9
サブタイトルで「9」を飛ばしていたことに気づきました。
申し訳ありません m(_ _)"m
本文は言葉の言い回しを少し手直ししましたが、大きくは変わっていません。
学園の冬季休暇で学園から帰って来ていたエミリアとルーカス、そしてマティアスがリーシャの部屋で過ごしている頃、ペイレール辺境伯夫人であるマリエは、ひとり神殿の傍にある墓碑の元に来ていた。墓碑に積もった雪をマリエ自らの手で払うと、墓の主が好きだった白いルラの花のリースをそっと置いた。
「セシーリャ様、ようやくあなたのことをリーシャに伝えることができます。」
♪*♪*♪
その日の朝、辺境伯夫人であるマリエは朝食を終えると、そのまま、新年を迎えるための準備について、料理長や侍女長、メイド長たちと打ち合わせていた。
年が明けると、子どもたちは皆王都の学校へと行ってしまう。仕方のないこととはいえ、マティアスとリーシャが同時に居なくなることを考えてしまうと、寂しさに負けてしまいそうで今は楽しいことを考えていたかった。
「おや、エミリアは居ないのかい?」
すっかり話し込んでいて、マリエは夫である辺境伯ユリウスが入ってきたのにも気づいていなかった。慌てて夫を迎えるために席を立つ。
「ええ。エミリアはリーシャのところです。きっとお土産に買ってきた服でリーシャを着せ替え人形のようにしているはずですわ。」
「まったく……エミリアも1年後には公爵家へ嫁に行くというのに。本当にあの子はソルベルグ公爵家でやっていけるのだろうか。」
マリエは来年、学校を卒業すると同時に、婚約者であるソルベルグ公爵家の嫡男オリビエの許に嫁ぐことになっている。
「公爵家には公爵家のやり方があるでしょうから。わたしも辺境伯家に来て、お義母様に教えていただきましたもの。無理にここで学ばなくても良いと思いますわ。それに、エミリアはしっかりしていますもの。きっと大丈夫です。」
「しっかりというか、ちゃっかりというか……まあ、嫁ぎ先が王宮でなかったことを、良しと思わなければいけないね。」
「そうですわね。」
そう言うと、ふたりは顔を見合わせてふふっと笑った。
長女エミリアは、数少ない治癒魔法の使い手だ。そのため、王家からは縁を結びたいと王子妃の話も上がっていたのだが、エミリアはそれを頑なに拒んだ。王宮に上がってしまえば気軽にリーシャに会えなくなるからと。
ユリウスの母親は、前王と同母の妹姫のため、当代王とユリウスは従兄弟である。そのため、エミリアの主張する「王女であった、お祖母様が嫁いできたばかりで血が濃い者同士なので」という表向きの理由は渋々ながら受け入れられた。しかし、王家としては貴重な治癒魔法使いを他家へ取られたくない。そこで、前王の歳の離れた異母妹が嫁いだ公爵家と縁を結ぶこととなったのだった。
「それはそうと、マリエ。君の用事が終わってからでいいのだが、少し話したいことがあるから後で執務室へ来てくれないかい?」
「ほとんど終わりましたので、今から一緒に参りますわ。お茶の準備をさせましょう。」
マリエはそう答えると、使用人にお茶の準備を指示し、ユリウスと共に執務室へと向かった。
ユリウスの執務室で、マリエが手ずから淹れるお茶の甘い香りが広がる。わざわざユリウスがマリエを直接探しに来たということは、早急に話したい大切な話があるからだろう。早々に使用人は下がらせていた。
「いい香りだね。これは……レザンツ王国産の茶葉かい?よく手に入ったね。」
「ええ。どうしても今年はこの茶葉を家族で飲みたかったので、母にお願いして手に入れてもらいましたの。」
「そうか。義母上から預かったものの中に入っていたのだね……。」
マリエは今からユリウスが何を話すのかを解っていて、家族で味わう前に、あえてこの茶葉を準備させたのだろう。ユリウスはゆっくりと香りを楽しみながら口をつけた。
「レザンツ王国か……。」
そう呟いたきり口を開かないユリウスに、マリエは先を促すことなく待つことにした。
(レザンツ王国は今どうなっているのかしら……。)
