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104話「端から端まで蹴散らしてやりましょう!」

みんなと一緒に大暴れしちゃいますね! のラスト回です。

よろしくお願いします。

 洞穴の先は再びの坂道。勾配はかなり急だ。

 そこを警戒しながら走り抜けた先は――とても広い空洞だった。ファンタジー的に呼ぶなら大空洞。壁からは純白に輝く鉱物の柱がいくつも突き出ているから、さっきまでいたところよりも明るい。


 中央辺りにガイさんや冒険者のみんながいる。転進(・・)したレムナントたちは見当たらない――けど、僕も含めて誰もそんなことを気にしていなかった。


「これは魔法鉱物なのか?」

「……持ち帰んねぇと分からねぇでがす」


 ガイさんたちの目の前には光り輝く巨大な結晶が宙で静止するように浮いていた。周囲の輝く鉱物よりも透明感があって水晶にも見える。僕とマイさんが駆け足で向かっていく間にガイさんたちがそれを覗き込む――


「うげぇ!? なんだこりゃ!」

「気持ち悪いでがす!」

「ひいいいいいですねぇい!」


 彼らは一斉に結晶から距離を取り、入れ違うように僕とマイさんが覗き込んだ。


 ごぽ! ごぽぽ……!


(……SF系ホラーゲームでよく見るやつだ)


 その結晶の中では拳サイズのオタマジャクシ――を乾燥させて極彩色で塗装した――みたいな生物がたくさん蠢いている。頭部が人間ぽいからレムナントの幼体だろう。

 幼体がこう(・・)だから成体もああ(・・)だった。理屈にかなってはいるけど、ひたすらに悪趣味だ――その時、周囲にたくさんの気配。僕は全身で背後に振り向いて戦杖を構えた。


「きます!」

「はあ? どこからくるって――げええええ!」

「結晶を背にして密集隊形! 早く!」

『オオオオオオオマアアアアアタアアアアアアアアアア!』

「ひえええええええ!」


 マイさんの怒声とレムナントの叫び声。みんながどっちに恐れおののいたのかはともかく――壁の割れ目という割れ目から、レムナントたちがぬるりと飛び出してきた。ぎょろりとした双眸を血液色に輝かせ、僕たちを360度全方位から睨みつけてくる。彼らは一斉に襲いかかって――は来なかった。


「かかってきやがれってんだ、ちくしょうが!」

『…………』


 マイさんの鬼のような(・・・・・)統率力で密集隊形――反撃態勢を整えることができたからだ。そうでなかったら、今ごろは冒険者返り討ち大会になっていただろう。


(それは防げたけど、まずい状況に変わりはない……!)


 僕たちは密集している上に陣地も狭いから迂闊に武器を振り回せない。殺傷力の高い魔法の武器(マジック・ウェポン)なら、なお更だ。さらにレムナントの数はこっちの3倍くらい。状況としてはアメーバに捕食される微生物。敵の総攻撃を待っていたら白旗か遺書が必要になる。


(反撃態勢は整っている。誰かが先陣を切れば……)


 そんな事を考えながらガイさんを見やると、取り巻きの2人と一緒に密集隊形の内側に引っ込んでいた。

 勇者の血筋を絶やさないためなのかもしれないけど――


(なんだかなぁ……)


 主人公が勇者のゲームではまず見ない光景だ。それともスマホゲームでお馴染みの指揮官系(・・・・)勇者を目指してるんだろうか。どちらにしろ、先祖代々のすっげー(・・・・)槍を活用する意志は見られない。

 僕は温度低めの半眼で彼を見やった後、戦杖を強く握り直した。硬い地面を蹴って包囲網の一角に全速力で突っ込む。


「お先にひと暴れ(・・・・)してきます!」

「癒希!? 戻りなさい!」

 追いかけてくるマイさんのお怒りボイス。でも!


(レムナントの不死身は恐ろしい脅威だけど、それを無効化できる僕にとっては大した敵じゃない)


 そして包囲網の弱点は戦力が分散されてしまうこと――僕が向かった先にいるレムナントは数体。同士討ちフレンドリィ・ファイアを気にせず戦杖を振り回せるなら!


 ずが! ごしゃあ! べぎ!


