6 ルイ視点
許可制。うーん、どうしたものか。
「うん。七海君。俺は世界で一番の男じゃない。世界有数の大学を卒業してもないし、別に博士号も持ってない。億稼いでいるワケでもないし、雑誌を飾るようなイケメンでもないしね。誰もが振り向くような肉体美でもうっとりするような声も持ってないのよ。実家も由緒正しい家柄とかでも無し、資産を持ってて大金持ちとかでもない」
「じゃあ、だめじゃん」
「うん、そうだねえ。なんだか、自分で言ってて虚しくなっちゃったよ。だけど、俺、ユイさん限定で世界一優しく出来るよ。世界一強い男にもなれると思う」
「なにそれ」
「俺、ユイさんの事を世界で一番好きだと思うし、世界で一番幸せにしたいとも思ってるけど、その証明は出来ない。それを証明してくれるのはユイさんだけだからね。だけど、俺の事なら俺が証明出来るよね?ユイさんと一緒にいる俺は世界で一番幸せだよ。ユイさんと一緒にいる為なら俺、世界一の馬鹿にもなれるし、恰好悪くもなれるよ。それくらい、ユイさんの事が好きなんだ。どうかな、ダメかな?」
「もう馬鹿じゃん……」
「そうかもねえ。馬鹿かもね。でも他人を傷つけない馬鹿になれるのは幸せだと思うのよ。そう言うのも含めて、俺は幸せだよねえ。七海君、ユイさんが君の事を大切に思うのなら、俺は同じだけ君の事も大切にしたいよ。だから出来れば君からも認めて欲しい。ただし、認めてくれなくても俺は絶対ユイさんの隣にいる」
「なんだよ。それ、重すぎじゃん。鳥飼さん、マジ意味不明」
「うんワケ分かんないよねえ。俺、重いみたい。この年になるまで、こんなに人を好きになる事知らなかったから。参ったねえ」
「なんだよ……」
「この答えじゃ駄目かな?俺はユイさんの悲しむ事や嫌がる事はしたくない。しようとも思わないけどね。だからこうやって君に分かって欲しくて馬鹿話をしてる」
「ふん……十も下の俺に何言ってんの。かっこ悪……」
七海君はそのまま、「あー。甘い物食べたら眠くなった。もう少し寝る」と言って布団にコロンと横になると、背を向けてしまった。
あらら。俺、恰好悪いだって。確かにその通りだよねえ。
激重ダサおじさんになっちゃったかしら。
「瑠生さん、七海君、ご飯出来たけど?」
ゆさゆさと揺さぶられて起こされると、ユイさんは同じように七海君を揺さぶっていた。七海君が寝た後に俺もそのまま寝てしまったらしい。
「二人、男子会って感じで甘い物食べて、コーヒー飲んで。仲良くしてたんですね」
コーヒーの入ったカップはユイさんが片付けてくれたらしい。パンやシュークリームの袋もない。
「おはようユイさん」
俺が挨拶すると七海君が「おはよう、ユイねえ。鳥飼さん」と挨拶をした。
「おはよう、七海君」
俺が七海君に向かって挨拶をすると、七海君は俺とユイさんをじっと見てから、「ん、おはよ」と言って欠伸をして起き上がった。時計を見ると九時。ユイさんは少し遅めに俺達を起こしてくれたのか。
「七海君、ご飯食べる?」
「食べる」
「鳥飼さんは?」
「俺は軽く。パン?ご飯?ユイさん、俺、何したらいいかな?」
「二人で夜中にスイーツパーティしたんですか?朝食は食パンと、おにぎり。お味噌汁はインスタントで。トマトとウインナーと目玉焼き。手伝うほどする事はないんですよ」
「美味しそう、お皿とグラスだそうか」
俺がそう言って立ち上がると、七海君はやっぱり俺とユイさんをじっと見ていた。ユイさんがバターとジャムと蜂蜜を出していく横で俺も棚の中から皿を出した。
なんだか、こんな猫が親戚の家にいたな。慣れたと思ったら逃げて、その割に俺の事じっと見て。ほおっておくと足に身体をすり付けて逃げていく。
「成程ねえ」
バターナイフを取り出し七海君の事を考えていると、横から皿を取られた。
「俺、持ってく」
「あ。じゃあ、お願い」
俺が素直に渡して箸を取り出していると、それもじっと見られていた。
ユイさんが食パンを焼き、俺はバターを塗って蜂蜜を塗ってゆっくりと食べたけど、その様子も七海君はじっと見ていた。
「ユイねえ、俺、飯くったら、すぐ出るから」
「え?大丈夫?」
「うん。十時に鍵貰えるし。友達に昨日連絡して、今日、会う約束したんだ。ソイツ、先に一人暮らし始めてるから、最初の手続きとか、色々手伝ってくれるって」
