二つ目の予言
オリビア姫は
アルジノンにイグリードの
二つ目の予言を呈した後、
足早にグレイソン公国へと帰っていった。
次は正式な大使を派遣する事となり、
今後も両国が良好な国交を続けて行けるよう、
様々な条約の草案をちゃっかりと置いていった。
正式に条約を結ぶ前に、
これを議会にかけて協議しとけという事だろう。
どこまでも強かな姫である。
そのオリビア姫が馬車に乗り込む際、
見送りに出たジュリに何か含みのある笑みを
向けたのが気になったが、
もう出立しようとする馬車を引き止めるわけにも
いかず、ジュリはそのまま見送った。
結局今に至るまでアルジノンが
政務に忙殺される日々が続き、
まだジュリは二つ目の予言の内容を
知らされていない。
もしかして明かせないような重要な内容?
気になって気になって
夜も10時間くらいしか眠れないジュリの元に、
ようやく政務がひと段落したアルジノンが訪れた。
部屋に入るなりアルジノンがジュリを
抱きしめてくる。
「ジ、ジノン様っ」
タバサやセオドアもいるというのに
恥ずかしい。
「許せ。深刻なジュリ不足に陥ってたんだ。
今すぐジュリを摂取しないと俺は召されてしまう……」
「また大袈裟な……うっ、苦しっ……」
あまりにアルジノンがぎゅうぎゅうと
強く抱きしめてくるので
ジュリの方が息苦しくて天に召されそうになった。
危ういところで
ジュリの拳がアルジノンの右脇腹に入り、
圧迫死だけは回避できたが。
「それで?イグリードの二つ目の予言の内容を
お聞きしても?」
脇腹を摩りながらソファーに座るアルジノンに
お茶を勧めながらジュリが言った。
「……最初にな」
「はい」
「オリビア姫も言ったんだ」
「はい?」
「こんな予言、告げたところで何の意味があるのか
大賢者に問い正したいと」
「はぁ」
「実際に予言を告げられて、俺も思った」
「……一体どんな内容?」
ジュリが小首を傾げると
アルジノンは居住まいを正し、
コホンと小さく咳払いをしてから
予言の内容を告げた。
予言の内容を聞き、
ジュリは首を更に傾げる。
もうこれ以上傾けられないというところまで傾げると、
ジュリは予言を復唱してみた。
「『来たる十八の歳の五月七日、
ジェスロ市街13丁目小高い山の上1ー1にて、
汝は水玉模様のティーカップを粉々に割るであろう』……」
「………………。」(ア)
「………………。」(セ)
「……………は?」(タ)
〈そうよねタバサ、わたしもそう思う。
あの?イグリードさん?
コレは一体どういう意味なのでしょうか?
コレが世界の存亡と何か関わりがあるのでしょうか?
コレが何故、ジノン様の運命に関わる事なのでしょうか?〉
ジュリは今こそイグリードに
夢に出て来て欲しいと思った。
まぁでも
あとはこの予言を……
「あとはこの予言を俺が胎内で既に授けられた
(頭に刻み込まれた?)予言とどう併せて考えるか、だな」
アルジノンが口もとに指を当てながら言う。
彼がよく考えてる時にする仕草だ。
ジュリは頷いた。
「そうですね」
いよいよ、アルジノンが持つ予言の内容も
明らかにされるのだ。
ジュリは手の平が汗でジワりと湿り気を帯びるのを
感じていた。
「俺が持つ予言は、
『予言を活かすも殺すも己次第、汝の心一つで全てが変わる事になる。世界の在り様もこれまた然り、鍵は汝の心の中に有り、汝はそれを使い半身と共に未来への扉を開くだろう』 ……だ」
「おおっ!なんかわからないけど予言っぽい!」
「コレコレ、こういうのでいいんだよ、
イグリードさん」
「半身とは、上?下?やっぱり殿下ですから下ですかね?」
「いやアホですか、大切な存在という事ですよ。
この場合はジュリ様の事でしょうね」
皆、思い思いに好き放題言う。
「でも二つの予言を併せたら、
ますますわからなくなってしまう……」
「予言というより謎かけ問題みたいです」
「ホントね」
「ていうかオリビア姫からの
予言が一番理解出来ない」
皆、一様に頭を抱える。
ジュリは自分の考えを皆に告げた。
「でもわたしは、オリビア姫の予言が最もイグリードが伝えて欲しかったもののような気がするの」
アルジノンがジュリを見た。
「イグリードの?」
ジュリは頷く。
「とにかく5月7日にその、ジェスロ市街13丁目小高い山の上1ー1?に行ってみるしかないと思う」
「……そうだな、とりあえず今はそれしかないか。
行ってみればわかる、という事もあるし」
アルジノンがそう決めたのなら……
という事になり、
アルジノン、ジュリ、セオドア、タバサによる
第一回目の運命の王子会議は終了となった。
でもジュリには
アルジノンにどうしても確かめたい事があり、
セオドアとタバサには退室して貰い、
一人アルジノンの部屋に残った。
「ジュリ?どうした?」
アルジノンが不思議そうにジュリを見る。
ジュリは何も言わず、
ただアルジノンの目を見つめた。
「……」
「ジュリ?」
アルジノンがきょとん、
としてジュリを見つめ返す。
しばし沈黙が訪れた後……
ふいにジュリがにっこりと笑った。
「なんでもないの。ふふふ、よかった♪」
と、それだけ言って、その後ジュリは上機嫌で
自室へと戻って行った。
それを見送ったアルジノンは
どっと疲れが吹き出し、
思わずソファーに倒れ込む。
〈あ、アレが女の勘かっ!?
