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中二が現れた!


 魔力が部屋を満たす。


 拡散した魔力を一点に集める。


 起動句を唱え、魔方陣を励起させる。


 大量の魔力が荒れ狂い、足が震える。


 「おい、本当に大丈夫なのか!?」

 「ええ、心配しないでお父様、必ず成功するから!」


 事の始まりは十五年前、私がまだお母さんの腕に抱かれて眠っていたころ、奴らはやってきた。

 黒い丈夫な体に私たち人間をはるかに超える魔力を兼ね備えたそいつらを私たちは魔族と呼んでいる。私たち人間は必死に戦ったが奴らには負け続け今ではこの大陸の九割が奴らに支配されている。奴らは人間を捕虜にするという考えがないのか捕まった兵士は全員殺されていると命からがら逃げた兵士が語ってくれた。

 私たち人類は追い詰められてしまった。今も遠い東では対魔人戦線が張られ、多数の兵士が抵抗を続けているが数も質も違いすぎるのだ。遠くない未来に崩壊するだろう。


 だから私は必死に勉強した。

 魔族たちをどうにかする退ける方法を探したのだ。

 そして、ついに見つけたのだ。伝説の術式「勇者召喚の儀」を。


 「来たれ、万夫不当の勇者!我が呼び声に応え、世界の闇を駆逐せよ!」


 一文の詠唱、それだけで魔力が一転に収束し、異世界への扉を開く。

 目を焼くほどの光が柱となり、魔力の衝撃によって私は尻もちをついてしまった。


 「大丈夫か!シンシア!」

 「私は大丈夫です!そんなことより勇者様は?召喚は成功しましたか!?」


 大きな魔力が一転に集中した影響で床が削れ煙が舞っている。しかし、確かに人影が見えた。

 召喚は、成功した。


 「あなたが、勇者様ですか?」


 私は、思わず駆け寄ってしまいました。

 そこにいた勇者様を見て抱いた印象は「黒」だった。

 夜のように黒い、とても裾の長いコートを羽織り、右目にはこれまた黒い眼帯をつけている。コートの下に着ている服もズボンも黒い。

 ただ「黒い」。

 私は見慣れた格好になんとなく嫌な予感がした。


 勇者様は私の声が聞こえていなかったのか、私を一瞥すると、質問を投げかけてきました。


 「今、何が起こったのか。説明してもらおうか」

 「は、はい。ここは人間の王国ヴァイスハイトです。私はこの王国の王女にして勇者様の召喚者のシンシア・レイン・ヴァイスハイトです。勇者様、どうか魔族を討ち、私たちを助けてください!」


 勇者様はそれを聞き、少し目を細められました。

 召喚されてから全く動揺する素振りのないその姿を見て私は確信しました。この人は間違いなく修羅場をくぐったことのある剛の者だと。

  勇者様は状況を把握したのかゆっくりと口を開きました。


 「-------、------。---------------」

 「はい?」

全く理解できない、しかしなんか聞き覚えのあるセリフが飛んできた。






―――――――――――――――――――――――


 私、ミンナはヴァイスハイト王国の第二の王女である。

 生まれて十五年経つまであと二ヶ月、その割に身長は十二の町娘と同じなのが悩み。

 訓練が佳境に至り頑張る兵士たちの声で目を覚まし、遅めの朝食を食べて、図書館に向かいその日を過ごす。家に帰ってすでに用意されている夕食を家族とともに食べる。

 実に幸せな堕落だ。

 魔族とやらが現れてからもこの生活は一切変わっていない。

 内政は面倒くさい。前線に出るのも面倒くさい。だから、やらない、行かない。


 今日はいつもより遅い起床だった。もう太陽は真上にある。


 「そういえば、お姉ちゃ、今日、勇者召喚の儀式やるんだっけ」


 まあ、私には関係ないが。

 そういうことは我が父とか我が姉の仕事であって、私の仕事ではない。

 私はこの部屋と図書室を往復し、時には広間に食事をとりに行く。それだけなのだ。

 

