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風笛の鎮魂歌~緑銀の笛の音が響き渡るとき~  作者: 森川トレア
第1章 リーシャの家族と真実
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 ルーカスはマティアスと共に父ユリウスの執務室を出ると、少し考えるそぶりを見せてマティアスに声をかけた。


「マティ、少しいいかい?」


 そう言って、ルーカスはマティアスを自分の部屋へと誘った。紺色の壁にローズウッドの家具が置かれていて、落ち着きがありつつも華やかさも感じられるルーカスの私室。ルーカスの為人が現れたかのような部屋だった。


「久しぶりですね……。」


 そう呟くマティアスをルーカスは優しい目で見て、椅子に座るよう促した。

 この前、マティアスがルーカスの部屋に入ったのは夏季休暇で戻ってきた時だったから、もう数か月前のことになる。その時もここでリーシャのことを話したのだった、とマティアスは思い出した。


「マティ、リーシャは知ってしまうのだな。」

「本当のことを知ったリーシャは、これまで通り僕たちと接してくれるでしょうか……。」


 父ユリウスがリーシャに伝えると決めた以上、それに従わなければいけないことはわかっているし、彼女が育ったこの辺境伯領で、ヴィルフリートや家族たちから聞くのが一番良いということも理解できる。


(秘密を知ったリーシャと、僕たちの関係が壊れてしまうのではないだろうか……。)


 マティアスは不安だった。


 マティアスがリーシャとはじめて会ったのは、5歳の時だった。

 ある朝、目を覚ますと「マティに同じ年の妹ができたのよ」と父と母から言われたのだ。

 マティアスはまだ幼かったし、マティアスより下に子どもはいなかったから、弟や妹ってある日突然できるのだなと思った。マティアスはこれまで一番下の子どもとして可愛がられていて、それは嬉しいことではあったが、いつまでも子ども扱いされることがちょっぴり不満な年頃になっていた。そのため、自分も兄になれるのだという知らせは、マティアスを殊の外喜ばせたのだった。


 そうして紹介された妹を見て、マティアスは飛び上がりたいくらい嬉しくなって、久しぶりに魔力が暴走しそうになるのを感じた。もちろん、その魔力はマティアスのブレスレットが吸収してくれたのだが……。


 うす金色の髪はふわふわしていて、瞳は丸くて、春になると芽を出す柔らかい葉っぱが太陽の光を浴びたような色でキラキラ輝いている。

 髪も瞳も、その子の透き通るような白い肌にはぴったりで、とっても可愛いと思った。キュッと結ばれた口元が笑顔になったら、もっともっと可愛いだろうなと思って、リーシャの前で少しだけかがんで目を合わせた。


(同じ年だって聞いていたけれど、僕より背も小さいし、腕も細いんだな……。でも僕は兄さまになるんだ。僕が守ってあげる。)


「ぼく、マティアス。きみのにいさまになるんだよ。マティってよんで。」

「…マ、ティ……。にい…さま…?」

「そう、マティだよ。きみのことは、なんてよんだらいい?」

「……リーシャ……。」

「リーシャっていうんだね。リーシャはぼくのいもうとだから、ぼくがまもってあげるからね!」


 マティアスがリーシャの小さな手とって満面の笑みを浮かべると、リーシャもつられたのか、結ばれた口元を緩めて、くしゃっと恥ずかしそうに微笑んだのだった。


(かわいい!妖精みたいだ!!)


 あの頃から、マティアスはリーシャに心奪われたままになっている。

 そしてその思いは、その後リーシャの本当の両親のことを聞き、リーシャが養子であることを聞いた後も変わらなかった。それどころか、リーシャを守りたいという思いは年々強くなるばかりだった。


 リーシャと出会った時のことを思い出していたマティウスだったが、ルーカスの言葉に現実に引き戻される。


「マティ、それはリーシャが決めることだよ。リーシャは可愛い妹であることに変わりはない。今までだってそうだったし、これからだってリーシャは、みんなにとって大切な妹だよ。」

「そうですね……兄上。」

「マティが不安になる気持ちもわかるよ。だって不安がないわけじゃない。でもね、これまでずっと真実を知った上で、リーシャを本当の妹として可愛がってきたよね。

 だから、これまで通りリーシャのことを大好きなんだって、言葉や態度で伝え続けるしかない。それしかできないんだ。」


 ルーカスの表情は、言葉とは裏腹に硬さが感じられるものだった。

 マティアスを元気づけるよう、柔らかい言葉で伝えるルーカスだったが、彼もまた不安を抱えている様子がマティアスへと伝わってくる。


「妹……。僕はリーシャを一番近くで守りたい。これまでだってそうだったし、これからもずっと……。」

「マティ……。」


 マティアスがリーシャを妹以上の存在として見ていることをルーカスは知っている。いや、ルーカスだけではない。リーシャ以外の家族は、皆マティアスの思いに気づいて見守っている。

 年上のルーカスでさえ、不安を隠せずにいるのだ。出会ってからひたすらリーシャだけを見つめてきたマティアスが不安がるのは、当たり前のことだろう。


(でも、マティ。これはチャンスかもしれないんだよ。マティの思いが……届くかもしれない。)


 手を握りしめ、唇を噛みしめながら俯いているマティアスに、今は口に出せない言葉をルーカスは心の中でつぶやいたのだった。


読んでいただきありがとうございます。

もし、よろしければ評価いただけますと、とても嬉しいです。よろしくお願いいたします。

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