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あの果てしない空の下  作者: kai
第三章
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16/16

16.有巣仁理の遠征日誌

『貧相な身体の話』


ハインツ「湯加減どうだ?」

仁理「勝手に入るな。」

ハ「良いだろ?減るもんじゃないんだし。」

仁「減る減らないの前にその減らず口を閉じてください。」

ハ「くぅ〜!辛辣ぅ!でもでもぉ、そんなヒトリ君もぉ、ちゅ・き♡」

仁「きっしょぉ。」

耐えかねて湯舟から上がる仁理。

ハ「えぇ〜もうちょっとゆっくりしようよぉ。」

「相手を納得させるのに筆舌を尽くす必要は無い。」

仁理は、向かいの席に座る羊型の獣人の女性、ムヨウに話しかける。

首を傾げるムヨウ。

「この説で大事なのは“納得”という点だ。理解させるには逐一の説明が必要だが、納得させるだけなら一言で良い。そして、納得出来る人間は一言で納得するし、納得出来ない人間は3日かけても納得出来ない。」

手に持っている本を閉じ、机の上に置く。

「他のことでも同じだ。出来るヤツはちゃんと教えればすぐ出来るし、出来ないヤツは一生かけても出来ない。そして、これは俗に“才能”と呼ばれる。」



#31『凡才』



時は、ベスタ・カース勧誘の直後まで遡る。

「リヴェイン。居るか。」

「はい、此方に。」

「祝福無しで戦えるように鍛錬したい。」

仁理は、ネギア・ベリトとの戦いで地力の低さを痛感していた。

仁理は、オーバードライブと祝福を絡めて鍛錬することで、魔力操作は魔力を知覚して数日でベスタに引けを取らないほどまで成長し、数週間で治癒魔法も習得している。しかし、魔法での戦いは操作精度だけで決まるほど単純ではない。

「具体的には魔力出力。現状では“横薙ぎ”一発で身体が悲鳴を上げるからな。」

ちなみに仁理が言う“横薙ぎ”は、圧縮した魔力を刃のようにして広範囲を一掃する、ネギア戦で使用した技である。

「それはかなり時間がかかりそうですね。」

「やっぱり?」

「ええ。魔力を使いすぎた際に起きる身体の痛みは、筋肉痛のような負荷に対する反応ではなく、魔力が身体を作り変えようとする反応へ抵抗する際に起きるものですから。」

「え、マジ?」

突然突きつけられた情報に目を丸くする仁理。

「はい。短期間で多量の魔力に曝露した物質は、より魔力を通しやすい物質に変化するのです。本来、この世界におけるヒトの肉体は魔力を通すものでなければならないので、規定量がかなり高めに設定されているのですが、魔門を無理やりこじ開けたり魔鉱石を使ったりすると簡単に変化してしまいます。」

今の仁理には心当たりしかない。

「加えて、重度の昏睡状態になることもあります。そうなった場合は脳が変化します。」

「......具体的には、どうなるんだ?」

続くリヴェインの言葉は、仁理の想像を逸脱したものだった。

「祝福を獲得します。」

「祝福......?」

(祝福は後天的に獲得するものなのか......?どうりで使い手が少ないわけだ。)

そして、次に仁理の脳裏をよぎったのは、土上竜を討伐した後、仁理が陥った昏睡状態。何かしらの“調整(チューニング)”がそこで入ったことは想像に難くない。

(願わくば、アレが『 』(くうはく)用の調整であったことを祈りたいな。)

