中二が頑張った!
「それじゃあ、よろしくね」
我が姉は私が一日お守りをすることを我が父に報告するために退室した。
おそらく、契約の場を整える時間も必要だろう。何せ、今回の勇者召喚はお忍びだ。希望があると伝えて失敗したら大変なことになるということだろう。今の我が国に暴動を起こすような者が残ってるかは疑問だが。
しかし時間が余ってしまうった。それにお守である以上、黒歴史男の側にいる必要があるだろう。
まあ、明日にはいなくなるのだ。ならば王城の中を見せてやるのも悪くない。
「勇者様、時間に余裕がありますので王城の中を見て回りませんか?」
「まさに天啓と呼ぶべき素晴らしき提案、『貴き白百合』よ供をせよ」
「ミンナです。私の提案ですし、もちろん一緒に行きますわよ」
言ってから後悔した。見て回るのならば説明しないといけないだろう。
すると当然会話が生まれる。
なんということだ、私は自ら茨の道に足を踏み入れてしまったのか。
「そうですわね、とりあえずは庭園にでも行きますか?」
「花園……。至宝を封する地か、否か」
「とてもきれいな庭園ですが、それだけです。勇者様が期待する程のものはないかと」
一応、ここ庭園は非常に素晴らしいものと評判だった。
今も管理者が手入れをしているがこんな状況だ。見る者はほとんどいない。
そもそもこの男に花を愛でる趣味はあるのだろうか。こういう人のほとんどはそっちの方が格好いいからという理由で知識は多かったりするものだ。しかし、それと花を愛でる趣味があるかは無関係だ。
ああ、こういう人の知識云々は実体験とかじゃあないよ。断じて。
「ここが庭園です。一応管理はされてますし、見事なものでしょう?」
「美の極致ッ……。骸すらも、無き目を見開くだろう」
「そんなに感極まってしまうようなものでしょうか。慣れとは怖いものですわね」
勇者は神のいる世界からやってくるらしいが、そこには庭園がないのだろうか。だとすれば神の世界も大したものではなさそうだ。
神の世界と言われると知りたいが、黒歴史男の元いた世界となると知りたくなくなる。非常に不思議だ。
まあ、情報を集めるのは嫌いではないし黒歴史男は言葉こそ少ないが態度とか雰囲気が分かりやすい。神の世界ついて調べる機会なんて二度とないだろうし、趣味も実益も兼ねた素晴らしい暇つぶしだ。
発言するたびに私の胸に痛みを与えるのはいただけないが一日だけの任務、その程度は我慢しよう。
「勇者様、そろそろ次に向かいましょうか」
「ん?ああ、新天地の調査か。隼のごとく向かおう」
しかし、ここまで勇者という幻想を打ち砕かれるとある可能性が浮かんでしまう。
もしかして、こいつ神の国から来た勇者じゃないのでは。
「『貴き白百合』よ瞳に翳りが見えるぞ」
「お気になさらず、考え事をしていただけですわ」
「む」
黒歴史男が何か言いたそうにしているが無視。歩き出したら黙ってついてきてくれた。そこは評価しよう。
これは、あくまでも根拠のない妄想だ。しかし、万が一にも本当に神の国とは関係なかった場合、本当の絶望だ。
我が姉は少なくとも、この男に期待をしている。おそらくは我が父も。
いきなり上げて、すぐに落とす。我が姉はショックを受けるだろう。それは……困るな。遊び相手がいない。というか、姉が絶望の淵に落とされる姿を好んでみたい妹はいるか?
