10. クルーズン市で仕入れ(下)
2日目はホールで元の町に戻り、そこからまた馬車である。ところで馬車は上に幌がついているだけである。だから夏のこの季節はいいが、冬はなかなかつらい。
まだ大きなガラスがないため、全部を覆うことはできないのだ。そんなことをすれば中は真っ暗になってしまう。
馬車は途中の宿場で昼食のための小休止を入れつつ、夕方前にクルーズンにたどり着いた。またホールで家に引き返してしまう。
考えてみるとホールを使うのにクロが起点となるため、クロは旅行に連れていけない。もっとも猫はおうちが一番好きだから、必要ないと言えばない。
3日目の朝にシンディとマルコも伴い、ホールを通ってクルーズンに行き、さらに歩いてブリュール氏の青果商に向かう。
ブリュール氏にあいさつし、ブドウが午後に届く旨を伝える。さらに手紙でお願いしていたアクセサリに詳しい人の紹介をお願いする。
ブリュール氏は人を呼ぶ。30前くらいの男が来ると、彼に何か言い含めた。
「こちら手代のオーブリー。彼の妹がアクセサリに詳しいので一緒に行ってください。それではまたブドウを楽しみにしています」
オーブリーさんに自己紹介する。するとさっそく彼の妹のところに行くという。しばらく街を歩いてちょっと雰囲気の違った街区に至る。
装飾品の問屋街だそうだ。この辺は通りに面したところに店があり、裏は工房になっているという。
オーブリーはその中の1軒の店に入り、店員に声をかける。
「ブリジットはいますかあ」
「おーい、ブリジット。兄貴が呼んでるぞ」
「なーに?」
「こちらクラープ町のフェリスさんだ。行商で売るアクセサリを探しているそうだ。うちに店の取引先だから、案内してくれ」
そういってオーブリーは店に戻る。
「はじめまして、この工房でブローチなど作っているブリジットよ」
20代はじめくらいでやや小柄で職人らしい作業着を着た女性である。
「はじめまして、フェリスです。こちらがシンディとマルコです」
「どんなものが欲しいの?」
「食品などを行商で売り歩いていますが、いま一つ店に面白みがないのでアクセサリも売ろうと思っています。30代40代くらいの女性がお小遣いくらいで買えるようなものがあるとありがたいです」
「それならうちの店のはどう」
商品を見せてもらう。動物や植物などいろいろかたどったブローチが並んでいる。
「これでおいくらですか?」
「1つ1000ハルクで、11個目以降は1割引き、51個目以降は2割引き、101個目以降は相談しだいね」
手仕事で大量生産できるわけでもないから、相談になるのは仕方ないだろう。
「よさそうだけど、どうかなシンディ、マルコ」
「まあ、いいんじゃない?」
「6割で仕入れたとして小売値が1つ1600ハルクくらいだね。わりとよさそうだよ」
「じゃあ20個くらい買っていこうか」
「それでは19000ハルクね」
支払いをして商品を受け取る。ブローチだけだと売り物としてさみしいのでもう少し探すことにする。
「他にもいろいろ買いたいのでいい店があったら教えてくれませんか?」
「わかったわ。職人仲間がいるから、手ごろでよさそうなものを紹介するわ」
ブリジットの紹介で近くの店を回り、髪飾り・ネックレス・腕輪・指輪などいろいろ購入して、10万余りとなった。
「これで全部売れたら7万くらいの利益か」
「この買い付けだけに出張したら赤字ね。ブドウ売りがあるからいいけど」
「アクセサリ目当てにふだん来ないお客さんが来てくれれば、それはまた別の利益につながるね」
商人らしく商売のことを話していた。
「せっかくだからつけてみない?」
ブリジットがブローチを手にシンディにつけるよう勧める。
「あ、あたしは……」
シンディは躊躇するが、ブリジットがもう一押しする。
「売るときには店員さんがつけている方がいいのよ」
フェリスとマルコも期待しているようで、シンディは仕方なくつける。
「なかなか似合っているよ」
「いいよね」
「あっ、あらそう?」
少し戸惑っているみたいだ。
ブリジットにお礼を言って別れ、3人でかなりの荷物になった。
いつものように人目につかないところに移り、ギフトでクロのいるクラープ町に荷物を置きに帰った。
マルコが実家にもいくらか持っていきたいというので、アクセサリを余分に仕入れた。
後で手紙を書き、マルコの父親のマルクがクラープ町に仕入れに来た時に会い、引き渡す。
もちろんうちの利益を少し載せてだ。この辺はきちんとしていた方が、後々まで長続きする。
仕入れのあとはブドウ売りだ。ブドウが届くまでクロといちゃいちゃする。シンディなどは稽古でもすればいいのにと言っている。
いやこの世界で最も重要なことは猫とのつきあいなのだ。それは間違いない。この世界の神がそれを行動で示している。
ついでにいえば猫との遊びの中には武術に通じるものがある。
床に手を置いて布で隠す。指を少しだけ出して細かく動かすとクロが反応して飛びかかってくる。これを寸前でよけて手を引っ込める。
どう見ても武術の練習である。どうしてこの素晴らしさがわからないのか。
とはいえ、どうもクロはシンディが苦手なようであまり近づかないので、わからないのも仕方ないかもしれない。
それはともかくブドウが届いたので、ホールで戻りブリュール商会に売りに行く。
「おやおやブドウをありがとうございます。それでは手代に数えさせます」
「どうかよろしく」
「アクセサリはどうでしたかな?」
「いいものが仕入れられました」
「それはよかった」
また近況など話していると、手代さんが来て主人に何か話す。
「よいものが168房、少し劣るものが8房ほどでしたので、36万でよろしいですか?」
「はい、それでお願いします」
「シルヴェスタ様のブドウは新鮮で本当にありがたい。まだまだ売れますからな。これからもどうかたくさんお持ちください」
久々に姓の方で呼ばれた。
「こちらもどうかよろしくお願いします」
と言って別れる。
あとはまた街で買い物をしたりお茶を飲んだりする。田舎町にいると都会の流行りを見るのも商売のタネになりそうなのだ。
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