表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
だから言ったのに!〜婚約者は予言持ち〜  作者: キムラましゅろう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/43

王太子、土下座する

王太子アルジノンが

一個小隊規模の騎士を連れてランバード領内に

入ったと報せを受けたジュリは、


領主である父と共に急ぎアルジノンと

国境騎士団の小隊長が睨み合い、

対峙しているというポイントまで駆けつけた。


そこにはアルジノンを先頭とした第一騎士団と

ルーベン小隊長率いる国境騎士団が、

互いに馬上にて睨み合いを繰り広げていた。


「これはこれは王太子殿下、尊き御身が何故(なにゆえ)このような辺境の地に?」


国境騎士団の古参騎士の一人、

ルーベン小隊長(45)が威圧感満載で

アルジノンに問うた。


「ほう、俺が王太子と知っていて騎乗のまま話をするのか」


アルジノンからは

王族に相応しい他の追随を赦さない絶対的なオーラを感じる。


彼の残念な一面を知らない者からすれば、

生まれながらの為政者たる風格しか感じられないだろう。


でもジュリは知っている。


中身は俺様ヘタレチキンである。



「王族の方であろうとなかろうと、事前の先触れもなくこの地を蹂躙されて、黙っているわけには参りませんからなあ」


ルーベン小隊長がアルジノンの圧をものともせずに言い返す。



さすがは永く国境を

守り抜いてきた猛者の一人である。


王家に忠誠を誓えども、

曲がった事はたとえ相手が王族であっても許せない。

それが国境騎士団の騎士たちだ。


ジュリの人格をつくりあげた男たちだ。



しかしこのままではいずれ

軽く衝突ぐらいはしかねないような

不穏な空気が流れている。


その時、


ランバード辺境伯が両者の間に割って入った。



「双方とも待たれよ」


そして3メートルほど開けて対峙する

アルジノンとルーベン小隊長の間に立ち、

まずは部下であるルーベン小隊長に言った。



「気持ちはわかるし、職務に忠実なのはいいが、

相手は王族だ。不敬罪で投獄される前に下馬をしなさい。文句があるならそれからだ」


「……承知しました」



ルーベン小隊長はそのまま静かに馬から降りた。



そしてランバード辺境伯()

アルジノンに向き直った。



「殿下、今日は突然どのような用向きで?

ルーベンの申し上げた通り、事前の先触れもなく、

しかも騎士を連れてのご来訪、無体を責められても

文句はいえませんぞ」



アルジノンは馬を降り、


側で控えていたセオドアに手綱を渡した。


そして頭を下げる。


まさか王族が頭を下げるなんて思ってもいなかった

ランバード辺境伯とルーベン小隊長は驚いた。



「急な事で本当に済まないと思っている。騎士を連れてきたのは門前払いを食らわないためだ。

わかっている、先触れも出さず突然で、

しかも軽武装での訪問だ、横暴のオンパレードなのはわかっている。

でもどうしてもジュリに会わせて貰いたい。

そのために無体を承知でここまで来たんだ」



ジュリは自分の名が出てドキリとした。


そしてさっと父が乗ってきた馬の陰に隠れる。


〈今さら何?何が目的?〉




「……娘になんのご用でしょうか?確か娘からは

イグリードが告げた殿下の運命のお相手が見つかり、仲良くご旅行に出かけたと、その間に娘は帰って来たと聞いておりますが」



普段温厚な父からは

考えられないような冷たい空気が漂っている。


父も怒ってくれていたのか。


娘が捨てられた事を。


子煩悩な父なら当然か。




アルジノンは焦ったように告げる


「違うのだ!旅行ではなく視察だ!それにその間に

イグリードの予言を姫から引き出して片を付ける

つもりだったのだ」



そう言って、

アルジノンは包み隠さず

今までの事の顛末を語った。


自らの臆病な心が招いた

判断ミスだったということも、


他国の姫に脅されるがままに

従った情けない事実も、


それによりジュリを傷つけた事を後悔し、

深く反省している事も、


運命の相手などと言われても

実際に姿を見ても何も感じなかった事も、


そして変わらずジュリだけを愛している事も、


部外者ばかり総勢60名近い人間がいる前で、

恥も外聞も関係なく、王太子としての矜持もかなぐり捨てて、アルジノンは全てを語り父に謝罪した。



父も両騎士団の騎士たちも


最初は生真面目な顔で黙って聞いていたのだが、


アルジノンの話を聞いてゆくうちに段々と

顔や額に手を当てて、


「うわぁ……」とか「あちゃ~」とか

「やっちまいやしたか」とか言って、

生暖かい目でアルジノンの事を見つめるように

なっていた。




いわば自分で自分を公開処刑だな、

とジュリは思った。



〈アルジノン殿下も少しは取り繕えばいいのに

バカ正直に全部暴露しちゃって……でも……〉

 

どうしよう、嬉しい。




その時


「だそうだぞ、ジュリ、どうする?」


父がジュリの名を呼んだ。



「……!」


アルジノンが目を見開いて父に続いてこちらを見る。




ジュリはゆっくりと馬の陰から出て行った。


 