「あ。そっか、色々最初は手続きを急いだほうがいいもんね。住所、あとで送っておいてね。困ったらすぐに連絡していいから」
「ん」
七海君はそう言うと、パパっと身支度を整え、大きめのバッグを一つ持つとユイさんちから出て行こうとした。
玄関先まで七海君が出ると、ユイさんが、「あ、ちょっとまって。おにぎりとか、握ってるの持っていく?洗濯物、入れた?お菓子ならあるよ」と、パタパタとキッチンと洗面を行き来し出した。
「七海君」
「なに?」
俺は呼びかけてなんと言うか迷った。でも、このまま別れるのはなんだか寂しいじゃない。
「コレ、俺の番号。困った時は一つでも知ってる番号が多い方がいいでしょ。日吉田とかからも貰った?俺から連絡も取れるし」
俺が急いで自分の番号を紙に書いて渡すと、七海君はその紙を「ん」と言って受け取った。
「暇な時、連絡するかも」
「うん。困った時よりもその方がいい。俺も、会議中とかで無ければ電話はいつでもとれるから。飯でも奢るよ」
「うん。有難う。牛丼大盛り奢ってもらお」
七海君がそう言ったところで、ユイさんがバッグにお菓子やら色々入れて持ってきた。
「はい、七海君。部屋についたら連絡してね。おばさん達にもね。気をつけてね」
「んー。ありがとう、ユイねえ」
「うん、またね」
「うん、鳥飼さんも」
七海君はそう言うと、ユイさんには抱き着かず、軽く手をあげてドアを開けて出て行った。
なんだか、あっという間だったな。凄く濃い一日だったが。
「はあ。大丈夫かなあ」
ユイさんはそう心配していたけれど、俺は心配は無用と思った。
七海君は意外としっかりしている。そう言う意味ではヒヨコと同類だ。甘え上手だけど、しっかり者。
うん。カルガモ君だけど。
さあ、俺も今日は忙しくなる。ユイさんの家に引っ越しだから。同棲。同棲なのよ。
「ユイさん、俺もすぐに一回部屋に戻るね。で、車で戻って来るから。駐車場の番号は11?」
「はい。11です。今日から借りてますから」
「有難う。あ。七海君、俺が送ってあげればよかったな。ああ、でも、一度車持って来ないとだから、ちょっと待ってもらわないといけなかったか。昨日のうちに聞いておけばよかったな」
「友達と会うって言ってたし。最初は一人でぶらぶらしてみたいかも。瑠生さん、色々、有難うございました」
「いや。俺も楽しかったよ」
あ。なんだかいい雰囲気じゃない?
そっと、ユイさんに抱き寄せてぎゅーっとユイさんを充電した。
あー。可愛い。柔らかい。最高。はー。
「瑠生さん……」
うん。もう、我慢しなくていいか。
そう思って、ユイさんの唇をそっと指で撫でたら、ドアがガチャっと開いた。
「あー、スマホ忘れたー」
ドンっと俺はユイさんに弾き飛ばされて、ドアにぶつかって思い切りこけてしまった。
「す、すまほ?スマホね?」
ユイさんが赤い顔してパタパタとリビングに戻って急いで戻ってきて七海君に渡すと、立ち上がった俺を見て七海君はニヤッと笑った。
「俺、タイミング良かったみたい?おじさんだけど、やっぱり若いんだ」
「うん。バッチリのタイミング」
「そっか」
俺らが話しているとユイさんが七海君にスマホを渡した。
「じゃあ、今度こそ。またねー」
「う、うん。またね、七海君。気をつけてね?」
「はーい」
そう言って、またドアが閉まったと思ったらまたすぐに開いた。
「あー。ユイねえ、俺、鳥飼さんならいいよ。二人の結婚式、行ってあげても。仲良いじゃん」
「!!!な、ななみくん!!」
ユイさんが顔を赤くして、アワアワしているのを、面白そうに七海君は見ると、俺の方を見て、べーっと舌を出した。
「鳥飼さん、俺の事、七海って呼び捨てでいいよ。俺は、ルイにいって呼んであげようか?頼むから、早くおっさんにならないでね。ユイねえの隣におっさんはいやだからさ。またねー」
それだけ言うと、俺達が何か言う前にパタンと今度こそドアが閉まった。
「え。え?」
そう言って顔を赤くするユイさんを俺はぎゅっと抱きしめた。
「ユイさん、好きだよ」
「私も好きです」
俺がそう言うと、ユイさんもぎゅっと抱きしめ返してくれた。
ピヨ田。ピヨ田の勘は外れてたと思うよ。七海君もきっと俺と同じ馬鹿仲間だったと思うんだ。
七海君、今度会ったら七海って呼んでもいいのかな。俺はルイにいって呼ばれてもいいですよ。