『サアアアアアアアラアアアアアアミイイイイイ!?』

『オオオオオオオオオハアアアアカアアアアアア!?』


 僕がその数体をあっさりと灰に還すと、他のレムナントたちは僕に敵意を集中させた。つまり包囲網が揺らいだってこと。包囲して殲滅するなら、敵の反撃態勢が整う前に仕掛けるべきだ。どこかの宇宙元帥もそう言っていた気がする。もしレムナントに指揮官がいて、大空洞の出口に陣取っての消耗戦を仕掛けられていたら――


(冗談抜きで詰んでいたかもしれない)


 僕はレムナントの群れに諸葛な孔明さんがいなかったことに感謝しながら横に跳んだ。そして反撃の戦杖を振り下ろし、叫ぶ。


「僕に続いてください!」

『お、おう!』


 みんなは一斉に駆けてくると突撃陣形をとった。その先頭にいるのは僕。先陣を切った瞬間から先導役(リーダー)。それならやらせてもらいましょう。僕は彼らの真剣な表情に大声で応えた。


「彼らは大した敵じゃありません! 端から端まで蹴散らしてやりましょう!」

『おっしゃああああああああああああ!』


 僕は叫んだ後、みんなを率いて全速力で走った。その先には獲物を逃してぐらつく包囲網。つまり帯状に並んだままのレムナントたち。彼らの端から斬り込む――


 がつん! がぎ! ぐしゃ!


 僕たちはまさに一丸となって襲い掛かり、対するレムナントも一斉に襲い掛かって来た。けど、陣形を組み替えたりすることはなく、ばらばらに応戦してきた。

 割れ目に引っ込んで体勢を整える様子もない――各個撃破してくださいと言っているようなものだ。なんて優しいんだろう。その優しさに全力で応えよう。


 ばぎゃ! ぎぃん!


(数が多くても指揮官がいないとこうなってしまうのかな?)

 烏合の衆。そんな言葉を思い浮かべている間に、僕たちは数的な不利をどんどん縮めていった。それに伴って殲滅速度が加速する。


 どがっ! ぎん! ざしゅ!


「脇は任せな!」

「癒希! 止まってる暇はねぇぞ!?」

「はい!」


 とどめを刺せるのは僕だけだから運動量も僕が1番多いはず。だけど不思議と疲れてはいない。疲れているのかもしれないけど、それを感じさせない熱さが全身を包み込んでいた。士気百倍とか意気軒昂という状態に思える。

 たくさんの仲間と一緒に戦うっていうのはこういうことなんだろうか――そして数分後。


「…………」


 しんと静まり返った大空洞。

 僕たちは灰に還りつつある最後のレムナントを無言で見下ろしていた。天井や壁から新手が湧き(・・)出てくる様子もない。僕たちの勝利――その時。


 がしゃん!


 中央の方からけたたましい破砕音。ガイさんが巨大な結晶を破壊したみたいだ。ゲッコさんとユシラさんを両脇に置いて胸を張る。


「これはレムナントどもの製造機だった! だが勇者ガイによって破壊された! このオレによってな!」

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


 そして盛大にあげられた勝鬨が耳をつんざき、大空洞を揺るがす――でもその中心にいるのは僕だった。誰もガイさんに目もくれていない。


『おおおおおおおおおおおおおおおおお!』

「……!」


 終わる気配のない勝鬨をBGMに、彼は悔しそうな表情で立ち尽くしている。どうにかフォローしたいけど、僕はたくさんの大人に揉みくちゃにされているからどうしようもない――


「やるじゃねぇか!」

「あんたこそ勇者だよ!」

「えっと……!」


 灼けるような感謝をむけられて思わず困惑してしまった。

 この国には何百と言う奈落が存在していて、そのうちのひとつ。おまけに大した規模じゃなかったと思う。それを潰したくらいでここまで感謝されても――


(いや、これで町が少しだけ平和になったんだから……)  


 この奈落に悩まされていた人たちにとって、今日から1番の悩み事は変異した野犬をどう追い払うかになるだろう。2番目は夕飯の献立(メニュー)あたりかな。

 改めて考えると結構な成果だ。この喜びようも当然なのかもしれない――僕はなんとなく納得して、心の中で肩を竦めた。と。頭上に気配。急降下してくる。マイさんだ。


「癒希!」 

「ちょっと――!?」


 彼女は結構な速度で僕に抱き着くと、それから強く、とても強く抱きしめてくる――


 むぎゅぎゅぎゅ! 


 お姉さん冒険者は僕の頭を顎の先でぐりぐりしながら、やっぱりお姉さん口調で言ってきた。


「君はほんんんんとうにいい子ね!」

「どうもです……!」


 僕はマイさんの色々な感触とオトナの匂いに赤面しつつ、なんとかそう返した。

 いまだ冷めやらぬ熱狂と大歓声――その隙間(・・)から、ふとガイさんを覗き込めば、憎しみの表情で僕を睨みつけていた。そして。


「ちっ……!」


 彼は憎らしいなにかを踏み潰すかのように、結晶の破片にブーツのかかとを叩きつけた。


お疲れさまでした。

毎週日曜日の19時頃更新(の予定)です。

よろしくお願いします。

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