そして、話は次に進む。

「そうならないためには、どうすれば良い?」

「まだ実証には至っていませんが、変化の直前まで魔力を使用し、回復するまで休む、という工程を繰り返せば可能かと思われます。」

「だから時間が掛かるのか。」

少し考える仁理。

「サフィアの元を離れず、かつ鍛錬に時間を割く方法といえば。」

複製体(クローン)ですね。」

正解(エサクタ)。」


仁理とリヴェインは、培養ポッドの前に居た。

「いいね。悪の科学者っぽい。」

「記憶は不完全になります。急拵えである上に、『万世の備忘録』に無い情報は脳内に無いものとして扱われているようなので。」

「まぁバレないでしょ。俺とサフィアは知り合ってから日が浅いし、唯一気付きそうな無堂も、コイツの意思と自認を蔑ろに出来ないだろうし。」

「それと、鍛錬の内容についてですが、私から要望があります。」

「ほう?」

「此処から遥か西方にある人の立ち入らない秘境。そこに生息する龍を狩っていただきたい。」

「ワイバーン?それともドラゴン?」

ワイバーンは前脚が翼になった竜、ドラゴンは前脚とは別に独立した翼を持つ龍である。

「ドラゴンです。なんでも、腕のように発達した翼の骨格を持っているとか。」

「写真......とかは無いよな。」

「絵なら此方に。」

仁理が受け取った紙には、白と青の骸骨のような龍が描かれている。

「なんとなく黒と紫だろうと思ったんだが、早計だったか。まぁ何にせよ、絵があるなら話は早い。特筆事項は?」

「討伐隊に対する精神汚染が確認されています。帰還した狩人が皆、躁鬱に近い状態になっていたとか。」

「道理で人が立ち入らない訳だな。」

絵を4つ折りにしてポケットに仕舞う仁理。

「OK、次の非常事態が起きる前にサッと片付けて、とっとと魔力の方を仕上げよう。......一人じゃ寂しいし、誰か寄越してくれないか?」

「丁度良い子が居ますよ。」

リヴェインが名前を呼ぶと、羊の獣人少女が顔を上げる。

「ムヨウといいます。少し喋るのは苦手ですが、仲良くしてやってください。」

仁理が目を合わせると、ムヨウは柔らかく微笑む。

「こりゃあ、静かな旅になりそうだな。」



そして、話は飛行船内の仁理とムヨウに戻る。

「この世界において、才能を表す具体的な指標は魔力だ。もちろんそれだけじゃないが、基本的に誰もが持っている普遍的な物である以上はそう捉えて良いだろう。祝福が例外なく後天的に獲得される物であるという前提の話だがな。」

うんうんと頷くムヨウ。

「魔力総量、魔力出力、魔力操作。どれが欠けても弱いし、どれか一つだけ出来ても仕方がない。全部出来ないのならアンシーのような“外れ値”になれる可能性もあるが、そうでないなら魔法は諦めるしかない。つまり、祝福か魔道具無しでは盤上に出ることすら出来ない。」

仁理が魔力の糸を伸ばして水筒を引き寄せる。

「その格差を是正するのが祝福だ、と思ったんだがな。」

水筒には炭酸水が入っている。

炭酸水を口に含み、静かに嚥下する仁理。

「祝福の獲得に関係するのは魔力。つまり、そもそも魔力を扱えない者はどうしようもないだろう。結局、努力で才能格差は埋まらない訳だ。一つだけ、本当に一つだけ存在する“裏技”を除けば。」

水筒を置く仁理。

「それが契約印。悪魔から力を貰うことだ。」

少しの間が空いて、仁理は再び口を開く。

「俺が祝福を使わない地力に戦う理由はただ一つ。契約印攻略の“正攻法”を見付けること。確かに俺の祝福は強い。強いからこそ、砂時計によるやり直しも、触れたものを改造する力も、毎回祝福で攻略してちゃ駄目だと思うんだよな。」

間。

「何故?と思うだろ。」

頷くムヨウ。

仁理は、思考を整理すべく、鋭く息を吐く。

「この世界の主人公は俺じゃない。あくまで異世界から偶然やって来た外野でしかない。すなわち、この世界が抱える問題を解決する義務も、権利も無い。故に、悪魔を巡る問題を解決するのはこの世界に元から居た者、そして、元からあった力であるべきだ。再び同じ問題が起きた際に、また解決出来るようにな。」

