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約束に疲れた私に待っていたのは、いつもコーヒーをくれる人でした  作者: サトウアラレ
第2章

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9

私はゆっくりと自分の気持ちを整理していた。


有吉さんの事は何を言われても気にしない事にした。勝手に色々言う人の事は放っておくのが一番だと思ったのだ。


全く気にならないといったら嘘になるけれど、それでも、気にしないようにする事に決めた。


「楠木さん、ちょっといいかな」


そんな事を考えていると、課長から有吉さんの事で呼ばれた。



「楠木さん、大丈夫かな?彼女ね、ちょっと人間関係のトラブルが多いんだよ。困った人でね。だけど、営業での評価が高くてね。彼女の仕事を買ってる人も一定数いる。配置が難しい人なんだ。まあ、営業の人には癖のある人が多いから。ただ、トラブルを起こすのは間違ってるよね。流石に問題が多いと思う」


課長は私達の話を聞いた後、「皆は心配せずに、仕事を通常通りにして欲しい」と言って、人事や総務や瑠生さんの所に連絡を取っていた。


皆と一緒に行動したおかげと、課長が気をつけてくれたおかげで、有吉さんとはその後、直接接触する事はなかった。


「鳥飼さんの所のプロジェクトもひと段落着いたようだから、もう、大丈夫だよ。応援組も支店に戻るようだから」


ある日、皆の前で課長がそう言って、凄くほっとした。


瑠生さんとはずっと連絡を取ってない。だけど、朝、私の机に飴玉やお菓子やコーヒーが置かれるようになっていた。


『おはよう、ユイさん』

『ユイさん、コレ、新商品だって』

『ユイさん、もうすぐひと段落するよ』

『ユイさん、大好き』


「あらら。鳥飼君、誰が見るかも分からないのに」



田中さんが置かれたお菓子に笑いながらも、私には何も聞かずに通りすぎていった。連絡をしない私に瑠生さんは何も言ってこない。だけど、お菓子や飴にメッセージを書いては机に置いていく。


有難うも、おはようも言わない私に瑠生さんは黙って待ってくれている。


話をしないとな、そんな風に思ってメッセージを読んでいると通りかかった課長から笑われた。



「おや、鳥飼君は、僕の妻とやる事が似ているなあ」


「奥様にですか?」


「ごめん、勝手に見て良かったかな?お弁当にメッセージを一言書いて入れてくれるんだ。僕にも、子供達にもね。喧嘩してても、毎日。なんだか似てるなあと思ってね」


課長は自分でいいながら「うんうん」と頷いた。


「自分がされているのは当たり前に思っていたけど、人がされているのを見ると、健気に思うね。妻に感謝だなあ」


「喧嘩してても、奥様からメッセージが添えてあったんですか?」


「うん。原因は些細な事だけど、もう、口も利かない位怒っててね。流石に次の日は弁当作ってくれないかと思ったら、黙って用意されていてね。僕は有難うも言わずに黙って受け取って家を出たんだ。で、昼になって、喧嘩の事忘れてお昼を食べようとしたら、いつも通りメッセージが張り付けてあったんだけどそこに、『おい!弁当、有難く食えよ!!作って貰うの当たり前だと思うなよ!謝るなら今だぞ!ヽ(`Д´)ノ』って書いてあってね。もう、すぐに妻に電話して、ひたすら謝ったよ」


はははと笑いながら、「優しい妻でしょ」と課長は言った。課長はいつもお弁当を持ってきている。仕事が入って外で食べる時は「良かったら食べるかい?」と山本さんや日吉田が貰っているらしい。


「僕は言葉が足りないって良く言われるけど、妻は余計な事が多いってよく言われてる。だから喧嘩にもなるんだけどね。毎日のお弁当とメッセージには感謝しかないよ。今日は妻の好きなチーズケーキを買って帰ろうかな。あ、でも、この間、ケーキを買って帰ったら『何か疚しい事あるの?』って睨まれたな」



課長の話を聞いて、私は瑠生さんと話しをしようと決めた。有吉さん達ももうすぐ支店に戻る。落ち着く時間は十分貰った。後は自分の気持ちを伝えて、瑠生さんに謝らなきゃ。


課長の話の後に日吉田がすぐに外に仕事に行き、山本さんが体調不良で早退する事になった。田中さんはリモートで、課長は私の帰りを心配してくれたけれど、私ももう大丈夫だろうと思っていたのだ。


