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約束に疲れた私に待っていたのは、いつもコーヒーをくれる人でした  作者: サトウアラレ
第3章

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5 ルイ視点

朝方になって、流石に俺もウトウトして、四時くらいに記憶が少し抜け、十五分おきに寝て五時半になった時に、七海君は「ふえ?」とか言って起きた。


「あれ?ああ、あれ?」


天井を見て不思議がってるな、そして俺を見て、また不思議がってる。


こういう所が子供だなあ、と思うけど。


「ええ?あれ?」


「おはよう、七海君」


「おはようございます。あれ?」


挨拶をすればちゃんと返す。まあ、ユイさんの親戚だ。礼儀はしっかりしてる子なのかもしれない。


クソガキからガキくらいには昇進してやってもいいだろうな。


「あ。そっか。ここ、ユイねえの家だ」


そう言って、安心したのか、スマホを探しながらゴロンと布団の中で転がり、自分のスマホを見つけると「あー、まだ、五時半じゃん」と言ってスマホを置いた。



「んー、鳥飼さんは寝てないの?早起きなの?」


「いや、俺も今、丁度起きた所。トイレ行って、もう一回寝ようかな。七海君もまだ寝てていいよ」



まあ、コイツが起きたら丁度トイレに行こうかと思っていた。俺の物音で起こすのも嫌だし。



「あー、じゃあ、俺もトイレ行こうかな。眠いけど、腹減ったし」


「寝起きで?凄いね。昨日残して食べなかった、甘い物ならあるよ。朝から食べられる?あと、パンとか朝食用に買ってきてるけど」


「あ。食う。俺もトイレ行く」


俺が立ち上がってトイレの方に行くと、ひょこひょこと後ろからついてきた。まだ寝ぼけているのか、素直に俺の後ろに並んで、洗面を教えると、「んー」といって渡したタオルを首にかけて顔を洗っていた。


俺はその間にトイレに行って、七海君と入れ違いに洗面で顔を洗って口をゆすぐと、「俺もトイレー」と言って七海君がトイレに入っていった。


ユイさんにべったりなのかと思ったら、俺の後にもついてくる。俺はカルガモの親子を想像して、ヒヨコの次はカルガモかと思った。


ユイさんの部屋からは音がしないからまだぐっすり寝ているようだ。


俺は静かに行動しながら、冷蔵庫から昨日買った甘い物を取り出し、お湯を沸かすと、二人分のコーヒーとパンと甘い物をキッチントレイに乗せた。


「あ。俺、持つよ」


俺が運ぼうとすると七海君はそう言って、トレイを持って、元の狭い部屋に戻って、布団を二つに折ると、部屋の隅にある小さなテーブルにトレイを置いた。


「食べていい?」


「うん、お食べ」


俺がそういうと、綺麗に手を合わせて「いただきます」と言って、シュークリームを口に入れた。


「朝一でシュークリーム食うの、うまー」


思わず買ってしまったけど、特別大きなシュークリームだったのに、七海君はあっという間にペロリと食べた。


「これも食べていい?」


「いいよ。お食べ」


俺がそう言うと、ロールケーキに手を伸ばしてあっという間に食べ終えた。


「若いねえ」


思わずそう言ってコーヒーをすすると、七海君はさらにメロンパンに手を伸ばしてから俺とパチリと目を合わせた。


「ねえ。鳥飼さんってさ。本当にユイねえと付き合ってんの?」


「うん?そうだよ」


「鳥飼さんっていくつ?」


「28、あ、29になったか」


「おじさんじゃん」


「まあ、君からしたらそうかもね。七海君は18?」


「うん、まあ、すぐに19になるけど。だからユイねえとは7歳差の時もあるけど。6歳差の時もある」


「そっか、俺とは10も離れてるのか」


俺はコーヒーを手に取って飲んだが、二つともブラックを作っている事に気付いた。


俺が18や19の時は何をしてたかね。


「あ。七海君、砂糖とミルク入れてなかったけど。持ってこようか」


「いや。甘い物食べる時はブラックで大丈夫。タピオカとかさ、チョコとか生クリーム乗せる時は甘い奴好きだけど」


ああ。七海君も甘党か。あの甘ったるくてデカい奴。偶に飲みたくなるけど、もう、俺、シンプルな抹茶の奴とかがいいのよね。俺が七海君位の時はハンバーガー五つくらい食べて、映画見て、すぐにそんな甘い物も飲めてたわ。