一頻り喋った後、仁理は深く息を吸う。

「不可能だ。悪魔は君たち人間より明確に上位の存在だからな。別の次元から此方に干渉し、気まぐれに事件の種をばら蒔いて去っていく。」

後に、ムヨウは語る。

「はた迷惑なもんだよなぁ。可哀想に。」

この時のヒトリは、どこか他人事のように、世界を語っていたと。

そしてどこか叙情的で、また諦観的であった、と。



魔獣の群れを魔力放出で処理する仁理。

手を出さないムヨウに「やってみろ」と指示するが、ムヨウの魔力は圧縮が足りず途中で霧散してしまう。

「やっぱ難しいか。燃費も悪いし、これはナシだな。」

次の魔獣をナノマシンで両断する。

「んー、これも駄目だろうな。この世界の技術でナノマシンを再現出来るとは思えない。リヴェイン無しなら、の話だが。」

しかし、仁理は別の手段を使わず、その後の魔獣の処理をナノマシンで行う。

「ま、コレは当人たちが何とかするでしょう。何とかなるだろうし。取り敢えず俺は俺が楽な方法でやる。」

やっぱり冷めてるなぁ、と感じたムヨウであった。



「おぉ。」

2人は、大きな滝が一望出来る崖の上に居た。

「此処で昼飯にしようぜ。」

レジャーシートを敷き、サンドイッチをムヨウに渡す。

「キルバス大瀑布。ネレシア王国内最大規模の滝らしい。落差は500m、幅は2km......すげぇな。」

黙々とサンドイッチを食べ進める2人。

その沈黙を埋めるかのように、滝は一層、大きな音を発していた。



「此処か。」

開けた場所に来た2人。

ど真ん中に、藁や枝葉を組み合わせた大きな巣がある。

「こんな野晒しで大丈夫ってことは、雨が降らないか、降っても平気な生態かの二択だな。」

その時、ムヨウが仁理の背中をつついた。

「ん?」

振り返ると、ムヨウの更に後ろに、背の高い銀髪の男が迫っているのが見える。

「デカ。」

「君たち、人間?」

人間じゃない可能性があるのか、と考えつつ、ムヨウと顔を見合わせる仁理。

「何しに来たのかわからないけど、危ないから離れた方が良いよ。」

「俺らは龍を討伐しに来た。」

「へぇ?」

銀髪の男は、品定めするように2人を見下ろす。

「強いの?」

仁理は再度ムヨウと顔を合わせ「強い?」と訊くが、ムヨウは首を横に振った。

「この子は強くないらしい。」

「君は?」

「結構強いよ。」

「へぇ......」

しばし睨み合う両者。制御に長けているため魔力漏出が0である仁理の喉元に、威嚇するような銀髪男の魔力が突き付けられる。

「王都直属魔道士団副団長、ルカ・ヴィオルテ。君らは?」

聞き覚えのある苗字。しかし、仁理に驚きは無い。知り合いの知り合いだからといって、安易に隙を晒すほど迂闊ではないのだ。

「ノワール。こっちはムヨウ。」

「所属は?」

食い気味の詰問。少し視線を泳がせる仁理。

「んー......内緒。」

「あっそ。」

一見すると興味無さそうな発言、そして態度だが、ルカの中では仁理への警戒が高まっている。

((ブラフ)だな。初見の相手の所属を訊いておいて、素直に引き下がる訳が無い。......まぁ、思わせぶりな言い回しで釣ったのは此方なんだが。)

同時に、仁理側もそれを推察し、祝福の起動が視野に入る。

「僕の祝福は『加算』。あらゆるものを増やすことが出来る。距離、速度、魔力に筋力などなど、なんでもござれの万能祝福。」

突然の開示。

「どういう意図?」

「え、知らないの!?うっわかわいそ〜。まともな教育受けてないんだ。」

「腹立つ言い方だなお前......」

呆れ顔の仁理。僅かな間、立ち込める光属性の魔力に胸焼けしそうになりながら、次の言葉を待つ。

「“契約”だよ。対価を払えば利益が得られる。二者間の契約、自己完結型の契約。魔力を多く消費して精度の高い魔法を使うとか、情報を開示して祝福の効果量を底上げするとか。」

(“縛り”みたいなもんかな。随分と都合の良いシステムだ。)