 「ミンナァァァァァァァァァ!妹ォォォォォォォォ!開けテェェェェェェェェェ」


 この声は、我が姉、シンシアだろうか。しかし、この酔っ払いのような叫び声は何だ?普段のクールビューティーが台無しじゃないか。


 「お姉ちゃん、開いてるよ」

 「お願いがあるの。聞いて、聞け」


 どうやらかなり切羽詰っているようだ。

 こんな我が姉の姿は早々お目にかかれない。


 「それは内容を聞いてからかな。今日は勇者召喚の儀式があったはずだよね?その辺りのこと?」

 「そう、そうなのよ。お願い、こんなことミンナにしか頼めないのよ」


 あの姉がこんなことを言うとは……どうやらかなり深刻なようだ

 しかし、本当に何があったんだろうか。我が姉はかなり優秀だ。姉にできず私にしか解決できない案件など早々あるとは思えない。


 「勇者様の言葉を翻訳して!」

 「は?」


 間抜けな顔をして固まったのは仕方のないことだろう。

 確か勇者はあらゆる言語を習得しているとかいう学習を馬鹿にしたような便利な特性があったはずだが……。もしかして、落ちこぼれの勇者なのだろうか。奴は我ら勇者の面汚しよ……、みたいな。


 「その勇者は、いや勇者様は本当に勇者なの?不良品か何かつかまされたんじゃない?」

 「勇者の不良品って何よ。間違いなく勇者よ。オスカーが鑑定したんだから間違いないわ」


 オスカーとはこの町の筆頭魔術師だ。先々代国王(故84、今年五十回忌)と同い年らしい。


 「あの、ボケた爺さんでしょ。本当かどうか怪しいよ」

 「少なくとも技量は確かよ。それに、別に言語を理解していないわけじゃないわ。私たちの言葉は理解してるし、何よりあなたが昔使ってた言葉を使うのよ」

 「……昔使ってた言葉?」


 ……さて、どういうことだろうか。

 

 「とにかく来て。私たちだと会話に時間がかかりすぎるのよ」

 「ちょ、ちょっと待って。せめて着替えさせて」


 私は寝起きである。そんな姿で勇者とやらに会うのはまずいだろう色々と。


 「早く、急いで!さぁhurry hurry hurryyy!」


 そこまで急かさなくてもいいだろうに。我が姉は普段もっと凛としたクールキャラのはずなのだが。

 しかし、私が昔使っていた言語か……ふむ。









  「この部屋にいるわ」


 この部屋は城一番のスイートルームではないか。

 まぁ、ここを今まで利用していた各国首脳はいないのだ。ならば、これから私たちを救ってもらう予定の勇者にここを与えるのは当たり前だろう。

 コンコンコンコン

 四回ノック、


 「勇者様、この王国の第二の王女、シンシアの妹のミンナです。入ってもよろしいでしょうか」


 声がしない。物音はする。この王城に強盗の類は入ってくる事はできないし、くつろいでいた勇者様が慌てたというのが妥当だろう。

 姉がそういう話し方できるんだ……。と呟いたのが聞こえた。できるさ。

 いつもはキザったらしい話し方……?そうだろうか、まぁ思春期の少年少女なんて大体そんなものだよ。


 

 「ああ、許可する」


 普通に開いてますとかではいいのでは?

 しかし、少し言葉遣いは変だが理解できる。翻訳する必要があるとは思えない。

 

 「これ位ならいいのよ、これ位なら……」


 我が姉が頭を抱えているところから見るに長い会話になると問題があるのだろうか。


 「失礼します」


 勇者様は……なんか黒い。

 この時点で凄まじく嫌な予感がする。

 しかし、しかしだ。他ならぬ姉の頼みを受けてきたのだ。敵前逃亡するわけにはいかない。

 そもそも、後ろにいる姉はそれを許さない!


