44.王。
わが名はゴールドバーグ・ブラン・ド・ダンデライオン。
良い名前だろう?……何、ちと長すぎやしないかって?
ハハハ、済まないな。長いのには理由がある。
これでも私はこの一帯を治める一族の頂点。高貴なるダンデライオンの名を受け継いだ男……王なのだ。
本日はこの国を治めるこの私、ゴールドバーグの優雅な一日を紹介しよう。
─────王様、お目覚めですね。
メイドが朝を告げに現れ、身支度を整える。
私の御髪をとぎ、髭を綺麗にカット。その手つきは手慣れたものだ。
洗顔を済ませると、そこには王に相応しい堂々たる顔をした私の顔があった。
身支度を整えた後は、朝食だ。
我が家のしきたりでは、『食事は一族と共に必ず顔を合わせて取る事』とされている。その方が、一人一人の体調の変化に気付きやすいと代々伝わっているのだ。
変わってはいるが、私は皆で食事を取るこの時間は心温まり、一族の絆を深めるひとときだと思っている。
「ハッハッハ!ローラン、口元に食べかすがついているぞ!」
「おにいさま、そんなことでは、しもじものものにわらわれてしまいます。もっときぞくたる、じかくをもっていただかないと」
「そういうマルコだって口元についてるぞ!」
「なっ!こ、これは……!」
わんぱく盛りの子ども達は国の宝だ。
「陛下、ご機嫌麗しゅうございます……先日の台風で、領内にも大きな被害が出たようですぞ」
「何?やはりそうか……詳しい報告を聞こうか」
直属の家臣は総勢30人。結構な大所帯だ。
食事を取りながら、彼らから領地の話を聞き、この国の様子を見聞きする……という訳だ。
いつ、他国がここに攻め入って来るかは分からない。
隣接している帝国の動向にも気を付けておかねば。
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ワイワイと楽しい朝食が済むと、今度は王としての仕事が始まる。
部下である従者を連れ、城の外へ出た私達はさっそく領内の視察へと向かう。
王たるもの、自分の領地は自分の目で見て、些細な変化をも見逃さぬようにしなければならない。
「やはり……報告にもあった通りだな。風の影響で木々が倒壊……昨年のような土砂崩れは起きなかったようだが、こうも長く曇り空が続くと気分が滅入って仕方がないな」
「陛下、そう気を落とさずに……幸いな事に、領内に死者はおりません。また、倒壊したのは木々だけで、建物や住民に死者は一人として出なかったようですぞ!」
「……そうだな、その通りだ。民ならずしてこの国は成り立たん。これを幸運だと思い、神に感謝するとしようか」
その後も従者の先導で、家臣と共に領内を見回り、異常がないかを確かめていく。
小川近くの堤防、見晴らしの良い丘、そして国境沿いの山間部まで……なかなかの距離を歩くので、城内で運動不足気味な私にとっては良い運動となっているだろう。
まあ、これも必要な労働であると割り切ってはいるが。これも王たる責務の一つ。
夕刻までの視察を終えるとようやく一息……といった所か。
─────だが、この日はいつもと様子が違っていた。
我々が城へ帰参すると、何やら城内の様子が騒がしい。
「反乱だ!従者たちが反乱を起こしたぞ!」
家臣たちの喧噪がこちらまで響いてきた。
急ぎ足で城門まで向かうと……そこには、いつも私の世話をするメイドが手に縄を持ち、私の帰りを待ち構えていたのだ。
「何事だ!?私達に一体何をするつもりだ?」
「王に一体何の恨みがある!反乱を起こす必要などないはずだ!む、むぐぅ……」
メイドは、家臣を次々に手に持った暗器で気を失わせてきた。そこを待ち構えていた従者が縄で縛り上げ、身動きを取れないようにしていく。
その動きは、とても熟練されたものだ。
そして……残るは私一人。
「待て……!お前達。ここまで忠実に私に仕えてきたお前達が、一体どうして反乱など……。私の治世に不満があったのか?誰かに雇われた刺客だったのか?それとも私怨か?……答えてくれ!」
私は叫んだ。
だが、メイドも、従者も、顔色一つ変えずに私に歩み寄る。
そして……身動きを取れなくされた私は、メイドの持っていた暗器で家臣と同じ運命を辿った。
─────ほんとに…………活きの良い…………これなら…………高く…………
何やら、従者達の声が頭に響く。
その意味は、最後まで分からない。
それが……私の、ゴールドバーグ・ブラン・ド・ダンデライオンの最後だった。
「ほんとに……この子らには感謝せんとならんなぁ……毎年毎年」
「んだんだ。こうしてあたしらの牧場の生計がたつんも、おまんまが食えるのも、あの子らのお陰だで」
「金太郎、ほんとにでっかくなって……毛並みも良いし、毎日ワシと散歩したお陰で筋肉も申し分ない。ありゃあ良い値がつく」
「……嬉しいけんど、寂しいねぇ……」
─────ここは、山間にひっそりと開かれた動物の楽園……たんぽぽ牧場。
王……牛達のボス(肉牛)
家臣……その他の肉牛
従者……畜産農家のおじさん
メイド…… 〃 のおばさん
帝国……近くのライバル牧場とか




