37話
振り下ろされる金棒が足元を襲う。
間一髪で避けた。
そのまま金棒は地面と衝突し、ゴォン!!と爆音を洞窟内に響き渡らせた。
「グッッ!!」
思わず耳を塞いでしまいたくなるほどの轟音が、その一撃の威力を、そいつの強さを物語っていた。
(こんなやつに勝てるのか?・・・いや、まずは逃げることを最優先するべきだ)
「二人とも、ここから逃げよ・・・!?」
逃げよう。そう言おうと振り返り、俺は絶句した。
そこにあったのは壁。岩の壁だ。それが示すはつまりーー
(行き止まり!?)
しまったと思ったところで後の祭り、そのときにはすでに大鬼の手によって第二撃目が繰り出されていた。
再度、轟音が洞窟内に響く。
ーー金棒は、ユウによって止められていた。
ギチギチと、魔力壁と金棒の擦れ合う嫌な音がする。
すんでのところで魔力の壁を展開することが出来たのは良いが、圧倒的な大鬼の力によって、尋常では無い速度で壁が削られている。
一週間の訓練の中、魔力をより感じることが出来るように、そして魔力を操作することが出来るようになった俺が、新たに習得したこの防御技。あらゆる攻撃から身を守る魔力壁へ費やす魔力の量は生半可なものではなく、またそれによって得られる壁の硬さも、半端なものではない。しかしーー
その強固な壁に、ピシッとヒビが入った。
(持たないっ!!)
一瞬の内に判断し、俺は回避を選択した。
大鬼の圧力から離脱し、地面を転がる。
瞬間、抵抗力を失った魔力壁ごと押し込まれた金棒が地面を砕いた。
「っっ!!」
(もうつべこべ言ってられない。出し惜しみは無しだ。奥の手を使おう)
強敵を前に、最終手段を行使しようと、構えを取ったその時。
「『アースウォール』!!」
玄太が叫んだ。
両手のひらを地面に叩きつけるように振り下ろす。と同時に土から突起してくる壁。その壁はレッドゴブリンと戦ったときに比べて、おおよそ10倍もの厚さを誇っている。目に見えての修行の成果だ。
「俺は時間を稼ぐ!!ユウと真一はあいつに攻撃を入れてくれ!!」
「「・・・分かった!!」」
もうあの大鬼を倒す他生きる道はないと、嫌でも理解させられた俺と真一は、玄太のその指示に従った。
ーーしかし、
大鬼は、その巨大な壁を前にしても、表情一つ変えることなく攻撃を続けてきた。
そいつは地面にめり込んだままの金棒を持ち上げる。すると今度は土の壁に向かって真横に薙いだ。
ーー衝突。
一瞬にして中心からヒビが伝播していき、厚さ数メートルにもなる壁は打ち砕かれた。
「マジかよっ!」
まさかあれほど分厚い壁を一撃で破壊できるとは思わなかったが、溜めもなしにあっけなく破壊してくるとは、冗談にもならない程のパワーだ。
追い打ちは続く。打ち砕かれたことによってバラバラになった土の壁が、岩の礫となって襲いかかってきた。
「・・・ッッ!!『アースウォール』!!」
再度、玄太は土の壁を作り出す。
飛んできた礫は、新たに作り出された土の壁によって阻まれた。
ーーしかし、
次の瞬間には、新たに生成した土の壁は大鬼の金棒ひと振りで打ち破られ、再び大粒の礫が襲いかかってきていた。
「クッ!!」
かろうじて作り出した魔力壁で、礫を受け止める。
(クソッ、このままじゃジリ貧だ。俺が何か決定打を与えないと押され続けていつか死ぬっ!!)
「ああ、もうっ、一か八かだっ!!真一!真正面から突撃するぞっ!!」
「了解、その指示を待っていたよ。僕も同じ考えを巡らせていたところだ。・・・やっとこのスキルが使える場面になったな」
後半は独り言のように呟いた真一。だが、先の行動に問題が生じないならそれで十分だ。
「行くぞっ!!突撃だァァァァァ!!」
胸のうちに秘めるは決死の覚悟。
俺は手のひらに魔力弾を生成しながら、真一は鞘から剣を抜き出しながら。俺たちは一気に駆け出した。