「説明終わり。やるんでしょ?構えなよ。」

刹那の間、緊張の糸が張り詰める。

横薙ぎ。倒壊する木々を背に、仁理は魔力を圧縮し刃として放つ。

魔力の刃は、ルカの目の前で見えない壁にぶつかって霧散した。

(魔力圧縮は相当の精度。けど速度が微妙だな。つまり、操作は才能で補えているけど出力の鍛錬が不十分。この様子だと魔力切れもすぐだろうし、何かしら奥の手があるんだろうな。)

「その感じ、祝福持ちでしょ。なんで最初に使わないの?」

「切札は最後まで取っておくもんだぜ。」

そして、当たり前のように浮遊しているルカに感嘆する仁理。

(『加算』から見えない壁と浮遊が思い付くとは、かなり研鑽を積んでいるな。ベルモンド・バーンズよりこいつの方が“味方側の最強キャラ”ポジに近いのでは?なら此処で俺が勝ったらマズいのでは?)

しかし、そんな思考は、

「.........いや、」

仁理にとって、野暮以外の何物でもなかった。

「全力でやんなきゃ、面白くねぇよな。」

ハッとして辺りを見回すルカ。案の定、ムヨウの姿はどこにも無い。

(しまった......!)

「―――開放結界『無影廻廊』」


#32『高難度:与える者と奪う者』


(結界が展開しない!?)

「なんてな。」

瞬間、突風と共に仁理が宙を舞う。

(風!?ノワールの魔力属性は氷なのに!?)

そして仁理は、空中で静止した。

「不思議、って顔だな。」

掌に魔力を込める。

「けど、説明は野暮だろ。」

閃光が樹海を穿つ。

魔力の波は、更に木々を押し倒していく。

「環境破壊も良いとこだね。」

しかし、依然としてルカは無被弾のままである。

(やっぱ無理か。貫通魔法は魔法しか突破出来ないし、弱ったな。)

魔力放出を続けて時間を稼ぐ仁理。

(『加算』で見えない壁を作り出す理屈は何だ?架空の距離の加算?それとも、マイナス方向への速度の加算?)

魔力放出を止めた仁理。

「どうしたの?もう終わり?」

ルカは余裕綽々といった表情。

(攻めて来なかった。舐められているか、何かしらの理由があるかだな。なら、試させてもらおう。)

仁理の周囲に、荒削りの氷が出現する。

その氷の透明度に、思わず目を疑うルカ。

(氷魔法.........しかも空気が入っていない。つまりとんでもない精度だ。どれほど器用ならこんな芸当が可能なんだ.........?)

しかし、とルカは思考を切り替える。

(関係ない。どれほど密度が高かろうが、僕の祝福なら、)

次の瞬間、ルカの右腕は宙を舞っていた。

「!?」

傷口が焼けるように熱い。

(光!?)

仁理の氷は、いつの間にか立体パズルのように分解されていた。

(成程、氷の形を偏光硝子(ガラス)の様に変えて光を収束させたのか!しかもすぐに氷を分解して破壊を難しくしているとは!)

「やるね。けど.........」

ルカはすぐさま治癒魔法で右腕を再生し、指を仁理に向ける。

「そう長くは持たないでしょ!!」

しかし、ルカの指から放たれた光線は仁理の前で拡散してしまう。

煙の中から現れたのは、無色透明の分厚い氷であった。

(頑丈すぎ......!)

「氷属性の利点はその応用力だ。本質が“冷却”にあるからな。加えて、魔力操作だけ極めれば氷の密度を上げられるし、イチから氷を作る製氷魔法なら作った氷を自由に動かせる。」

その時、仁理の鼻から血が滴る。

「一つ......弱点があるとするなら.........」

魔力の生成は魔臓で行う。一方で、生成した魔力の最適化と術式の構築は脳で行う。仁理の卓越した魔力操作技術は、現代日本で培ったエネルギーの知識と本人の並外れた執念によるものであり、仁理に特別な能力があることに起因するわけではない。

つまり、仁理の魔力操作はただ“頑張っていただけ”である。故に、魔力操作の鍛錬を初めてからこの瞬間まで約1ヶ月間、仁理の脳には全力で勉強している時と遜色のない負担が掛かり続けていた。

脳の疲労の回復には休息が必要である。しかし、仁理は休まず鍛錬を続けていた。そのツケ(・・)が回って来たのである。

(なるほど、相当の無茶をしていたな?)