……この思いつきは黙っておこう。私一人が不確定要素を知っているというのは不本意ではあるが仕方ない。
この話は終わり。切り替えは大事だ。
次はどこに連れて行くべきか。この男が私の過去とするならば聖道院墓地とかとか妖精の森、一気に攻めて宵闇の山なんかに行けばいいのだろうが、生憎とあの辺りはかなり難しい。
何せ、どれも城の外、妖精の森と宵闇の山に至っては町の外だ。
聖道院に至っては私が出禁を食らっている。
「勇者様、勇者様が喜びそうなところを考えていたのですが思いつかなくて……。何か行きたいところなどはありますか?思いつく助けになると思いますので教えていただけるとありがたいのですが」
「戦士たちの魂を封じ込めた地を望もう」
「武具庫ですか……」
武器庫は厳しく管理されており、入るには許可証がいる。王族の私が許可を貰えない、なんてことはないが許可を貰いに行くのは少々面倒だ。
普段なら管理者の目をかいくぐって侵入するのだが今は黒歴史男を連れている。姫というキャラはできるだけ保ちたい。出会い頭に目の前で我が姉相手に騒いだが、あれはノーカンだ。
「分かりました。ですが武器庫は管理が厳しく、申請をしなくてはいけません。これから申請してきますから待っていてくださいね」
「鳥は片翼だけでは飛べまい。我が灯りとなろう」
「勇者様はここに来たばかりでしょう?私のほうがここにいた時間は長いんですから任せてください」
「むぅ」
「ついてきます?」
「!ああ、我、護り手とならん」
一人だけだと危ないだろうから一緒に行くとか言ってきたからやんわりと拒否したら不安そうな顔をされてしまった。
一応ついてきてくれといったら急に顔を輝かせてきた。言葉は分かりづらいし、普段は表情が大して変わらない。だから、あまり感情の振れ幅がないのかと思ったが今の様子を見るに素はかなり感情が揺れ動くタイプだ。交渉事には向かないタイプ。
この言動で腹芸も苦手、となれば無用なトラブルは避けられない。魔王討伐の旅はどうなることやら。
「しかし、幼き器なれどそこに秘めた実に気高き魂、賛美されるべきものよ」
ん?
あ、ついて来ようとしたのって私が子供だと思ったからか。
……。
「そういえば年齢を言っていませんね。私あと二ヶ月で十五になりますの」
「深夜の轟音!」
そこまで驚くようなことだろうか。
確かに私は身長が低い。しかし、身長とはあくまでステータスの一つに過ぎず、年齢とは直結しないはずだ。
筋肉がついてるから軍人とよぶような、本をよく読むから頭がいいと感じるようなものだ。
年齢はそんな物よりも精神性や雰囲気で推測すべきものだろう。
「よく言われて困ってるんですよ。小さいね、と」
「ご、ごめんなさい。そんなつもりはなくて……」
「いえ、気にしていませんので勇者様もお気になさらず……え」
今、なんて言った?今、もしかして、普通に謝った?
そういうとこはわきまえるタイプなの?
「許しを請う地までの道程はどのようなものか」
「え、ああ。もう少しで着きますよ」
さっきのこと問い詰めたいが、元の黒歴史男に戻るのが自然すぎて普通に答えてしまった。
こうなるとなんか聞きづらい。
でも聞きたい。どうしようか。深い思慮を持って事に当たらねばなるまい。
「勇者様は何で変な喋り方なのですか?」
考えた結果正面突破が一番だと思った。
「変っ!?あ、いや我が言霊を読み解けぬものが多いのは理解しているし、申し訳なさを感じる。しかし、そのだな……これは我が鎧、我が骨子そのものなのだ。故にこの言霊を解くわけにはいかない」
「……まぁ、そうなら私から言うことはありません」
闇があるのか、臆病なのか。おそらく後者。
今の言葉が本当なら、私の過去と今のこいつは根底が違う。着地点が同じでもその場所を目指した理由が違う。
そして、こいつは勇者として目的を果たせない可能性がある。
また一つ、不安の種が増えてしまった。
「……着きましたよ。ここで許可を貰いましょう」
ここは事務室みたいなものだ。おそらく、この王城内で最もブラックな場所だ。
国民の要望、生活状況を書類で、時に自分の目と耳で調査して、次々と対策をまとめては予算を工面して手配を済ませて執行。
国王の職務のスケジュールを決め、方々を駆け回って軍事費を工面し、交渉の情報を集めて、国の在庫を管理して、
部署の衝突を仲裁する。
まさに屋台骨だ。しかも、魔族の襲来以来、さらに仕事が増えているらしい。
「此処は鬼の巣窟か……?」
「違うはずですよ。多分」
確かに目が血走っている状態で書類を捌き続ける様は鬼と間違えてもおかしくはない。疲れてるっていうより憑かれてる感じで、オーラが立ち上っている気がするとしても、無言で無駄のない連携行動をとっていたとしても鬼ではない。
