46.タイムマシンでハッピー!
持ち物確認、よし。戸締り確認、よし。
今夜は仕事で長らく家を空けている夫と久々に会う予定である。
この国でも有数な科学者であり、毎日ここから遠く離れた自分のラボで寝起きしている。
さあ、出かけよう。
そう思い、ドアノブに手を掛けた所……。
「─────おい、俺が誰だか分かるか?」
「えっ」
急に声をかけられた。
私は思わず玄関を出ると─────庭先に、ラボにいるはずの夫が立っていた。
「あ、あなた!いつ帰って来たの?」
「ははは、悪い悪い。実はな、今ラボで……とあるマシンの起動実験を行ったばかりでな!」
「実験?何の話なの?」
「タイムマシンだ!タイムマシン!俺は、5年後の未来からやってきたんだ!実験は大成功だ!ハハハハハ!喜べ、こいつで俺達は大金持ちになれるぞ!」
目の前の夫は庭先に停めてある銀色の乗り物を指差し、高らかに笑った。
「こ、これは……」
「タイムマシンだ!これこそが、世界を変える未来の乗り物だ!」
─────パチパチッバチチッ
庭先の未知の乗り物から、静電気が弾けるような音がする。
「おっと!もう時間が無いな─────実はまだ開発中でな。磁場が不安定なんで、何度か改修する必要があるんだ。まあ、今日の日の事は黙っておいてくれよ!」
「そう。そんなに凄いモノを研究していたのね、知らなかったわ。誰にも言わないから安心して」
「ハハハ、まあお前には苦労を掛けたがもう安心だ!薔薇色の未来で待ってるぞ!」
最後にそう残し、夫の姿はタイムマシンと共に跡形も無く消えた。
─────静まり返った庭先を見やり、女は安堵した。
「危ない危ない」
家庭を顧みずに研究に明け暮れる夫。
研究の為にと方々から金を借り、逃げるように住まいを転々とする日々。
気が付くと、心にぽっかりと空いた穴から、いつの間にかドロドロと濁った憎しみの感情が流れ出していた。
バッグに忍び込ませた出刃包丁をキッチンにしまい、私は出かけるのを取りやめた。
一月中に間に合わなかった……。
次はファンタジー世界、もしくはまたSFでいこうと思います。
ここまでお読み下さり、ありがとうございました。




