第三章⑧
大文字のEを基調にしたサインのデザインを考えたのはマナミだった。マナミはスズメと違ってアイドルとして最初から完成されていたから、サインを考える時間と余裕があったのだろう。スズメは釈然としないものを感じつつも、それをエクセル・ガールズのサインとしてハルカにプレゼントした。
「うわぁ、嬉しいな、」ハルカは屈託のない笑みを見せる。「生涯の宝物にするね」
場所はいつものマクドナルドのいつもの席。ダンスの後なので、備蓄エネルギア・ゼロのスズメはクォータ・パウンダのセットを三つ注文して、もう一度三つ注文しようって企んでいた。
「ねぇ、ファンクラブってあるの?」ハルカはマナミにポテトを食べさせながら聞く。
「うーん、」マナミは可愛い女の子にポテトを食べさせてもらいうことが最上の幸福、という表情をする。「おいちい」
「ファンクラブなんて、」スズメはコーラでクォータ・パウンダを流し込んだ。「まだ正式に出来てもいないわけだし」
「とにかく発足したら、会員番号一番は私に頂戴ね」
「うん、もちろんだよ、ハルカちゃん」マナミはすっかりハルカに心を開いている。ハルカは優しいから、甘えたい女の子によく懐かれる。猫みたいな女の子がハルカの周りには集まるのだった。
「あ、そうだ、二人とも、」ハルカは提案する。「『マシロの家』に来ない? 二人の未来を占おうよ、私は才能なくて未来は見えないんだけれど、本当に未来が見える魔女がいるから」
「占いですか?」マナミは乙女の目をしてはしゃぎ、手を高い位置に持ち上げる。「行きます、行きます、行きまーすっ」
「本当に未来が見えるだなんて、またハルちゃんジョーク?」
「んふふ、」ハルカは魔性に笑う。「とりあえず、占うだけでもさ、どう?」
「占いかぁ」
「あと三つクォータ・パウンダのセットを注文して食べ終わるまで待つよ」
「……なぜ分かった?」スズメは目を丸くし、クォータ・パウンダをかじり飲み込み言う。「まさか、魔法?」
「あはは、違うよ、」ハルカは吹き出す。「スズメのことだもん、魔法を使わなくたって、分かること、ずっと観察してきたんだから、分かるのよ」
スズメはなんて返答したらいいか分からなくて、とりあえずコーラの氷をガリガリした。
スズメが三つのクォータ・パウンダのセットを再び注文して、それを平らげてから、三人は占いの館『マシロの家』に向かった。マクドナルドから地下街を西の方へ歩き、五番ストリートを北へ、そして左手に見える通路に進み、錦景ターゲット・ビルへ入り、エスカレータに乗り一階へ、タワー・レコードの前を通過した先、その在庫倉庫の向かいに『マシロの家』がある。久しぶりに来たけれど、ファンシィ・ショップの外観は相変わらず。頭上で怪しい色を放つネオン・サイン。店頭のショーケースでは大小様々な形のパワーストーンが売られていた。その他、タンバリン、3Dメガネ、万華鏡、トライアングル等、占いに関係なさそうなグッズまで売られていた。そのグッズの色合いは紫を基調とした怪しいもの。さらに怪しいのは、そのショーケースの向こうにいる、錦景女子高校の制服を纏った女子だった。その髪の色はほんのりと紫色。首と手首にはパワーストーンをじゃらじゃらと下げている。そしてその肩には白い体に黄色い立派な冠羽を持った、オウムがいる。小さくはなくてそれなりの大きさがあって、異様だと思った。
「およ?」その人は三人を見て声を上げた。「ハルちゃん、その娘たち、だぁれだ?」
「だれだ! だれだ! だれだ!」オウムが急に騒ぎ出して、大きく羽根を広げ、急に静かになる。
肩で凄く騒いでいたというのに、オウムを肩に乗せた女子は瞳を微動もさせなかった。
マナミはオウムにビビってスズメの後ろに隠れていた。スズメも少しビビっている。
ハルカはその人に二人のことを紹介する。「商業のスズメとマナミです」
「ふむふむ、商業のスズメとマナミとな、」その人は両手を差し出して、二人に同時に握手を求めた。「私は錦女三年、恋の占い師の斗浪アイナじゃ、よろしゅう」
「よ、よろしゅう」マナミはぎこちなく微笑みアイナと握手をした。
「ええっと、」スズメもぎこちない笑顔でアイナと握手をした。「よろしくお願いします」
「ははっ、」アイナは尊大に笑う。「そう緊張するでない、しかし可愛げがあってよろしい」
「二人とも気を付けてね、」ハルカはスズメとマナミにウインクして微笑む。「アイナのふざけるスイッチが入ったみたいだから」
「変なスイッチ」マナミは言いながらオウムを威嚇するように睨んでいた。
「大丈夫、大丈夫、」アイナがマナミに言う。「煩いだけで、他に何もないから、あ、ハルちゃん、今、マシロ先生、インディアン・カレー食べに行ってるけど」
「それはちょうどよかった、」ハルカは眼鏡の位置を直しながら言う。「アイナ、二人を占ってあげて」
「え、私が?」
「うん、二人の未来を」
「マシロ先生に怒らちゃうな」
「今、いないじゃない」
「もちろん、断ったりはしないよ、」アイナは笑顔になって立ち上がった。「さ、二人とも、こっちにいらっしゃいな」
スズメとマナミは『マシロの家』の中に入る。木製のパーティションで区切られたスペースが三つ並んでいる。その一番奥にアイナは二人を案内した。スズメが以前にハルカとここに訪れたときと変わらず円卓があり、アイナは小さいサイズの分厚い座布団を置き、その上に水晶を乗せ、円卓の向こう側に座りセーラ服の袖を捲った。スズメとマナミは対面に座る。その拍子に黒猫が円卓の上にどこからか飛び降りてスズメを驚かせた。以前来た時にスズメを睨んだ黒猫だった。ハルカは黒猫を抱き上げ、肩に乗せた。黒猫は大人しい。
「よっしゃ、さっそく、」アイナは手の平を擦り合わせてから、水晶に両手をかざした。「占っちゃうよぉ」
アイナはそして、目を瞑った。
生年月日とか、その他諸々、アイナは二人に聞かず、ただ水晶に手をかざしただけだった。
横に立つハルカを見る。
ハルカの肩の黒猫はスズメをじっと見下ろす。
ハルカはとにかく黙ってて、という顔をスズメに向けた。
スズメは正面のアイナに視線を戻した。
徐々に。
アイナの紫の髪の色が微細に光っているように思えた。
そして、水晶の中に小さく光が産まれ。
ゆっくりとそのサイズを大きくしていく。
不思議な演出。
どんなトリックを使っているんだろうって考えた。
水晶の下の分厚い座布団が怪しいな。
そうスズメが思った時。
アイナは目を見開き。
首を傾げて言う。「太陽?」