「お忙しいところ申し訳ありませんがこの書類にサインせていただけませんか?」
「……」
無言でサインしてくれた。余程疲れているのだろう。
「さ、勇者様呆けてないで行きますわよ」
「む、すまない」
ああやって歯車として尽くしてきた人には本当に畏敬のの念を抱かざるを得ない。ああなってまで褒められたいとは思わないが。
武器庫と事務室はそこまで遠くない。管理の問題もあるのかもしれない。そして、その武器庫に隣接するように兵舎が建っている。
そんなに長い時間歩くことにはならない。
「あれ、王女様珍しいですね。いつもは図書室にいらっしゃるのに」
「そういう貴方はいつも通りですね」
「ええ、このアベル常に最高のコンディションを心掛けていますから。ところで、いつもの斜に構えた話し方はどうしたんですか?」
自分でも焦ったのが分かった。
そんな分かり切ったことを聞くか?普通。
こいつの場合分かり切ったうえで聞いてくるからタチが悪い。
そもそも、私はこの男が苦手だ。
今の問いといい、こいつは人が困ることとか、焦る姿とかが大好きで、それを見てクツクツと笑うのが好きなのだ。
しかし、この男はそれを勘定に入れても次期騎士団長と言われるほどの実力者なのだ。重要な案件とそれ以外の区別はつくし、空気は読める。常に努力を怠らない部分は尊敬すらしている。
本当にこの性格だけが問題なのだ。特に私は過去の醜態を見られてしまっている分余計に。
「話し方?私はいつも通りですよ?」
「ああ、そうでしたね。失礼しました」
最近焦らなくて寂しいなぁ。じゃないよ。
あくまで予想だが多分こんなことを考えているのだろう。
そもそも、この話し方はおかしいところはないはずだ。あったとしても斜に構えてるは言い過ぎだろう。
「そちらの方は?」
「ああ、本日、魔王討伐のために来て下さった勇者様です」
「勇者様?本当の名前は何なんですか?勇者様が本名ってことはないでしょう」
「いや、あのですね、そのー」
とても言いづらい。何せあの名を言うだけでも恥ずかしい。その上この男の前で言うのはより嫌だ。
どうせ、過去のことを引き合いに出しつつ笑われるだろう。
「どうしました?」
「いや、別に」
さて、どうしようか。
困っていたら、黒歴史男こと悩みの原因である勇者が私の前に割り込んできた。
猛烈に嫌な予感がする。
「我が名は朱き血のサングイス、呼び声は果てを超え、次元を超越し、我のヴァルハラに届いた。我が翼はヴァルハラにて無形のままであった。しかし、この世界にて我が翼は形を成し蒼穹に朱を撒くに足る力を得た。故にこの世界に協力させてもらう」
「はい?」
「はい?」
一つ目のやや詰問するようなはい?が私。二つ目の鳩が豆鉄砲を食らって失明したような間抜けな声がアベルだ。
この黒歴史製造機は何をやっているのだろうか。困った私を助けようとしたのは分かる。しかし、その方法がおかしい。
私の危惧していたことが分からないのだろうか。いや、分からなくて当然なのだが……この怒りというか困惑というかをどこにぶつければいいのだ。
「なるほど……」
どうやらアベルの思考が再起動したらしい。止まったままが良かった。
「いやぁ、あの喋り方、非常に懐かしいですねぇ。王女様もそう思いません?」
「え、ええそうですね」
「やっぱり!王女様ならばそう言うと思っていたんですよ!」
め、面倒くさい。とても生き生きとしている。
外面を保ちながらこいつと会話するのは面倒すぎる。
何よりもこの話題をやめる気がない。全く堪えてないように見えるかもしれないがこちらは彼の些細な行動に過去の自分を幻視してダメージを受けているのだ。
喋り方は自分より酷いと確信を持って言える。だから慣れれば消えはしない。しないがダメージは減る。しかし、些細な行動は防ぎようがない。例えば、意味はないけど壁に寄りかかるとか。
そういう些細な部分がダメージとして大きい。
「私の知り合いにいたんですよ。ああいう凝りすぎて何言ってるか分からない自己紹介をする人が。今はやめてますけどね」
「くっ。そ、そうなんですか。私も会ってみたかったですね」
話が逸れたが、こいつはそういう些細な黒歴史を攻撃している。
とても辛い。
「王女様が会おうと思えばすぐに会える筈ですよ。いやあ、馴れ合う暇があるなら鍛錬を積むだろう?とか言ってたのには笑いましたね」
「ゴハッ」
普通にダイレクトアタックしてきた。
それは本当にやめてくれないかな?ああ、つらい。
「…我には向かうべきところがあり、魂は其れを求め続けている」
「なんと?」
