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ブルー・スカイ  作者: 嶺司
23/31

第23話 王族

10月18日。

増援の歩兵と戦車、弾薬などを載せた、C-5輸送機が着陸しては飛び立ち、着陸しては飛び立ちと繰り返している。

俺達はやっとテント生活から解放され、新しく陸軍の施設隊によって建てられた、プレハブに移動して生活していた。

いやぁ、壁があるって最高、テントほど外の音はあまり気にならない。しかし、プレハブの中に相変わらずベッドは無く、コットでの生活だ。慣れれば寝心地はいいけどベッドで寝たいなぁ。

今、部屋にいるのは俺と、水咲さんと、啓。黒木さん達は偵察のため出撃している。

俺はコットに横になり天井を見上げている、遠くの方で爆発があると吊り下げ式の裸電球がユラユラと揺れる。

「水咲さん、啓?」

俺は天井を向いたまま2人を呼ぶ、2人はコットから起き上がりこっちを向く。

「どうしたの?」

「なんですか?」

俺は2人にまだ、隠し事をしていた、最後の1つ。

いつ言おうか迷っていたが、これ以上戦闘が激しくなると言うタイミングを逃しそうで、それに黒木さん達もいないし、今がちょうどいいと思った。

「俺の本当の名前、言っておきたくて」

「うん...」

「はい...」

2人は静かに聞いてくれる。4年前に名乗って以来その名前は1度も使ってない、しかし、夢ではよく呼ばれていたので、すぐに口から出てくる。

「俺の名前は、ツルギ・アルシュール・ローレ、それが本名」

「え?」

「それって...」


ブーー。

基地にブザーが鳴り響く。

《ブルー隊、ライジング隊、イプシロン隊出撃準備》

出撃準備を知らせるブザーだ、今度はどこに行かされるのだろうか、話は途中で終わってしまい、俺達は慌ただしく準備を始める。


どうやら、陸軍が予定より早く攻撃を開始したようだった、空軍は慌ててそれに追従する如く準備を進める、連絡体制とかどうなっているのやら。まずは、先遣部隊として、ライジング隊、イプシロン隊、ブルー隊が派遣されることに。

目指すはカガガルローレッツィオ守備要塞。


俺たちはイプシロン隊を先頭に、北西の空へと飛ぶ。

しばらくすると、カガガルローレッツィオ守備要塞が見えてきた、山と山の間にあり大きな円形をしている。半径1キロ以上あるじゃないだろうか、旭要塞が小さく感じる。侵攻を阻む壁は4、50メートルはあるだろう、かなりでかい、その要塞の周りには大小いくつものトーチカがあり、火器が睨みを聞かせていた。

イージス艦からのトマホーク攻撃が着弾する。

それを合図に、ライジング隊が攻撃を開始、30ミリバルカン砲の咆哮が要塞にこだまする。

《戦車隊、白リン弾装填......、撃てー!》

要塞と対峙していた戦車隊が白リン弾を発射、要塞と自分たちの間に煙幕を作り敵の射線を封じる。見えなければ、撃ってくることもあるまい。

《行くぞ!各隊、突撃に...前へ!》

《止まるな!いい的になるぞ、走れ走れ!》

陸軍って、なんでこんなに突撃が好きなんだろうか、急ごしらえの塹壕から兵がワラワラと出てきて、前を進む戦車の後ろに隠れながら前進していく。前方は白リン弾を撃ち煙幕を展開しているが、どこからかは射線が通っているよう、仲間が倒れようがお構い無しに突っ込んでいく。

雪崩のように戦車隊と歩兵隊が突撃を開始、戦車は足場の悪い中、行進間射撃を行い、見事トーチカを破壊している。

《ライジング1、爆弾投下!》

ライジング隊隊長が守備要塞の城門に向けて爆弾を投下、それに合わせて戦車隊も砲撃を開始する。

ドゴーーン。

空に轟音が響く。

《城門が空いたぞ!走れ走れ!》

案外あっさりと城門が破壊され、陸軍がそこに殺到する、中に入ってさえしまえばこちらのものだろう。

《トーチカ発見、ポイントする!航空支援を!》

レーダーに目標が追加される。

その目標にはライジング隊が対処、バルカン砲で粉微塵になる。

《ライジング隊、補給のため一旦基地に帰投する》

もう爆弾を使い切ったのか、確かに要塞からはいくつもの煙がもくもくと上がっている、見ていない間に、仕事はこなしているようだ。

《イプシロン1、エンジンの調子が悪い、帰投する》

戦場の最前線、整備員も足りず、ろくに戦闘機の整備も出来ていない、調子の悪いところも出てくるだろう、無理して墜落してしまうより大事をとってイプシロン隊はいったん基地に戻る。

しかし、エンジンの不調となるとすぐには飛べないだろう、しばらくは俺たちで頑張らないと。

そうこうしていると、レーダーに目標が追加される。

《私が!》

啓が空をクルッと旋回して急降下、追加された目標に向かって機首を向けミサイルを放つ。

ガガガガッ。

《くっ、被弾しました...》

急降下したのがマズかった、啓は誤って要塞からの弾幕の中に突っ込んでしまい、何発か銃弾を受けてしまったようだ。

《おい、大丈夫か!?》

《大丈夫です、まだ飛べます》

啓は高度を上げてまだ飛んでいる、しかし翼からは煙が出ていて、胴体下部からも白い煙の様な物が、燃料が漏れている可能性がある。

《戻った方がいい、水咲さん、エスコートして》

《え、剣くんは!?》

彼女が、落ちてしまったら元も子もない、基地までは少し距離があるし早めに戻った方がいいだろう、1人だと何かあったら心配だし水咲さんを護衛に付ける。しかし、彼女は逆に、1人になってしまう俺を心配してくれる。

