、揃って頬を引きつらせてる――ホラーゲームの配信を観てどきどきする15歳が目眩で済んでるのは奇跡に近い。
頭部を失ったまま立つ死体。それを近距離で直視しているはずのアゾリアさんは、ちょっとびっくりしてはいるけど顔色すら変えていない。さすが外科手術ができる上にドSな軍医さんだ。ちなみに黒鎧兵の2人は死体とは別の存在を見て絶句してる。
瞳は琥珀色。肌は日焼けしていて、少しウェーブした金髪の神官戦士。ネコ科の猛獣っぽい印象を与える目つきを、今は挑発的に歪めている――
「ごめーん! 痛かった? あー、でも頭なかったら返事できねぇか。無理しなくていーよ。死体の声とか聞きたくねぇし」
「ヴァレッサさん!?」
「はーい、癒希様♡ 来ちゃった♡」
とんでもない速度で降って来た――司令塔の屋上からダイブしたんだろう――神官戦士のお姉さんは、銀鎖の鞭をじゃらりと引き戻した後、僕に煽情的なウインクを見舞った。
そして――
むぎゅっ!
重鎧を着た僕は軽々と抱き起こされて、さらに正面から思いっきり抱きしめられた。お花畑みたいな香りが鼻腔をくすぐる。覚えのある良い匂い。
「敵前に立つことのないようにとお願いしておいてなんですが……とても素晴らしい活躍でした。従者として鼻が高いというものです」
「オリアナさん……!」
白金のお姉さんは僕を地面に座らせると、それからにこりと微笑んでくれた。黒鎧兵たちにはすっげー嗜虐的な笑みを向ける――
「八つ裂きにして野犬の餌にしてくれましょう」
「……骨付きならワンちゃんも大喜びですね」
美しいお姉さんの冷静な呟きは、ゴンザロスの絶叫よりも10倍くらい怖かった。
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