 「私の名前はミンナ・ヴァイスハイト、一応、ヴァイスハイト王国の王女です」


 まずは自己紹介、私の予想通りなら、ここで来るはずだ。耐えろよ、未来の私。


 「我が名は血、朱き血のサングイス。異なる世界で能力ちからを奪われていた。しかし、今回の世界間移動ワールド・シフトにより忠実なる原点オリジンを取り戻せた。ゆえに賛辞と感謝を。そして誓おう。我は汝らが与えた幸福に報いるため『穿つレクレール』を解き放つと」

 「あああああああああああああああああああああああああああ」


 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。

 何だこれは。どうすればいいんだ。

 この男ッ!私の!この私の想像の上を!飛び越えていきやがっただとおおおおおおおお!


 「ね、分かったでしょ。私たちでは言葉を理解するのにも一苦労なのよ。ミンナなら分かるでしょ」

 「いやいやいや、分からないって」

 「え、でもあなたって『貴き白百合ノーブルホワイト』よね」

 「やめろおおおおおおおおお」


 まったくもって予想通りだ。泣きたくなってくるよ。

 まさか過去の私の所業がここにきて響くとは。なんであんなことやってたんだ過去の私。


 「まだ、昔のこと気にしてるならこれを機に吹っ切れちゃいなよ」

 「これを機に、って昔の自分みたいなのに向き合って克服しろってこと?」

 「それ以外ある?」

 「ええ……」


 むしろ傷が深くなるだけな気がするけどね。

 そして私は自分で自分の傷を抉る趣味はない。

 よってこの仕事を受けるわけにはいかない。それに過去のことはもう納得してるし。


 「そもそも私も今の言葉分かんなかったし」

 「あ、今ウソついたでしょ」

 「⁉」

 「ミンナってウソつくときは過剰なくらい強気になるんだよ」


 くそう、さすがは我が姉。私のことはお見通しらしい。私のことをよく理解してくれてる姉を持って私は幸せだなあ。くそう。

 ならば走って逃げるのみ、私は目の前の痛い人を躱して部屋のバルコニーから飛び降り脱出を狙った。

 残念、姉からは逃げられない。

 あっさり捕獲されてしまった。あれ、我が姉ってこんなに早かったっけ。


 「イ、ヤ、だ―!私はこの黒歴史が服着て歩いてるような奴の通訳なんてしたくなーい」

 「諦めて、一応報酬も用意してあるのよ?」


 報酬。報酬というとあれだろうか。以前から欲しかった魔力スクリーン四号を買ってもらえるのだろうか?全く足りない。

せいぜい一日分だ。どうせこれからずっとこき使われるのだ。その程度だったらすぐに蹴ろう。


 「勇者様の翻訳係、もとい世話役になった暁にはあなたに王位継承権並びに領地を再び与えましょう」

 「却下ァ!」


 それ、どっちも自主的に捨てたものなんだから今更与えられても困るだけだって。

 我が姉はそれぐらい分かってるだろう。


 「分かってたわよそんな否定ことくらい。じゃあ、あなたは何が欲しいのよ」


 ふむ、何が欲しいのか、か。はっきり言ったそんなにない。

 あえて言うなら堕落と平穏。つまり今が一番ってことだ。


 「特に何も望まない。だから帰っていい?」

 「お願い。せめて一日付いて。それだけはどうか」


 一日で手続きだけ済ませて、後は旅に出すということだろうか。

 つまり、この黒歴史男が早々にいなくなるわけだ。それならスムーズにいなくなってもらうため、ひいては私の精神状態のために手伝うとしよう。


 「一日ならいいよ」

 「本当?」

 「ただし条件があるけどね」


 しかし我が姉は非常に可愛いな。特に今の一日なら~と告げて喜んだ次の瞬間に条件があると告げたときの絶望顔がなんとも……。

 やめておこう。ここから先は危険だ。

 しかし、我が姉はいつから弄られキャラになったのか。昨日とはまるで別人だ。


 「じょ、条件って?」


 不安げな顔も良い。私とは大違いだ。


 「とりあえず魔力スクリーン四号買って」


殴られた。痛い。



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