《俺は大丈夫だから、早く!》

《わ、わかった。気をつけて!》

彼女達は俺の怒鳴り声にも似た声に押されて、南東の空へ消えていく。気付けば俺はこの空に1人になってしまった、黒木さん達は偵察を終えて、今頃基地に帰投しているだろう、ここに来るまでには少し時間がかかると思う。

地上部隊は怯むことなく前進を続けていた、俺は更新されていく目標を一つ一つ対処していく。

《くそっ》

レーダーに敵影探知、2機だ、とても速い、あいつに違いない。

ここで逃げたら陸軍に面目が立たない、せめて黒木さん達が来るまで粘るとしよう。

敵機が見えた。

前進翼が独特なSu-47、片翼だけ赤く塗っている。もう1機は前と同じSu-27、こいつは両翼を赤く塗っている。

片翼が赤いやつはこの前、本田さんが体当たりした奴に違いない、機体を替えて戻ってきたようだ。

片翼だけ塗っていないのは自分への戒めか?

〈よう、ツルギ、闘う理由は見つかったか?〉

《やっぱり、兄上...》

〈ほう、まだ兄と呼んでくれるか、嬉しく思うぞ〉

ローレニアの翼が赤い機体、それは何を意味するのかというと、王直轄近衛飛行隊、王族がそれを担っている。そしてあいつは、王位継承第2位の王子で

あり俺の兄...。

〈貴様の事は諜報部によって調べはついている、4年前に闘う理由が分からないと、家出をしたかと思へばエルゲートへ亡命し、いつの間にやら空軍に入っている。ほんとお前は馬鹿だよ。》

《いつからそれを...》

〈なに、知ったのは最近、2ヶ月ぐらい前か?貴様の大切な人も把握済みだ〉

《え...》

冷や汗が止まらず、操縦桿を持つ手が震える。

《彼女たちは関係ない!手を出すな!》

〈それはこれからの、お前の行いによるな。戦争の混乱に任せて、お前を殺そうかと思ったが、どうやら運命がそれを許さないらしい〉

気づいた時には俺の後ろにSu-27がくっついていた、どう足掻いても逃げれそうにない。

俺は、計器に挟んである写真を手に取って目をやる。

「ごめん・・・」

みんなの顔をゆっくりと見る。楽しそうに笑っている、啓は写真写り悪く睨んでいらけど。一通り見ると、それを胸ポケットにしまい。

目を瞑った。



彼は、剣くんは、帰ってこなかった。

管制によるとベイルアウトした所までは確認出来たと、黒木くん達も急行したが、敵の対空砲火が激しくて、山の奥で煙が上がっているのは見えたが、それ以上は近づけなかった、との事。

私は彼が戻ってくるはずの空を見上げている。

「嘘つき...」

しかし、死んだと決まった訳では無い、ベイルアウトはしたみたいだし、きっとどこか、きっとどこかで山の中で迷子になっているはずだ!そう思うと既に行動に移していた。


「ちょっと水咲さん、ダメだって!」

「行くよ!剣くんが森の中で待ってる!」

「1回落ち着いて!」

「黒木くんは剣くんが心配じゃないの!?」

「心配だけど、勝手な行動はヤバイって!」

「私だって、トラックの運転ぐらいできる!」

「いや、そうじゃなくて!」

私は鍵がかけっぱなしだったトラックをちょっと借りて、啓ちゃんを荷台に乗せ、剣くんが落ちたと思われる森に行こうとしてた。しかし、黒木くん達に止められる。

「どうしたんですか?って、水咲さんダメですよ!」

騒ぎを聞きつけた長井ちゃんも私を止めに来る、皆して私を邪魔する。みんな剣くんのことが心配じゃないんだ。

私は涙を流しながら、ハンドルに頭を何度も打ち付ける。

私は黒木くんに支えられながら運転席から降りる。

啓ちゃんは荷台から動こうとせず、長井ちゃんに抱えられて降ろされていた。

「ほら、落ち着いて、水でも飲んで」

黒木くんが優しく、水の入ったペットボトルを差し出してくれるが、私はそれを投げ捨てる。

「なんで、なんでそんなに冷静なの!?剣くんが帰ってこないんだよ!?剣くんが......」

私は地面に座り込む。長井ちゃんが優しく背中をさすってくれる。

「私のせいで剣くんを1人にしてしまった、私のせい、私のせい、私の......」

啓ちゃんがペタリと地面に塞ぎ込んで、ブツブツという、全部私が悪いと、全部私のせいだと。

「守備隊長が捜索隊を派遣してくれるって言ってた、今取り乱しても仕方ないだろ!」

守備隊長は優しい人で、彼が墜落したという知らせを聞いてすぐに、捜索隊を編成してくれた。しかし、落ちたところが敵側奥地ということもあり、すぐには見つからないだろう、と言われていた。

私と啓ちゃんはしばらくそこから動くことが出来なかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] いつも楽しく読んでます。 まさかの剣くん王族だったのは驚きの展開でした。 啓ちゃん心が壊れたりしないか心配です、、、、
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