コントロールを失って落下を始める仁理を見て、ルカは咄嗟に彼を拾おうと近寄る。

しかし、巨大な土の壁により阻まれた。

壁の伸びる先の地面には、土属性の魔力を纏ったムヨウが居る。

(土属性......?だよな.........?)

土属性の魔法使いはその特性上かなり珍しい。なんと、ルカも今この瞬間まで土属性の魔法使いを見たことがなかった。

ムヨウの肩に掴まる形で仁理が着地する。

「どうする?主役が落ちた訳だけど。」

ムヨウの前に着地するルカ。

一方で、ムヨウは動かない。

(退かない......どういうつもりなんだ?)

「まだ落ちてねぇよ。」

未だ気を失っていない仁理が絞り出すように言う。

「もう無理でしょ。ボロボロじゃん。」

「退かない。」

仁理の目は、真っ直ぐにルカを見据える。

「絶対に。」

魔力の勢いは未だ衰えていない。


と、その時だった。



ヒトリ「うっわぁやっぱ強ぇわお前。」

ルカ「まぁ、腕相撲で負けたことないからね!」

ヒトリ「もう一回やろう。今度はこのブラックサンダーを賭ける。」

ルカ「ま、せいぜい頑張りたまえよ!」


ヒトリ「チッ......クッソ.........」

ルカ「仁理!どうした?!」

ヒトリ「西高のやつらにやられた。」

ルカ「何人?」

ヒトリ「7人。一匹でけぇゴリラが居た。多分そいつが(バン)だ。」

ルカ「ッハハ!そりゃあ骨が折れそうだ。」


ルカ「ッはぁ〜!最高!」

ヒトリ「最悪の間違いだろ。」

ルカ「いや、最高だね!なんてったって僕ら最強だし?」

ヒトリ「.........まぁ、な。」




ルカの頬を、一筋の涙が伝う。

「おっと?」

「.........魂の友......言わば、soul mate.........」

(英語!?この世界には無いんじゃなかったのか!?)

「いや!皆まで言わなくてもわかるさ!なんてったって僕ら、“相棒”、だろ?」

「えぇ.........?」

困惑した仁理とムヨウは顔を見合わせる。

(記憶共有?予知?......じゃないよな。.........ないよな?いや、ただキモいだけか?キモいだけで英語がわかるか?)

「ヒトリも幻龍(げんりゅう)を討伐しに来たの?」

(当然のように正体がバレてるな.........)

「ヒトリじゃないよ。」

「あーそっか、ノワールか。昔っからそういうとこ細かいよねぇ。」

「昔って.........俺ら初対面だろ?」

「忘れたとは言わせないよ!僕との熱い友情を!!」

「きっしょ。」

(けど、対話の余地が出来たのは好都合か。ぶっちゃけ魔法で殺すか祝福で殺すかの2択だったし。)

疲労でグズグズの脳を必死に回転させこの後の動きを考えようとする仁理。

「あー......俺の脳治してくんね?」

どうやら、思いつかなかったようだ。

「良いよ!というか、治るのかな?」

と言いつつ、躊躇なく仁理の頭に治癒魔法をかけるルカ。属性は違うが、損傷が軽かったためあっという間に鼻血がおさまる。

(治してくれたということは、もう敵対するつもりはないのか?)

「よし、治った。」

とその時、3人を大きな影が覆う。

「お、噂をすれば。」

「ちゃちゃっとやっちゃいますか。」

「極力傷を付けないように。検体にする。」

「りょーかい。」


「.........大したことなかったな。」

「オーバーパワーだったね。」

ここで、仁理は英語の出処について訊くことにした。

「その“オーバーパワー”って何?」

「あぁこれ?リュエン語だよ。お隣にあるリュエン王国の。」

「あーね。」

(要は言語的に英国に相当する国があるのか。この国で日本語が通じる以上、信じざるを得ないな。)

