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約束に疲れた私に待っていたのは、いつもコーヒーをくれる人でした  作者: サトウアラレ
第2章

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なんで話が出来ない人に限って、待ち伏せをするんだろう。前に待ち伏せされた時も話が通じなかった。


待ち伏せをするって言う事は話をしたいのじゃないのか。


それにしても、待ち伏せってこんなに皆されるものだろうか?私は待ち伏せをしたことないけれど、待ち伏せも皆するんだろうか?


あ、当たる。


投げられる一瞬の間に、私は色んな事を考えていた。そして、妙に落ち着いて目の前に鞄が迫っているのを感じていた。



ドン!



鈍い音と、カシャンとまた何か壊れる音がしたが、衝撃は私には来なかった。


当たると感じた瞬間に閉じた目を開けると目の前に壁があった。



「ユイさん」



ゆっくりと顔を上げると、眉間に皺を寄せた瑠生さんの顔。



「瑠生さん」


「うん、ユイさん!大丈夫?」


「……はい」


「騒ぎが起きてるって連絡が来てすぐに下りてきたんだ」



瑠生さんの顔を見た瞬間にホッとして、一気に胸がドキドキ言い出した。怖くなかったわけじゃない。理不尽な怒りをぶつけられて凄く嫌だった。


気を緩めてしまうと泣いてしまいそうな気がして、私は瑠生さんから目を逸らして下を向いた。



「ユイさん、会社に戻れる?」


「はい……」



瑠生さんは私の荷物を持ち、有吉さんに背を向けていた。



「ごめん。本当に。後は、俺が話をするから。ユイさんは休んでいてね」



私が頷くと、後ろで有吉さんの声が響いてきた。歩道には有吉さんの鞄や、壊れた化粧品が散らばっていた。



「ルイ!何処に行くの?おいて行かないでよ!!ルイなら分かってくれるでしょう?皆が私に意地悪な事ばかりするのよ!妬まれるの!酷いの!ルイから言って頂戴!私は悪くないって!どうしてよ!!」


「有吉さん、早く立ったらどうですか?」


「ルイ!!ルイは私の事大切に思ってるわよね?その女が全部悪いの!」



私の肩に置いた指に一瞬力が入った後、瑠生さんは、「はー」と息を吐くと、ゆっくりと歩くのを止めた。



「は?いい加減、何言ってるんですか?」


「皆が私を悪者にするのよ!ルイ、お願い!助けて!貴方なら会社に説明してくれるでしょ?誤解だって!私は悪くないって!!」


「有吉さん、苗字呼びして下さいって何回言ったら分かるんですかね?本当、止めて下さい。あと、俺が来た時からうちの課長がこの様子、全部動画で撮ってるんで。有吉さんは課長が付き添ってくれますよ。社に戻ってから本部長達と話がありますから」


「!!!なんでよう!!!なんでなの!!!勝手に撮らないでよう!!!止めなさいよ!!!」


有吉さんの叫び声が聞こえたけれど、その後は瑠生さんは後ろを向く事も無く、社に戻って、私を休憩室に連れて行くとすぐにコーヒーを買って来てくれた。


「ユイさん、ちょっと待ってて。すぐにくるから。絶対一人で行動しないで」


「はい」


私に一度ぎゅっと抱き着くと、瑠生さんと入れ違いにうちの課長が休憩室に入ってきた。


「災難だったね?大丈夫かい?ちょっとまって鳥飼君、楠木さん、下で診察受けて貰うから連れていくよ」


「診察?」


「君に連絡した後に、詳しく話を聞くとね。楠木さん、有吉さんに、物をね、大分投げられていたって証言があったんだ。念の為に病院に行こう」


「は?バッグ以外にも?」


「ああ、はい。でも、瑠生さん、大丈夫です」


「俺、また間に合わなかった?」


「いいえ。十分に間に合いました。本当に」



私がそう言うと瑠生さんは課長に小さくお辞儀して私の手を一度ぎゅっとにぎると、すぐに出ていった。



「楠木さん大丈夫かな?歩けるかい?楠木さん、下のクリニックに一緒に行こう。話は通してるから、すぐに診て貰える。有吉さんに物をぶつけられたんだって?何も無いのならいいけれど、一応、ね。被害届を出す時なんかに必要なんだよ」


