↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
45/74

45.故郷の味。

 ジーナス=ボナパルトはロマリア王国の優秀な軍人である。

 質実剛健、清廉潔白、まさに軍人の鏡と言うべき傑物。

 そんな彼の、今日の晩ごはんは……。

「ふぅ……今夜はやけに冷える」



 暦ではまだ秋のはずだが……今年はやけに冬の到来が早い。

 外は冷たい風がヒュウヒュウと音を立てて吹いている。今夜は……何か特別な、心も体も温まる物を口にしたい。

 生憎と、()()職場(ここ)を離れる事が出来ない私は、部下に頼んで特別に料理を運んでもらう事にした。


「シェフに何を作らせましょう?」

「そうだな……」


 食べたいもの。

 思い浮かんだのは、遠く離れた故郷の味だ。

 軍人でもそれなりの階級に着いた私は、職務上会食も増え、贅をこらした食べ物を口にしてきた。

 だが、今は─────舌が無性に素朴な家庭の味を求めている。


「シチューが食べたいな。キノコがたっぷり入った、ロマリア風の」

 部下の質問に、逡巡しながら私は答えた。


 故郷は年中気温が低く、凍てつく寒空の下で私は育った。

 家庭料理とはいえ、山の恵みが少ない時期のシチューは毎日食べられるものでは無かった。寒村に住む人々にとって最高のごちそうだったのだ。





───────────────





「お待たせしました」


 運ばれてきたシチューを前に、私は思わず顔が綻んだ。

 あたたかな乳色のスープから漂う、食欲を誘う香り。

 皿の中には注文通り、アツアツで具沢山のおいしそうなシチューがたっぷりと入っていた。


 スプーンでひと匙、ゆっくりと口に運ぶ。これを食べるのもいつぶりだろうか。


─────ズズズ


 ……ああ、懐かしい味わいだ。

 大粒にカットしたポテトのホクホクとした食感が実に心地よい。

 オニオンにキャロット……多くの野菜の美味しさがシチュー自体に染み込んで、とても濃厚な一皿になっている。シェフが私に気を使ったのだろうか。

 何よりも……注文通り、たっぷりと入ったキノコの旨味は格別だった。シチューの具材にした時の、モチモチとした柔らかさ、噛むとじんわり口に広がる風味がたまらない。


 子どもの頃は、代り映えの無い食事に興味など持ってはいなかった。

 たまにやって来る行商人が話していた『子牛の姿焼き』や『フルーツのタルト』など、貴族や金持ちしか食べる事が出来ない食事に憧れ、いつか自分も王都で一旗揚げてやろう!と夢見た事もあった。


 しかし、今更ながら私は悟った。

 この世には美味いものは沢山あるが、故郷の……思い出の味は舌がいつまでも忘れずに覚えているものなのだな、と。私にとってシチューは─────例え田舎臭い味付けの料理だとしても、これに勝るものは思い浮かばない。

 激務続きだった私にとって、この一皿は何よりも代えがたいごちそうだった。






─────最後のひと匙を口にすると私は立ち上がり、こう言った。


「至福のひと時だった。後は……煙草があれば言う事はないのだが」


 部下は……いや、()()()()()男は俯きながら肩をすぼめる。

 贅沢は言うまい。いや、最後にこれだけ贅沢をさせてもらえた、といった方が良いのだろう。

 

「……時間だ。私に出来る、最後の責任を果たすとしよう」





─────ゴーン、ゴーン……

 定刻を告げる鐘が城内に響き渡る。

 手錠をはめられ、目隠しをされた私はいよいよその時を迎える事となった。




「ジーナス、ボナパルト大佐。此度の帝国との会戦における戦争の責任、ならびに我が国を混乱に陥れた罪は重い。これより、貴様に対する刑罰を執行する」




 もしも生まれ変われる機会があるならば……。

 ほのかに口に残る味の余韻を噛み締め、私は一歩一歩、絞首台の階段を登った。

ここまでお読み下さり、ありがとうございました!

年内にあと1~2話更新出来れば……と思っております。



追記:ブクマ500突破致しました。応援頂き感謝致します(*'ω'*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。