そこで私に振りますか……。
「ええ、早く目的地に行きたい、です」
「なるほど……。それは失礼しました。私も用を思い出しましたし、それでは」
そういってアベルはどっかいった。
とりあえずに今日はもう会いたくない。
「では行かん」
「勇者様、少しよろしいでしょうか」
「む?いかなる導きだ」
それはそれとしてこいつに言わないといけないことがある。
「まずは感謝を。私が困ってるのと思って助けてくれたんですよね?原因もあなたですが……それも私を助けようとした結果です。ありがとうございました」
こいつの助けは本当にありがたかった。
感謝は必要だろう。
まあ、自分がかけた迷惑を自分が解決したというところでかなりのマッチポンプではあるのだが。
「えっ?ああ、いや……その……。ゴホン、我はパンドラの箱を開き白百合を枯らしてしまうところであった。己が始まりとなった厄災、責をとるは当然である」
「だとしても、です。そう言いましたよね。確かにあなたが原因です。ですが善意の結果で、あなたが悪いというものではありません」
「そ、そうか」
「では行きましょう。もう少しで準備が終わるでしょうし」
準備という言葉を聞いて勇者は戸惑っていた。当日になって他国との会談がると報告されたかのような表情だ。
そういえば勇者は契約を交わすということを知っているのだろうか。我が姉は勇者のせいで、主に喋り方のせいでかなりいっぱいいっぱいな様子だったし伝え忘れてる可能性は十分にあるな。
「勇者様はこの後国と契約を結んでもらいます。その契約してから万全のサポートを受けられるようになります」
「ふむ、願いと欲望を持たぬ者はなく、衝突は世界を揺らす。ならば鎖を用いて互いを縛るのもやむなし」
「まぁ、そんなとこですね」
勇者が何を望むのか分からないし、何をしたいかも分からない。それを聞いておかなかれば望んだものも用意できない。できないのは礼儀として有り得ない。それは分かるらしい。
「ああ、着きましたよ。ここが武器庫です」
「ここが……」
子供みたいに目を輝かせている。気持ちは分からなくもないが少しは落ち着いたらどうだろうか。
「我が身を君臨させる魔力は満ちているか?」
「少々待ってください」
受け取った書類を破る。すると書類が切れた部分から暖炉のような柔らさを感じる青い光が漏れ出し始める。
真っ二つになると一際強く、しかし幻想的なまでに儚く光ったかと思うとすぐに光は引いてしまった。
個人的にこの光はかなり好きなので部屋の照明かなにかとして販売されないかと密かに期待している。
勇者はこれを見て目を輝かせている。正に感激といった風だ。
……勇者がこれを部屋の照明にしたいと言ったら作られるだろうか。もしそうならばこの勇者にその旨を発言してもらおうか。お人好しっぽいしイケる気がする。
「……もう入ってもいいですよ」
「神託は下された!」
聞くが早いか、勇者はすぐに武器庫に入っていった。かなり嬉しいようだ。嬉しい気持ちは分かるが少し考えるとおかしい。
神の世界には神々の作った様々な武器が納められた武器庫があるという。その神の世界にいたはずなのに人間の武器庫で喜べる。私の仮説の信憑性がまた一つ上が
ってしまった。
「勇者様、嬉しいのは分かりますが無闇矢鱈に動かさない方がいいですよ。ここはあまり整理が行き届いてませんし、
ふとした拍子でそこに積みあがっている籠手なんかが崩れるかもしれません」
「言霊、確かに受け取った」
そんなことを言う割にはさっきから手当たり次第に漁り続けているが大丈夫だろうか。
さっきから危なっかしい。今いる辺りはかなり不安定だが……。
「あ、危ない」
「え?」
ガシャーンとけたましく、いやな音が響いた。
棚の上にあった金属鎧だの兜だのが落ちてきていた。非常に五月蠅い。
勇者は無事なようだ。
とりあえず後ろに転んでしまったみたいだし怪我がないか確認しておこう。もしも怪我でもしていたらお守役になったものとして我が姉に合わせる顔がなくなる。
「大丈夫ですか?勇者様」
近くで膝を突いてできるだけ近くで聞く。形だけでも誠意を見せられるならやるべきだろう。
できるかどうかも分からない案だが勇者に青い光の照明を作ってもらう計画は続行だ。
「あ、案ずることはない、我が実像に影は差しておらぬ」
「ならいいんですけど……」
勇者は少し顔を赤らめていたように思えた。少し近づきすぎてしまったようだ。
それはそれとして考えなくてはいけないことがある。ここの棚は特別高くはない。しかし、それでも私では手が届かない位置から金属の塊が降ってきたのだ。それで傷一つないとは少し、いやかなり丈夫だ。
それは本当に人間なのか?