こ、怖い、怖いぞっ、オリビア姫のヤツ、
ジュリになんかしたのかっ!?〉
心臓の動きがやばい。
〈ジュリは絶対、
俺とオリビア姫の間に何かあったのかを疑ったんだ。あれはそれを確かめたんだ〉
あの日、
オリビア姫に思い出が欲しいから
キスをしろと言われた日。
アルジノンはもちろん断った。
絶対にジュリを裏切りたくなかったし、
いつかオリビア姫に本当に好きな相手が出来た時、
それはいい思い出ではなく、
消し去りたい思い出になると考えたからだ。
もしかしたらオリビア姫は
本当に自分に好意を抱いたのかもしれない。
でも、
アルジノンに好きな相手がいる事を知りながら、
思い出と称してその相手を裏切る行為を強要するオリビア姫の気持ちが理解出来なかった。
そんな不可解な相手に
どうしてキスなど出来ようか。
しかしオリビア姫は
なかなか引き下がってくれなかった。
挙句の果てには
キスしてくれないと絶対に予言を告げないとまで言われ、アルジノンは辟易とした。
何をそんなに意地になっているのか。
無駄に時間だけが過ぎてゆく。
しかし不意にオリビア姫の意図を察し、
殺意に近いものが湧いた。
密室に二人きりという状況を、しかも出来るだけ
長時間であったという状況をこの女は作りたいのだ。
そこに証拠など要らない。
アルジノンには前科(?)がある。
アルジノンが否定すればするほど周りは
怪しむだろう。
それをジュリが知れば、
また彼女はどれほど傷つく?
そちらがその気ならもう容赦はしない。
アルジノンは期日に予言を告げるという約束事を
守らない姫のいる国など信用出来ない、
今回の国交の条約を見合わせて貰うと告げた。
するとオリビア姫は瞬く間に態度を軟化し、
今すぐ予言を渡すからそれだけは勘弁してくれと
懇願してきた。
もちろん、こちらも上質な塩が低い関税で輸入出来るという魅力には抗えないのでこの話を無かった事にはしたくない。
予言に寸分の偽書も許さず、
万が一それが認められた場合は
相応の報復をすると脅し、
それを踏まえて今すぐ予言を渡すなら
国交断絶は見合わせると言うと、
オリビア姫は即、予言を呈した。
まったく、何がしたいんだあの女は。
〈まぁジュリには
俺に疾しい事は全くないと
伝わったようだから良かったが……。
それにしても大人の男女がするようなヤツだと?
ジュリとだってまだ一度しかしてないというのに!〉
「……ジュリとキスしたいなぁ、それもディープなヤツ」
「殿下、煩悩の塊ですか……」
「わあっ!?」
いつの間にか部屋に戻って来ていたセオドアに
ばっちり疾しい考えを聞かれたアルジノンであった。
帰国時のオリビア姫の含み笑い、
別の意味で色んな含みを込めてたわけですねぇ。
一番の目的は腹いせ紛いの置き土産だと思われます。
その負けん気で国を盛り立てていってほしいですね。