若い時って無限に食べられてたな。俺も、ちゃんと年を重ねちゃったのよね。


ああ、昔の映画を見直すのもいいな。引っ越しして時間ができたら懐かしい映画とか、ユイさんと一緒に見ようかなあ。


「だから、ブラック平気。あ、このパンも食べていい?」


「うん、お食べ。じゃあ、よかった」


「うん、でさ。ユイねえには鳥飼さんから告ったの?」


「うん。そうだよ」


「なんで?」


「え?逆になんで?ユイさん、可愛いでしょう?七海君も分かるだろうけど、ユイさん、滅茶苦茶モテるのよ。だから俺から告ったの」


「うん、ユイねえは可愛いよ。だけどさ、鳥飼さんっておじさんじゃん」


あ、そう言う事。


俺にユイさんはもったいないと。


「七海君。おじさんだから頑張って、告ったんだよ。ユイさんに好きになって貰う為に。待ってるだけじゃ駄目なのよ」


「ふーん。で、本当に付き合ってんの?」


「うん。そうだねえ」


コーヒーをゆっくり飲んで、七海君は何か考えていた。


「鳥飼さんさあ。ユイねえの事、マジで好きなの?なんだか、のんびりおじさんじゃん」


「うん。そうだよ」


「……。そっかあ」


それから、七海君は黙ってしまった。


『俺もユイねえが好き』とか、『認めない』みたいなことを言われるかと思ったのに、七海君は黙って何も言ってこない。


これはどうしたものかね。


時計を見てもまだ六時。


ユイさんはまだ寝てるだろうし、七時過ぎまでは静かにすごそうと思っていた。


俺は黙ってコーヒーを飲むと、七海君は「あのさあ」と話し掛けてきた。


「ん?」


「俺、ユイねえが初恋」


「うん」


「驚かないの?」


「驚かないねえ。だってユイさんだから。きっと子供の時も可愛かったと思うよ。今度写真とかあったら見せて貰おうかな」


「うん、ユイねえはずっと可愛いよ。俺、ユイねえにプロポーズして、幼稚園の時に断られたんだ」


「あら、ユイさん、断っちゃったの」


子供の言う事なんだから、『大きくなったらね』とか『いいよー』とか言って流してあげるのかと思ったら。断るのもユイさんらしい。


「うん。おっきくなったら結婚してって俺、言い直したけど。幼稚園の時に五回は振られた」


「あら、ユイさん、容赦ない。七海君も強いね」


「ううん。俺、泣いた」


あら、ユイさん泣かせちゃったんだ。


「でね、今も俺、ユイねえが好き」


「うん」


「あのさあ、俺、鳥飼さんの事知らないからさ、嫌いでも好きでもないけど。でも、ユイねえの事、好きだからユイねえの事ちゃんと大事にしてくれるかが気になる」


「成程。俺、ユイさんの事好きだよ」


「なんだかなあ。鳥飼さんって軽くない?俺みたいな奴に、そんなにすぐに言えちゃうの?」


「必要ならね。必要じゃないなら言わない。だけど、七海君はユイさんの親戚で、ユイさんの事心配しているんだよね?じゃあ、ちゃんと言うかな。例え昨日会ったばかりの関係でもね」


「ふーん」


それから七海君は少し黙って、コーヒーを一口飲むと、また俺の方を向いた。


「あのさあ。俺、ユイねえの事今でも好きだけど。だけどさそれって、ユイねえはユイねえとして好きなんだよね。恋愛感情に凄く近いかもしれないけど、ユイねえの裸を見たいとかは思わない」


「は」


コーヒーを噴き出しそうになって俺は急いで飲み込んだ。


一瞬、七海君の頭を叩きそうになって手が出そうになったけど、七海君の顔が真面目だったから思いとどまった。


ピヨピヨの勘は当たってたって事か。


「ユイねえの事は好き。多分ずっとね。特別好き。だけど、結婚したいとは今は思わない。でもユイねえには幸せになって欲しいし、世界で一番の男と結婚して欲しい」


あらら、世界で一番。それは大変だ。


「だからさ。鳥飼さんが世界で一番の男だったら、ユイねえと付き合っていいよ」



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