「有難うございます。でも、大丈夫です」


「うん、一応ね」


課長が困った様に繰り返し、私は課長に連れられて下のビルに入っている整形外科に行くと、時間外受付のお姉さんが有吉さんとの一部始終を見ていて凄く心配された。同じビルで働いている私の顔も覚えてくれていて、このお姉さんが会社に連絡を入れてくれたことが分かった。


お姉さんから課長へ連絡が入り、課長が偶々お菓子を私の机に置いていた瑠生さんへ教え、そしてぶらぶらしていた瑠生さんの課長は走る瑠生さんに着いてきていた、と。


カルテを作る看護師さんに質問に答えて行くと、今になって腕や足が痛い事に気付いた。


物をぶつけられた時に庇った腕と、よろけてこけた時にストッキングが破けていた。怪我などないと思っていたが脚は擦り傷と打ち身が、腕は化粧品なのかラメが上着について、所々汚れていた。


それからレントゲンと診察をして貰って骨に異常が無い事を確認され、打撲と擦り傷だけという事が分かったが、診断書をしっかり作って貰って会社に戻った。


クリニックを出てエレベーターに乗って会社の入っている階に着くと瑠生さんが待っていた。


「鳥飼君、話は?」


「はい、部長室です」


「分かった。僕も行こう。鳥飼君は明日でいいから。じゃあ、楠木さん、もう、今日は帰っていいよ。詳しい話は後日。明日は休みにしておいたから、ゆっくり休んでね。気になる事があったら電話でもなんでもすぐに連絡して下さい」


「はい」


私が返事をすると、瑠生さんは私と一緒に会社を出された。



「……」

「……」



私の荷物を持った瑠生さんはタクシー乗り場へと黙って歩く。私も黙って歩いていると、瑠生さんが聞いてきた。


「ユイさん、怪我してたの?」


「いえ、擦りむいただけで、足はちょっとぶつけて。それで念の為です。見た目よりは大丈夫ですから」



タクシー乗り場へ着くと瑠生さんは私の方を見た。



「あの人、営業としては仕事が出来る人で他社にも知り合いが多いから今回のプロジェクトのチームに加わったんだと思う。俺以外にもあの人あんな感じだから、相手にしない方がいいと思ってたのよ。仕事終わればすぐにいなくなるし。他のチームに面倒掛けるのも良くないと思ってたんだ。でも、間違ってた。大事なプロジェクトにそんな面倒な人はいない方がいいし。そう言う事はちゃんとメンバーで話した方が良かった。そしたらユイさんを傷つける事もなかった」


瑠生さんは少し小さな声で話していたけれど、目は真っすぐに私を見ていた。私も瑠生さんの目を逸らさずに、黙って瑠生さんを見上げた。



「俺、間違った。ユイさん、ごめん」



私は瑠生さんの言葉に頷くと、ほっと、息を吐き出して返事をした。


「瑠生さん、手を繋いでもいいですか?」


瑠生さんの私よりも大きい手は思ったよりも冷たかった。


「瑠生さん、私の家でお茶、飲んでいきませんか。私も、瑠生さんとしっかり話をすれば良かったって、思ってたんです。それなのに、どうしていいか分からなくて、何も聞けなかった。瑠生さんと距離を取ったのは私です。私は瑠生さんも自分の気持ちも信じられなかった。疑ってばかりいたんですよ」


「……」


「瑠生さん」


「俺」


「もう、謝らないで」


「……有難う、ユイさん」


「はい」


私は瑠生さんと一緒にタクシーに乗って部屋へと戻った。



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