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明日、世界のどこかでキミが笑う。  作者: 葵月さとい
プロローグ 【ペーガソス】
1/43

①トウヤ

 

 俺たちはちゃんと理解している。

「自分たち」がアイドルとして、どういう立ち位置にいるのかを──




「はいっ皆さんこんにちは~! どう転んでも国民的にはなれないアイドルグループ【ペーガソス】のWEBテレビ『夢みて☆ペーガソス』! 今週も始まりました〜! 司会進行役の鷺田(さぎた)トウヤです。宜しくお願いしま〜っす!」


 明るく(なつ)っこい笑顔を浮かべ、トウヤは収録用のカメラに向かって手を振った。


 ────『国民的にはなれないアイドル』。


 そうトウヤが言った瞬間、番組スタッフの一人がくすりと笑った。きっとトウヤが自虐ネタを()れて笑いを誘ったと思ってるんだろう。


(でも──それ間違いだから……)


【ペーガソス】のメンバーのひとり、川鵜(かわう)ミズキは心の中で舌を出す。


(自虐でもなんでもなくって、俺たちは、()()()()()でアイドルやってるから)


 ペーガソスは、鳴かず飛ばずの歌手ばかりが集まった弱小事務所に所属しているアイドルグループだ。

 メンバーは五人。全員、22歳。

 さらに地元が同じという共通点を持っている。


 ミズキ達は現在(いま)、某テレビ局が公式サイトで日替わりで公開しているWEB番組の収録をしていた。

 曜日によって担当が決まっていて、ミズキ達は水曜日の担当。

 WEBとはいえペーガソスにとっては(かんむり)番組だし、大事な収入源のひとつでもある。


 ちなみに【ペーガソス】はギリシャ語。

 英語にすると「ペガサス」。

 日本語では「天馬(てんば)」という意味になる。


「ペガサス」と単純に名乗ってはつまらない……。

 聞いた瞬間「なにそれ?」「変な名前」と耳にノイズが残るくらいが丁度良い。そういう思惑をこめて、マネージャーの賢太郎(けんたろう)名付(なづ)けた。


 それから忘れちゃいけない『どう転んでも国民的にはなれないアイドルグループ』というキャッチフレーズ。

 これを考えたのはトウヤだ。

 鷺田(さぎた)トウヤ──彼はペーガソスのリーダーでもある。


 アイドルの顔をしている時のトウヤは、親しみやすい「お茶の間キャラ」に見えるが、実は慎重で神経質で何より計算高い青年だ。


『この業界で不要な敵をつくらないこと。上位(うえ)は目指さない。()()()()でいい。ある程度の収入を得てちゃんと自立し「食べていく」ための仕事として、俺たちはアイドルをやろう──』


 これはグループ結成時にトウヤが言った言葉だ。


 急にリーダー面をされても……

 いや、その前にこれから仮にも芸能人(アイドル)として活動していく人間を前にして言う台詞(セリフ)か? とミズキはじゃっかんモヤモヤしたのを覚えている。

 だがそんなものは本当に最初だけで、いざ活動を始めると、トウヤ以上に【ペーガソス】を導ける人間はいなかった。


『──俺たちは()()()()でいい。うまい話には裏があるんだから』


 駆け出しの底辺アイドルに、持ちかけられる仕事はどれも微妙だった。

 誰がみても「ヤラセ」だと分かってしまうような企画や、危険を伴う体を張った企画の話ばかりが多かった。そして「いい感じに撮れたら報酬(ギャラ)は倍にするから」と言って、魅力的な数字を提示してくる。

 しかしトウヤはマネージャーの賢太郎と共に、ひとつひとつの企画を精査し、ペーガソスにとって不利益になることは適当に理由をつけて(かわ)してきた。


(仕事なんて、選べる立場でも無いのにな……)


 難しい顔をして賢太郎と話をしているトウヤの姿を、ミズキをはじめ、メンバー全員が目にしている。

 歌って踊る……という仕事がどれだけ有難いことかも痛感した。


 ────だから、一度受けた仕事は全力でやる!


 それが苦労して仕事をもぎ取ってきた者に対しての最大の礼儀だし、生活もかかっている。

 トウヤを中心に【ペーガソス】は先行きがみえない未来に向かって駆け出した。

 結成してから既に二年が経つ。

 順調といえば、順調なほうかもしれない……。


「じゃあ、次に、メンバー紹介をしたいと思います!」


 笑顔全開で司会に専念しているトウヤに、メンバーの視線が注がれている。

 こうやって前線に立つリーダーのことを、皆が尊敬していた。

 ミズキはふと、メンバーの言っていた言葉を思い出す。


(そういやルカは、トウヤのことを「お母さん」みたいって言ってたな……)


 面倒見のいいところや、キャラクター的にもそうかもしれかい。

 けれどミズキは「母」というものに馴染みが無かった。

 だからもし自分が、トウヤのことを表すなら……


 ────『ヒーロー!』


 恥ずかしいから、絶対本人には言わないけれど……。

 グループを思い、仲間を思い、引っ張っていってくれる力強く頼もしい存在だ。


「じゃあ次は、レイジな!」


 トウヤが次にトークのバトンを渡したのは、レイジだった。

次回。


プロローグ②「レイジ」



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