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ORIGIN-7 Short Stories - Jewelry Box -  作者: ORIGIN-7


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CROSSOVER【白瀬ミオ】豆腐二丁ぶんの記憶

本編100話記念のSSです。

鍋の日だった。


ミオはスーパーの袋を片手に、アパートの階段を上がっていた。袋の中で白菜と豆腐と安い鶏肉がぶつかり合い、かさかさと音を立てる。鍵を開ける前に、部屋の中からレンの声がした。


「ミオ、豆腐買った?」

「買ったよ」

「何丁?」

「二丁」


少し間が空いた。


「……二丁?」

「なに、その確認。鍋でしょ。豆腐は二丁いる」

「一丁でよくないか」

「よくない。レンは豆腐を甘く見てる」


ドアを開けると、レンは小さな机の前に座っていた。ノートパソコンの画面には、よくわからない配線図みたいなものが映っている。趣味の修理か、仕事の残りか、その中間だった。ミオは袋を台所に置き、豆腐のパックを二つ並べた。


「ほら。二丁」

「圧がある」

「豆腐には圧が必要」

「それ、たぶん豆腐の作り方の話だろ」

「たぶんそう」


レンが笑った。声だけで笑うみたいな、短いやつだった。


鍋は特別な料理ではなかった。白菜を切って、鶏肉を入れて、豆腐を崩さないように置く。ミオは崩さないつもりだったが、ひとつ目の豆腐は包丁を入れる前に端が欠けた。


「事故」

「早いな」

「豆腐がやわらかすぎる」

「豆腐のせいか」

「そう」


レンは文句を言いながら、箸と器を出した。ミオが火をつけると、鍋の底から小さく泡が上がった。部屋に湯気が増えて、窓が少し白くなる。


それだけの夜だった。


大きな約束もなかった。未来の話も、たぶん少しはしたけれど、何を言ったかははっきりしない。仕事の愚痴と、安い豆腐の話と、次はもう少しいいポン酢を買う話。けれどミオは、その夜のことを妙に覚えていた。


レンが豆腐を一丁で足りると言ったこと。自分が二丁いると言い張ったこと。鍋の最後に、レンが結局いちばん豆腐を食べたこと。


「ほら、食べてるじゃん」

「あるから食べてるだけだ」

「豆腐に負けてる」

「勝敗あったのか」


その時、ミオは笑っていた。


そして今、ミオは古い祠の前で透明な板を持ち、白い食物の構造ログを見ていた。豆をすりつぶす。白い汁を取る。苦い液を少し入れる。固める。手順は雑だった。記憶も雑だった。けれど、胸の奥に残っているものだけは、なぜか消えていなかった。


「……二丁」


白狐が耳を動かした。


「ミオ?」

「ううん。なんでもない」


ミオは透明な板を持ち直した。祠の前では、村の女たちが不思議そうに白い塊を見つめている。神官はそれを供物として扱っていいものか、まだ迷っている顔をしていた。


白狐だけが、少し真面目に言った。


「それは、大切な食べ物なのですか」


ミオはすぐには答えなかった。


ただの豆腐だ。現代では、どこにでもあるものだった。安くて、白くて、崩れやすくて、鍋に入れるとだいたい誰かが取りそこねる。でも、今は違う。ここでは、村の食べ物になる。供物になる。外の村へ渡るかもしれない。そしてたぶん、どこかでまだ生きているレンと、自分をつなぐものにもなる。


ミオは小さく息を吸った。


「うん。大切。たぶん、思ってたより」


白狐は黙ってうなずいた。


ミオは白い塊をそっと皿に移した。端が少し崩れた。


「……事故」

「今のは、ミオの手元です」

「見てた?」

「見ていました」

「白狐さん、そこは祠のせいにして」

「祠に失礼です」


ミオは少しだけ笑った。その笑い方を、昔のレンなら見逃さなかったと思う。


どこかで、レンも何かを直している。たぶん工具を握って、文句を言って、AIに変な確認をされている。そしてたぶん、食べ物のことは少し後回しにしている。


ミオは皿の上の豆腐を見た。


「レン、ちゃんと食べてるかな」


答えはなかった。


通信はまだない。リンクもまだない。届くはずがない。それでも、ミオは透明な板を祠にかざした。


[LOCAL FOOD NODE]

――――――――――

白色食物:安定化

保存性:低

供物適性:確認中

記憶由来タグ:未分類

――――――――――


「未分類でいいよ」


ミオは小さく言った。


「まだ、名前をつけるところじゃない」


白狐が隣で尻尾を丸めた。


「では、まず食べましょう。供物としての確認です」

「白狐さん、それ自分が食べたいだけでは?」

「確認です」

「二丁ぶん作ってないからね」

「二丁?」


ミオは豆腐の皿を持って、村のほうへ歩き出した。


「うん。二丁。いつか、ちゃんと作る」


その時は、たぶん一人では食べない。

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