「んじゃ、僕は王都に帰るよ。」

「あぁ、その前に。いくつか頼みたいことがある。」

「んー?」

「ノワールが有巣仁理と同一人物であることを明かすな。それと、もしかすると王都に俺が来るかもしれないが、お前のことを知らなければ偽物だ。初対面の振りをしてくれ。」

「りょーかい。演技なら得意だよ!」

「それと、もう一つ。」

仁理は、口に人差し指を当てる。

「“喋る案山子(カカシ)に気を付けろ”。」

「?.........わかった。気を付けるよ。」



そして、時は飛んで数日後、仁理は幻龍の死骸をリヴェインに提出したのち、ムヨウと解散してクロード邸に赴いていた。

ちなみに、時系列はサフィアが屋敷を出た直後。クロード姉妹を除いて、誰とも鉢合わせない段階である。

「一人かい?」

門まで来たところで、エイミーに話しかけられた。

「一人だ。一人の仁理。」

「それ面白くないよ。」

エイミーと共に屋敷に入る。

そして、2人が入ったのは応接室。そこには、ハインツが居た。

「お疲れ。待ってたよ。」

「わざわざ応接室とは、随分とよそよそしいな。」

「こんな果たし状送られちゃ、いくら身内でも警戒するさ。」

仁理はハインツの向かいに、エイミーはハインツの隣に座る。

「どこまで、“予想通り”だ?」

「妙なことを訊くね。じゃあ、質問を質問で返すようだけど、オレからも訊こうか。」

ハインツは、肘を置き頬杖をつく。

「一体いつから、オレの能力が『未来視』だと思ったんだ?」

「サフィアに魔法を習い始めた頃からだ。彼女はおよそ道に迷ってはぐれるようなドジじゃない。なのに、王都で俺と会ったキッカケはエイミーとはぐれたことだ。つまり、俺とサフィアが出会わなければ不都合が発生する、そんな人物が何かしらの細工をしたのだと思った。」

「それじゃあ弱いな。結論ありきの妄想披露大会でもしたいのかな?」

「それと、俺はお前が未来視持ちだなんて一言も言ってないぜ。」

ハインツの眉が僅かに上がる。

「あるんだろ。もう一つの“砂時計”が。」

ハインツが乾いた笑いを漏らす。

「で?」

「いくつか、訊きたいことがある。1、アンシー・ヴィオルテの腕は治るか。2、崇理教の組織構造。3、“ノワール”の正体。そして4......」

仁理は、わざと僅かに間を開けた。

「何回、俺と敵対した?」

「.........まずは1、治る。君の“協力者”とやらが治してくれる。次に2、知らない。オレはあくまでみんなに死なれたくないだけで、崇理教云々は知ったことじゃない。そして3、これも知らない。現状では“超強くて血も涙も躊躇も無い殺意の塊”という情報しかない。そして4だが......」

ハインツは、長い溜め息を吐く。

「100から先は数えたくもないな。エイミーが居なければ今頃オレは挽き肉か、氷漬けか、もしくは丸焼きだからな。」

「成程。」

正直、仁理はドン引きした。別の時間軸に居た自分のせいであるにも関わらず。

「で?どれぐらいの長さを繰り返してる?」

「一週間。今日が5日目。」

「そうか。なら明後日が峠だな。」

「いや、今日だ。」

「今日?何故?」

ハインツは大きく伸びをする。

「君の機嫌が良いからだよ、ヒトリ。」

乾いた笑い声を出す仁理。

「あんたが俺の敵じゃないことを祈るよ。」

『祝福の話』


屋敷清掃中の会話。

仁理「祝福ってそもそも何?」

瑞希「今更って感じですね。特別な異能みたいな感じなんじゃないですかね?」

仁「何も新しい情報が無いな。」

瑞「そりゃそうですよ。実例が少なすぎるんですから。」

仁「隠してるとかじゃないのか。」

瑞「というより、有名な上位層が祝福無しで戦う化け物ばっかりだからですね。騎士団の第二席から四席は祝福無しですし、魔道士団や呪術師団はそもそもメンバーが公開されていませんし。」

仁「魔道士団に呪術師団......騎士団の人員不足はその2つが原因では?」

瑞「はいはい。次行きますよ。」

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