今迄、何もなかったのだから。



そう思って会社を出た時だった。



「ちょっと!楠木さん!貴女ね!貴女のせいでしょ!」



会社を出て、少し歩いた先で眉を吊り上げた有吉さんに呼び止められたのだ。ポカンとする私を見て、有吉さんは身体を振るわせて怒り出した。



「なんなのよ!いきなりプロジェクトから外されて!!退職促されたのよ?貴女が何か言ったんでしょう?セクハラってなに?あの後輩に何か吹き込んだの?私はされる側でしょ?なんで私がする側なのよ?頭おかしいんじゃないの!?」



私が黙っていると、怒鳴りつけたと思った有吉さんは急に泣きだした。



「んっひ、酷いわ……。酷いわよ……」


目をこすりながら、私を責めつつ、「ひっ、んっ。ひっ」と鼻をすすりながら有吉さんは泣いている。大人の女性の号泣を始めて見た。


道行く人が驚きながら私達を見ている。


私が驚いていると、有吉さんは泣きながら今度は怒りだした。


「貴女のせいよ!貴女のせいでルイも振り向いてくれないし、セクハラ扱いはされるし!もう、小さな地方の支店に異動するしかないのよ?嫌なら辞めていいってことよ?なんでこんな事になるのよ!」



ペタンと道に座り込んで、顔を覆って涙を流している。



「えっと、有吉さん。私は有吉さんの異動の事を課長にお願いはしていません。歩道に座ると汚れますので、会社かあっちの方にベンチが……」


「嘘よ!!色々な人が私から嫌がらせ受けたって報告が上がってるって!私そんな事してないもの!何なのよ嫌がらせって!いっつも妬まれるのは私よ?彼氏や夫を取るなって意味分かんないわよ!勝手に好きになられるのに!!貴女も私とルイに嫉妬したんでしょう?貴女が色々課長に言ったんでしょう?どうしてくれるのよ!私の人生めちゃくちゃよ!!!」


「ええ……」


ドウシタラ。そんな事を言われても。


困ってしまっても、有吉さんは座り込んで泣いて動かない。こういう時に限って、会社の知り合いも通りかからない。



「酷い!ズルいわよ!なんでルイも皆も貴女には優しいのに、私には優しくしてくれないの?ちょっと私が年を取ったから?若いってだけでチヤホヤされて、貴女なんて対して可愛くないくせに!ルイだって本当は私の事が好きなのよ?貴女なんて好きじゃないって言ってたんだから!!」


「嘘ですね」


もう、相手にせず帰ろうとした私は振り向いて答えた。


「う、嘘じゃないわよ!私と毎日ずっと一緒にいるんだから!ルイの事、ルイって呼ぶのだって私だけよ!私は特別なの!ルイは貴女と別れたいって言ってたんだから!」


「嘘です」


私は真っすぐに有吉さんを見て、はっきりと言った。


「瑠生さんは私の事が好きです。私も瑠生さんの事が好きです。私も瑠生さんも貴方の事は好きじゃないですよ。そんな人の事信じる訳ないでしょう」


有吉さんは私がそう言うと、ギリっと爪を噛んで、凄い顔で睨みつけてきた。


瑠生さんはずっと、私に『ユイさん大好き』とメッセージをくれていた。私はそれを信じているし、私は自分の気持ちを大事にする。こんな理由(わけ)の分からない人に私達の関係を壊させたりしない。



「……訴えるから」



有吉さんは顔を下に向けたまま、ぼそっと呟いた。



「私がクビになったら、貴女のせいだから。そしたら貴女の事、訴えるから。慰謝料も請求するから」


「何で私に?」


「しらばっくれないでよ!貴女のせいだからに決まってるでしょ!!このバカ女!!ブス!!あんたが辞めればいいじゃない!!どっかにいきなさいよ!消えろ!!」



そう言って有吉さんは持っていたバッグを私に投げつけてきた。



「きゃあ!!」



鞄が私にぶつかり、鞄の中身が飛び出した。


口紅や、ハンカチ、それにペン等だ。



「え?」



なんで私がぶつけられてるの。



「そうよ、貴女が全部悪いんじゃない!」



有吉さんはそう言うと、近くに落ちていた、口紅を拾って投げつけてきた。



「ちょっと、止めてください!」


手で払いのけると口紅はカシャンっと音を立てて道路の方に転がっていった。


「何よ!なんでよけるのよ!あんたが悪いんだからちゃんと当たりなさいよ!!」



ボールペンも投げられ、近くにあるのを私に投げつけて行く。


言ってる事が滅茶苦茶で、顔を見ると、もう、目が座っている。


これはもう、逃げた方がいい。そう思って私が逃げようとすると、「逃げるな!!!」と言って有吉さんはもう一度バッグを掴んで私に投げつけた。

明日は投稿お休みします。すみません。

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