36話
歩みを進めた先、入り口付近まで近づいたところで、異変が起きた。
「なぁ、二人とも、なんか入り口からこっちに向かって空気の歪みが近づいてきてる気がするんだけど」
「そうだな。っていうかあの空気の歪み魔力がこもってないか?」
真一の言う通り、物凄い勢いでこちら側に近づいてきている空気の歪みに、スキル『魔力感知』が今までとなく反応している。
「あの魔力は風属性だな」
得体の知れない既視感に苛まれながらも、俺は二人にそう言った。
目を凝らし、空気の歪みの正体を暴こうと試みる。
「ーー逃げろ・・・」
気づいたら、俺はそう呟いていた。
空気の歪みの正体は、風魔法による風の刃だった。
巨大熊のときと同じ魔法だ。
自分の身が八つ裂きにされたときのことを思い出し、俺は戦慄した。
「逃げろっ!!」
再度、今度は更に大きな声で俺は叫んだ。
クルッと身を翻して、来た道を全力で引き返す。なりふり構わず、無我夢中で全力で走り続けた。
背後からはガリガリと風の刃が周囲の壁を削りながら接近してくる。
「くっ、追いつかれる・・・っ!!」
しかし、風の刃が接近してくる速度は、三人の全力疾走を少しばかり上回った。
身体強化は使えない。真一と玄太を置き去りにしてしまうからだ。
(仕方ない・・・一か八か、やるしか無いな)
後方を少し振り返り、風の刃の位置を把握する。
そして、俺は真一と玄太に話しかけた。
「二人とも、このままじゃ追いつかれる。だから、出来るかわからないけど、俺があの風魔法を食い止める。二人は後ろで敵との戦闘に備えておいてくれ」
「おいっ!?ちょっと待・・・」
真一が言い終わるよりも先に、俺は振り返り、風の刃を見据えていた。
腰を落とし、手のひらを前に突き出す。
目を閉じ、頭の中でイメージを展開する。
(想像するのは「盾」。強固で、重厚な絶対無敵の防御壁・・・)
ーーその時、ユウの手のひらに魔法陣が展開された。間髪入れずにユウの体内の魔力が魔法陣へと集約していき、全体の5分の一程の魔力が集まったところで、手のひらから属性変換のされていない純粋な魔力が放出された。
紫色の光を放った魔力は、円形の防御壁を形作っていき、ついに円形の通路を塞ぐように魔力製の盾が出来た。
直ぐそこまで近づいてきていた風の刃を見据え、俺は歯を食いしばる。
ーー瞬間。
「ドゴォン!!!」
とてつもない衝撃がユウの腕を襲った。
「ぐっ・・・!!」
喉の奥から漏れ出す声。腕の奥まで浸透する激痛を、しかしユウは耐えきった。
しばらくして、風の刃は勢いを無くしていき、ツゥとかき消えた。
風の刃は魔力壁を三分の一ほど削っていた。
「ふぅ」
と、安堵のため息とともに、俺は魔力壁を戻す。
(なんとかなった・・・)
「ユウ、大丈夫かっ!?」
真一と玄太が駆けつけてくる。
「俺は大丈夫だ。それより、直ぐそこまで来てるそいつに備えてくれ」
俺が指を指した先にあるのは、一体の大きな影。
ゴォン、ゴォンと音を立てながら、そいつは一歩、また一歩と、俺達との距離を詰めてくる。
突如足音は止まった。
闇の中に、そいつの双眸が浮かび上がる。
それと同時に、闇に慣れた目がそいつの容貌を捉えていく。
頭から生えている二つの角。大きく隆起した四本の腕と脚。手に持つは不気味な形をした金棒。
「ウソ・・・だろ」
まさに鬼とは、こいつのことを指すのだと、俺はその時思った。
闇の中に浮かび上がったそいつの姿は、正真正銘の、大鬼だった。




