第三章④
シノヅカカノコ・アンド・オーバドクターズ、というのが三人のバンドの名前。ベースの折口の専門は臨床心理学。ドラムの井筒の専門は言語学。オーバドクターズの三人はスズメとマナミを賽銭箱を背中に座らせた。機材を並べ、手際よくライブの準備に取りかかる。なんと、二人だけにライブを見せてくれるらしい。エクセル・ガールズ、記念すべきファースト・シングルのカップリング曲を披露してくれるらしい。
篠塚を中心に、形が出来上がる。
「それじゃあ、聞いて、」篠塚はギターの音を歪ませる。「エクセル・ディスコ!」
私は踊りたいのよ あなたとこれから 一年中
私は踊りたいのよ あなたとこれから 一晩中
でも振り向いてくれないのだからさ
もう 拗ねてしまうよ
こっちを見て笑ってくれないのだからさ
もう 嫌になってしまうよ
ヒステリックになってしまうの
あなたを上手く使いたいのよ
逆は嫌よ、嫌なのよ!
あなたは私優しくしなさいよ
逆は嫌よ、嫌なのよ!
コレ以上苦悩したら私 本気で嫌いになっちゃうのよ
え、もう僕の虜だって?
気づけば私一人ミラーボールの下
狂ったように変な調子で
いつの間にかディスコを踊ってる!?
踊らされてる!?
演奏終了。
スズメとマナミの小さな拍手が錦景第二ビルのロックンロールが消えて、急に閑散となった屋上に響いた。
「こんな感じだけど、」頬をピンク色に染めた篠塚が聞く。「気に入ってくれたみたいね?」
篠塚の言う通り、二人は『エクセル・ディスコ』を気に入った。二人は激しいメロディに踊っていた。石畳の上で滅茶苦茶に踊っていた。とっても、楽しかった。
「はいっ、」マナミが大きく頷く。「こんな楽しくて可愛い曲、聞いたことありませんっ、ね、スズメちゃん!」
「うん、凄く、ええっと、」スズメは何かこの感動を表す頭のいい言葉を探したが何も思いつかなかったからとびきりの笑顔を作った。「凄いです、こんな凄い曲を頂けるなんて、歌えるなんて、凄いです」
「スズメちゃん、凄いしか言ってない」
「ああ?」スズメは頭の弱いことを指摘されたみたいでイラっとした。「感動に言葉なんていらないでしょ!?」
「ご、ごめん、」マナミは頭を手で隠して言う。「凄く、正論だねっ」
「そうよ、正論よっ」
「あはは、ありがと、」篠塚は二人のやりとりを見ながら笑顔だ。「六十年代風のメロディと表計算ソフトを皮肉った歌詞を気に入ってくれたみたいね」
『国際的表計算ソフトを皮肉った歌詞?』スズメとマナミを顔を合わせて首を傾げた。『って、なんのことですか?』
篠塚はブーツの底が滑ったみたいに体を傾けた。「……あれ、気づかなかった?」
「だから何のことですか?」
「おいおい、」篠塚は額に手をやる。「商業の女子はそんなに頭弱いイメージなかったんだけどな」
「よし、とにかく後は、」振り向けばいつの間にかスズメとマナミの背後に、ドラゴンベイビーズのオーナの天之河ミツキが腕を組み立っていた。「踊りだけね」
「はい、頑張ります」マナミが頷く。「一応、記憶がある頃からずっと今で、バレイをやっていたので、大丈夫だと思います」
「え?」スズメは声を出す。踊りのことなんて、考えてなかった。歌うことは考えていた。ステージに立ち、お客さんの前で歌を歌うことは考えていて、それはとっても素敵って思ったけれどでも、踊りのことって考えていなかった。「踊り?」
「振り付けはなんとなく、閃いた、」天之河はスズメとマナミの肩に手を置き言う。「あとは二人の頑張り次第だわ」