「ジュリ……!」



アルジノンがジュリの名を呼ぶ。




ジュリは何も言わず黙って、

馬の背にひらりと乗った。


そして黙ったまま馬に乗り

アルジノンの側まで行った。



「ジュリ……」

アルジノンが馬上のジュリを見上げる。



ああ……ジノン様だ。


久しぶりに目が合った。


何も変わらない、大好きなサファイアブルー。



ジュリはただ一言、


「ん」とだけ言った。



それだけでアルジノンには十分だった。


自身もひらりとジュリの後ろに騎乗し、

手綱をジュリから譲り受けた。



「ちゃんと二人で話合いなさい」


父のその言葉に、ジュリは黙って頷いた。



「ランバード伯、感謝する」


アルジノンはそう言ってジュリと二人、

単騎で駆け出した。


側近も護衛も付けずに二人きり。


背中に感じるアルジノンの体温が心地いい。


このままどこまでも駆けてゆきたい気持ちだった。



やがて小さな沢の(ほとり)に辿り着く。



アルジノンは馬を止めた。


先に降り、手を伸ばしてジュリを降ろしてくれた。



互いに至近距離で立ったまま俯く。



ジュリが話を切り出そうかと思った矢先、


半月板と前頭葉が砕け散る勢いで

アルジノンが土下座をした。


ドダーーーンッッ!



「ちょっ……ジノン様っ!?」


あまりの激しい土下座にジュリが驚愕する。



「すまなかったジュリ!!もう、何もかも、全部俺が悪かった!!全部俺が間違っていた!!俺は過去の過ちからも何も学ばない本当のドアホだ!!

どんな償いでもする!!だから!どうかもう一度だけ俺にチャンスをくれ!!」



煙が出そうなくらい額を地面に擦り付けながら、

アルジノンは必死に謝罪した。



ジュリは何も言わず土下座する

アルジノンの前にしゃがんだ。



「靴を舐めろと言うなら舐めるし、3回回ってギャオスと鳴けと言われたらギャオスと鳴く!髪を剃り落とせというなら剃り落とすし、崖から飛び降りろと言うなら飛び降りる!だから、だからジュリ、俺を捨てないでくれっ……!」



最後の方は泣きの入った声に、


ジュリはくすりと笑ってしまった。



そして言う。



「靴なんか舐めなくていいですし、ギャオスとも鳴かなくていいです。髪も剃り落とさなくていいですし、崖から飛び降りなくてもいいです……だから」



アルジノンがゆっくり顔を上げてジュリを見る。



美青年が台無しなくらいに、

額を汚し、涙目でぐちゃぐちゃになった

アルジノンの頬をジュリは両手で包み込む。




「だから、もう、絶対にわたしから目を逸らさないでください。精神的にも物理的にも。疾しい事があっても悟られたくない事があっても、いつもちゃんとわたしの目を見てください。わたしだけを、わたしだけを見てください……!」



「ジュリっ……!」



どちらからともなく強く抱きしめ合った。


今までの距離を埋めるように、


もう絶対に離れないように、


二人は強く抱きしめ合った。



「ジノン様のバカ」


「ごめん」


「ヘタレ王子」


「ホントにごめん」


「いつも的外れな判断して」


「重ね重ねごめん」


「勝手に突っ走って」


「面目ない」


「そんなにわたしに捨てられるのが怖かったの?」


「うん」


「バカね」


「申し訳ない」


「でもそうさせたのはわたしの責任ね」


「え?」


「ずっとわたしが言っていたから。

わたしが運命の相手じゃないって」


「まぁ…そう、だな」


「ホントにわたしでいいの?」


「ジュリがいい、ジュリじゃないとダメだ」


「わたしもジノン様とずっと一緒にいたい」


「ホントか」


「ホントだ」


「結婚するか?」


「結婚する」


「ジュリぃぃぃ…!」



とうとう辛抱たまらなくなったアルジノンが

ジュリに口付けをした。


最初は軽く触れるだけ。


そして啄むように。


ジュリはくすぐったかった。


生まれて初めての口付けの味は


涙と砂埃の味がした。(ような気がする)





二人がランバード邸に戻ると、


屋敷の前で即席野外パーティーが開かれていた。



急遽第一騎士団御一行さまを

もてなす事になったようだ。



ランバード家自慢の料理が


庭に配された数々のテーブルに並べられている。


酒も振る舞われ

第一騎士団の騎士も、

国境騎士団の騎士も皆入り乱れて楽しそうに

飲んで食べて大いに語り合っていた。



その様子をびっくりしながらも

微笑ましく見ていたジュリとアルジノンのところへ

セオドアが飛んで来た。



「良かった…!お二人ともご無事で。もう少し遅かったら探しに行こうかと考えていたんです」


「ランバード領内はどこの領地よりも

治安がいいから大丈夫よ」


ジュリが言うと

セオドアが本当に嬉しそうな顔で笑った。


「良かった……ジュリ様、殿下……!」



「心配かけてごめんね、セオドア」


「色々とすまなかったな、セオドア」


「いいんです、いいんですっ、お二人が仲直りされたならっ………ん?なんです?殿下、頬にビンタの跡が……?仲直りされたんですよね?」



セオドアが訝しげにアルジノンに聞いた。



「あぁ、これはちょっと調子に乗りすぎた」


「調子に?なんです?」



アルジノンがジュリに聞こえないように

小声でセオドアに耳打ちする。


「……キスしてたら止まらなくなって

つい舌を入れたら怒られた」



「殿下………」



残念なのも大概にしろよと

セオドアは思った……。




こうして

ジュリとアルジノンはとりあえずは

モトサヤに収まった。



あとは四月の末日に

オリビア姫から予言を受け取り、


世界の存亡とやらをどうにかするだけだ。


ジュリは何か忘れているような気もするが、

それが何か思い出せないので、

とりあえずは気にしない事にした。



それが後々祟る事を、


この時のジュリはまだ知らない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