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「おふたりのことを、おじい様はご存じなのですか?」

「もちろんじゃ。あのふたりは有名だからのう。特にフィリックス殿はザイツ魔術庁長官と並ぶほどの魔力を持ち主だ。技が追い付けば、この国の双璧のひとりとなるだろうよ。」


 リーシャへ嬉々と語る祖父を前に、マティアスは首を傾げていた。

 マティアスほどの魔力を持つと、近寄るだけでその人物がどの程度の魔力持ちかを感じることができる。今日会ったフィリックスとアランのふたりは、確かに魔力は多く強いものを感じたものの、マティアスにはザイツと並ぶほどとは思えなかったからだ。


「確かに魔力も多く、強そうではありましたが、ザイツ先生と並ぶほどとは……。」

「ふふふっ、そうか?マティアスも、まだまだかもしれんのう。」


 楽しそうに笑う祖父を見て、ルーカスも意味深な笑顔を向けてくる。


「来週からが楽しみだね、マティ。マティがフィリックスの魔術を見ても、同じように言えるかな?」

「兄上は見たことがあるのですか?」

「ああ。学園祭の時にね。学園祭では剣術と魔術の大会も行われるんだけど、フィリックスは魔術トーナメントで2年連続優勝。アランは、剣術トーナメントの昨年の優勝者だ。

 ちなみに僕は2年続けて準決勝でフィリックスとあたって、あっさり負けてるんだけどね……。」


 ルーカスは、はははっと気まずそうに笑った。

 そんなルーカスを見て、マティアスは、ますます納得がいかない表情を見せる。


(確かに兄上は神具や魔術具をつける程の魔力はないけれど、それでも十分多い魔力を持っている。大体、神具や魔術具をつけて抑えなければいけないほどの魔力持ちなんてめったにいないのだ。しかも、兄上の魔術の正確さと技の高さ、術式展開の速さは学園でもトップクラスのはずだと、父上も言っていたのに。)


 そんなルーカスがあっさり負けるとは、いったいフィリックスはどれだけ強いというのだろうかとマティアスは首をひねった。


「それは、中等部と高等部に分かれて行われるのですか?」

「いや、高等部まで含めて行われた中での優勝だよ。だから、あのふたりは有名なんだ。

 魔術制御のための特別カリキュラムを受けている生徒は、カリキュラムが終了しなければ出場できないから、大抵は2年生の時からしか出場しないんだけどね。でも、フィリックスは半年ほどで制御を身に着けて1年生の時から出場したんだよ。それだけでも大きな話題なのに、なんと決勝戦で第3王子のクロード殿下を破っての優勝してしまったからねぇ。」

「クロード殿下は、エミリア姉様の2つ上だったですよね。とすると、その時……高等部の2年生ですか?」


 マティアスは、にわかには信じ難かった。制御を終えたばかりの1年生が4つも上の王族を破るとは、いったいどういうことなのだろうかと。


「そう。最終学年だったよ。」

「もちろん、クロード殿下もカリキュラムは……。」

「ああ。魔術具をつけるくらいの魔力をお持ちだから、当然カリキュラムの受講者だ。」

「それを、フィリックス先輩は1年生で……。」


 今日マティアスはフィリックスの魔力を感じることができなかったが、ルーカスの話でフィリックスが規格外なのは理解できた。もしかすると、ザイツやフィリックスほどの者ならば、魔力の気配すらコントロールするのは造作ないのかもしれないとすら思った。


 今日、自分が目を離した隙にフィリックスがリーシャと楽しそうに話し込んでいて、しかもリーシャの頬が色づいていたことについては、面白くはないものの、それでもマティアスは純粋にフィリックスの強さを間近で見てみたいと思った。


「ちなみに、アランが剣術トーナメントで1年生の時に決勝で負けた相手はクロード殿下だよ。昨年は余裕で優勝してる。殿下は、王族にしては魔力が少なめで剣術の方が得意な方なんだ。それでも、その前年までは魔術でも剣術でも殿下の圧勝だったんだけどね。

 それにアランはカリキュラムを受ける程の魔力持ちでね。昨年は魔術トーナメントに出場したけれど、2回戦でフィリックスに敗れてる。」


(アラン先輩は剣術の優勝者だって?しかも魔術で負けたのはフィリックス先輩に?)


 いったい、あのふたりはどれだけ強いのだろうか。そう想像しただけで、マティアスは魔力が体中を駆け巡ったのを感じた。

 もし、今年マティアスが魔術トーナメントに出場すればあのふたりと勝負ができるのだろうか。自分の力がどこまで通用するのか試したい。そう思うと、マティアスの心は躍る。


「僕も魔術トーナメントに出たい。」

「ああ。マティは制御が終わっているから、希望すれば出場できるはずだよ。

 あ……でも、マティが勝ち抜いたら、僕とあたるかもしれないってことか。兄として負けるわけにはいかないけど、マティの魔力は多いからなぁ……。」


 複雑な表情を見せるルーカスを見て、皆が笑い出す。


「わははっ。ルーカスは技術高さと技の正確さ、展開の速さでマティアスを抑えるしかないじゃろうなぁ。私もようやく引退したし、その日は見に行きたいものじゃのう。」

「ふふっ。その日お休みを頂けるよう、陛下に早くお伝えなさいませ。」

「私は引退したのだから、毎日が休日のはずなんじゃが……。」


 皆からの和やかな笑いを受けて、ルーカスにも笑顔がこぼれた。


「おじい様がいらして下さるのであれば、ますますマティに負けるわけにはいけませんね。僕も磨きをかけないといけないな。」

「今年も楽しみね、リーシャ。ルーカスにマティ。それに、フィリックス様にアラン様。魔術や剣術のレベルだけじゃなくて、容姿のレベルも高いし、当日は令嬢方たちがすごいことになりそうね。」


 嬉しそうに話しだしたエミリアに、リーシャはきょとんと首を傾げてたずねた。


「令嬢方たちが、すごいことになるのですか?」

「ええ。うちのルーカスもわりと整っているからご令嬢方に人気なのだけど……。あ、マティもすぐ人気が出るわよ。もうちらほら話題にのぼっているもの。

 それでね、フィリックス様とアラン様はとんでもなく整ったお顔立ちじゃない。特にフィリックス様は、銀糸のようなストレートの髪、瑠璃の瞳は切れ長で、孤高の美しさですもの。学園の令嬢たちから大人気なのよ。おふたりとも婚約者がいらっしゃらないし。」

「……わりとは余計です、姉上。」

「僕も、別に人気なくても良いのですが……。」

「あら、誉めたのに。それに、人気がないより、あった方がいいじゃない。」

「「…………」」


 ルーカスは呆れたような視線を、マティアスは面倒くさいといった素振りの視線をエミリアに向けるが、エミリアは全く気にしていない。その口は(とど)まることを知らないかのように言葉が紡がれていく。


「でもね、リーシャ。あなたはカリキュラムでおふたりと近くで接するでしょうから言っておくけれど。いくら見た目が良くても、それに惑わされちゃだめよ。」


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