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雅に痺れたね(A Brocade Scene Program)  作者: 枕木悠
第三章 エレガント・スクリプト
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第三章⑨

 二人が踊る後ろに輝き見えた太陽は一体何だったのだろう?

 まあ、アイナが見える未来というのはハッキリしない、ボヤけたものだ。修行が足りないのか、それが限界なのかは分からないけれど、アイナの『未来見』という能力によって、確かな未来が見えてしまう、ということはない。アイナはそれ以上の未来を見たいとは思わなかったし、マシロも能力を使わせたがらなかった。それでいい、とアイナは思う。

 だって、アイナは占い師。

 確かな未来を知る必要のない魔女だ。

 なんて。

 しかし、とにかく、スズメとマナミが『マシロの家』から去ってから随分と時間が経つのだけれど、店主のマシロがいつまで経っても帰って来ないのだ。

 インディアン・カレーを食べてから、大型書店に寄って、ダイエット本を読みふけり、書店の閉店時間になる頃にはまたお腹が減ってしまって、『マシロの家』への道中にあるチュロス屋さんでココアパウダと砂糖がタップリに付着したチュロスをお土産に買ってくるパターンだな、とアイナは推測した。そのパターンだと帰ってくるのはターゲット・ビルが閉まるギリギリの時間だ。夜の八時を過ぎればお客さんも来ない。さっさと帰宅したいところだが、マシロが帰って来なければそうもいかない。だからボードゲームをやろう、ということになった。それを提案したのはハルカだ。彼女はボードゲームに詳しく、四月の頭にここで働き始めてから、こういう暇な時間にゲームに誘ってくる。今日はボードゲームの定番、人生ゲーム。これなら夜の十時を過ぎたって、終わらないだろう。

 アイナは店先におしゃべりオウムを立たせ、入り口に近い円卓の方に移動する。ハルカは手際よく人生ゲームの準備をする。「ねぇ、ニシキもしようよ」

 ハルカは店の奥に声を投げる。木製のパーティションに仕切られた一番奥のスペースには、中央高校三年の桜吹雪屋藍染ニシキがいた。彼女はここで働いてもいないし、占い師でもないけれど、アイナとハルカと同じ、紫の色素を持つ魔女だった。雷の魔女。ニシキの能力はストロボ。一瞬の強い電光が彼女の力だった。アイナの未来見、ハルカの電気磁石と比べれば、オーソドックスな力だった。そんな魔女の彼女は、先ほど突然ここに現れ、何も言わずに白勝ちの桜錦が孤独に泳ぐ金魚鉢をずっと眺めている。魔女が突拍子もないことをするのは日常なので、それまで害もないし、ほっといていたのだが、二人で人生ゲームをするのも味がないので、ハルカは声を掛けた、というところだろう。優しいハルカのことだから、純粋に放っておけなかったのかもしれない。

「ねぇ、ってばぁ、」ハルカはニシキの小さな体を後ろから抱きしめる。「ニシキぃ、どうしたのかなぁ」

 自分が魔女だと知り、魔女というものはどういうものかを知ってから、彼女は女子に見境なく手を出すようになった。それはアイナとハルカが一緒に過ごした短い時間を見ても、エスカレートしていっているように思う。それはアイナの比較的大きな胸を何の脈絡もなく触ってくることからも分かる。恥じらっていたのは、初日だけだった。ハルカは女子の胸元にとっても興味があるみたいで、大小関係なく、ハルカは触りにいく。

「……ああ、もう、鬱陶しいなぁ、」ニシキは力なく叫び、少しだけハルカに抵抗したけれど、すぐに体の自由の全てを奪われる。「ない胸を触りやがって、嫌みなやつっ!」

「人生ゲームをしようってば、」ハルカはニシキのなだらかな起伏を指先でなぞる。「それとも、違うのがいい?」

「そんな気分じゃないのよ、ほっといて、黙って金魚を見ていたいの、白勝ちの桜錦が孤独に泳いでいるのを見ていたいの、そういう気分なの」

「ふうん、そっか、」ハルカはニシキの体から離れる。「でも、二人でやるのも、ニシキに悪いっていうか」

「悪い? なんで?」

「嫉妬するでしょ、私がアイナとばっかり、様々なことをしていると」

「意味分かんないこと言わないでくれる?」ニシキは腕を組み、ハルカを下から睨んだ。「私がハルカに嫉妬するなんてありえない」

 ハルカはニシキに何の脈絡もなくキスをした。

 すぐに唇は離れ。

 音が鳴った。

 アイナは嫉妬してしまうタイプなので、そのキスが少し、心に痛い。

 もう少し、私の気持ちを分かってくれてもいいのになって思う。

 別に、ヒステリックにはなったりしないんだけど。

 でも、少し、困るんだよなぁ。

 アイナは少し、真剣だから。

「……ありえないんだからぁ、」ニシキは睨み、力なく言って、そして黒猫のスコールが金魚鉢の水面の桜錦を狙っているのを見つけて慌てる。「ちょっと、スコール、駄目ぇ!」

 そのときだった。

「先輩!」

 入り口の方から声がした。振り返ってみれば、髪を乱し、呼吸を乱した女の子が立っている。こっちを見ている。

 視線は、まっすぐニシキに。

 アイナは彼女のことを人目見て、分かった。

 この娘も魔女。

 そして錦景市はどうなってしまったんだろうと思った。

 こんなに魔女を同じ場所にコレクションして、どうしたいんだろうって。



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