「やはり勇者……そういうものか」
声が漏れただろうか。まぁ……いいか。アベルとの会話で勇者も私という人間について、大体分かっただろう。
この耐久力は間違いなく普通ではない。しかし、異常かといえばそうでもない。私たちの国の兵士でもそのぐらいの耐久力を持つ者はいる。
おかしいのは、その体との不釣合いすぎることだ。身長は十六だとしたら高い、十七なら普通よりといったところだが、
それに比べると体格は平均的で兵士たちに比べるとは比べるまでもない。
それなのに一部の勇士と同等の耐久力、やはり異常だ。
神の加護と呼ばれるものだろうか。
千、いや万の人を集めてやっと一人とすら言われるものだが、勇者は必ず所持しているらしい。羨ましいことだ。一応我が姉も持っているが私は持っていない。
別に気にしてはいない。そもそも私は十分すぎるくらい与えられている。この上に神の加護はそれが本人が必要としているものとは限らない。そもそも意味のないジョークにしかならないものもあるって話だ。
「め、盟主よ……」
「いつから友になったのか……。何かあったのかい?」
勇者は座ったままこちらを見ていた。なぜかビクビクしているが。後驚きも見える。
なんだろうか、初めてゴーストを見たときの我が姉のような感じだ。
「王女様の口調……じゃなくって、虚より言霊が現れた。汝の心には響いているか?」
「ないね。幻聴か何かじゃないかな。口調はサービスだとでも思ってくれ」
はっきり言って疲れた。慣れない口調を維持するのは疲れてしまう。十中八九バレてるのに維持は必要ない。
もう一つは共感。いや、違う。これは同情だろう。
彼には力がある。真の勇者かは関係ない。間違いなく戦場へ行くだろう。最初はどうでもいいやつだったが、助けられた以上少なからず情は湧く。
彼の力を見てやっと気づいたというわけだ。
「う、うむ。確かに言霊は我が心と思念に入り込んだのだが……」
「そんなこともあるだろうよ。とりあえず、崩れた部分を直してもらいましょう。私たちはいったん退室ですね」
「心得た。しかし、剣を握ってもいいだろうか。憧憬が我が身を焦がし続けるのだ」
「好きにするといい。……剣を握るは初めてかい?」
あまりにもひどい構えである。握りも違うし。
「ああ!」
「仕方ない。……いいかい、ここはこう握るんだ」
勇者の手に自分の手を添えて握りを直し、構えを教える。
かなり近いからか勇者は顔が赤くなっている。それでも教えられていることだけは聞き逃していないことには感心せざるを得ない。
授業はすぐに終わってしまった。とりあえず勇者の言っていた『声』について考えてみよう。
声を発する、念を飛ばすような武器もあるらしい。しかし、あるとしてもここにはないだろう。ここにある物は定期的に職員が鑑定している。悪意ある危険物やここに置いておくには惜しいものはその時にここから出される。
ならば、ここに『喋る剣』のような珍しい武器はないだろう。
「盟友よ、もう一度花園への導きを」
「庭園にかい?まぁいいが」
「シルフすらも瞳を向けぬ、互いのみが存在できる、秘される場所であればよい」
そこまでか。確かに庭園はほとんど人も通らないし丁度いい。
それにしても、何か話したいことでもあるのだろうか。
考えたがが思いつかず、そのまま庭園に到着してしまった。
「それで、何か伝えたいことがあるのかい?」
「うむ。あ、あのだな、その……我……俺が旅に出るときには、一緒にっ」
「危ないっ!」
轟音。
何か、大質量の何かが降ってきた……っ。
この距離でも分かる。間違いなくヤバイ。
そいつは撒きあがっていた砂煙を腕の一振りで消し飛ばした。
姿が明らかになるにつれ、驚愕しているのが自分でも分かる。間違いなく、魔族だ。