父と母からの手紙にもレザンツ王国の現状は記されていなかった。ただ、もうこの茶葉はしばらくの間手に入ることはないだろうと書かれてあっただけ。
宰相である父は知っていることがあるのだろうが、簡単に他国のことを手紙に記すわけにはいかないのだろう。たとえユリウスの手に預けた手紙といえども……
(茶葉の輸出すらできない状況だなんて……。)
ローリエ王国とレザンツ王国の間にはカル山脈という険しい山がそびえている。高い山々が連なるカル山脈の奥深くには、魔物も住んでいる。そのため、カル山脈を越えて両国を行き来することは、実質的には不可能と言ってよかった。
ローリエ王国からレザンツ王国に行くためには、カル山脈をぐるりと回って西国ウルム国を通るルートか、カル山脈の東に南北に延びる北レム山地を超える街道でイルシア皇国に入り、更に南レム山地を超えてレザンツ王国に入るしかない。
レザンツ王国――小さい国でありながら北にそびえるカル山脈、東になだらかな南レム山地が広がり、山から流れ出す川によって肥沃な大地の広がる国。古くから精霊の加護が厚い国として知られていた。
肥沃な大地で育つ農産物は国を豊かなものにしていたし、高地で栽培される茶葉も薫り高く、近隣諸国に輸出され高値で取引されていた。
またカル山脈では希少価値の高い鉱物も採取することができた。これもまた他国へと輸出され、レザンツ王国を支える産業のひとつだった。
農産物にも鉱物にも恵まれた地、それがレザンツ王国だった。
歴代国王はこの豊かな恵み豊かな国土と民を守るため、必要以上に作物を搾取することを是としなかった。決して自然への畏敬の念を忘れることなく地を治める王家の姿勢は、長い時代を経て民まで浸透しており、それを好ましいと感じた精霊たちは、喜んでこの地に住み着き、レザンツ王国に加護を与えてきたのだった。
(とても豊かな国だったけれど、精霊たちの加護は今どうなっているのかしら……。)
マリエは近くて遠い国―――レザンツ王国へと思いを馳せていた。
そのため、夫ユリウスの口から懐かしい名前が出た時に、無意識に口に出して尋ねたのかと思ったのだった。
「シルフレッド殿が今のレザンツを見たらどう思われるだろうね……。先ほどヴィルフリートから、あの豊かだった国に荒れ地や焦土が広がっていると聞いてね。7年しか経っていないというのに……。」
「風龍様は、かの国の今をご存じなのですね。」
「ああ。あれだけリーシャ大切にされているんだ。リーシャに、どこまで伝えるかを判断するために、秘かに様子を見に行かれたようだよ。」
精霊さえいればヴィルフリート自ら行かなくても良かったのだろうが、今は精霊たちもレザンツ王国を離れてしまったという。ユリウスから知らされるレザンツ王国の様子に、マリエは言葉も出なかった。現実は更に酷いものなのだろう。
「それで風龍様は何と仰せになられましたの?」
「わたしたちの考えと同じだったよ。まだ記憶は戻さない方が良いだろうと。わたしたちと血が繋がっていないこと。本当の両親は違う国の出身で、ふたりとも亡くなっていること。伝えるのはそこまでだね。」
「リーシャの笛のことは?」
「実父の形見の品と……。」
「形見の品、ですか……。」
♪*♪*♪
マリエは、ユリウスと話した内容に思いを巡らせながら、墓碑の前に佇んでいた。
ふわふわの金色の髪を持ち、ペリドッドの瞳を輝かせて、この地を訪れてくれた友人。片手ほどの回数すら会えなかったけれど、彼女とのことは今でも鮮やかに思い出すことができた。
「セシーリャ様、リーシャのこと、これからも任せて下さいませ。」
墓碑に手を重ねそう告げた後、去ろうとしたマリエの後ろから声がかけられた。
「風龍様……。」
国の位置関係はざっとこんな感じです。
スマホで見てみたら、ズレズレですごいことになっていました……。
重ね重ね申し訳ありません。
△△△
ローリア △△△
王国 △北△
△レ△
▲▲▲▲▲▲ △ム△
ウルム ▲▲カル山脈▲▲△△△ イルシア
国 ▲▲▲▲▲▲ △南△ 皇国
___ △レ△
\ レザンツ △ム△
\ 王国 △△△
\_____ △△
\
海 \ アルシェ
\ 王国
\____




