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変わらない日常


「会長、お待たせしました」


放課後。


辰也は生徒会室の隣、備品室の前に立っていた。


扉を開けると、そこには柊会長が一人で立っていた。


「あ、わざわざ来てくれたところ悪いんだけど……作業は中止になったの」


「え? あ、そうでしたか」


拍子抜けしたように辰也は笑う。


「全然大丈夫です。じゃあ僕はこれで」


「ごめんなさいね。わざわざ来てくれたのに」


「いえいえ」


軽く頭を下げ、辰也は備品室を後にした。


廊下を歩きながら、胸の奥に小さな違和感が残る。


ここ最近の記憶が、うまく繋がらない。


何かをしていたはずなのに――

思い出そうとすると、霧がかかったようにぼやける。


「……おかしいわね」


扉を閉めた後。


会長は小さく呟いた。


「矢を受けたあとで、あんなに意識がはっきりしているなんて……」


机の上には、半透明の弓が置かれている。


「祓いは成功したはず……なのに」


だがその呟きは、辰也の耳には届かなかった。


数日後。


「……は?」


掲示板の前で、辰也は固まっていた。


中間テスト結果。


自分の名前が、上位欄に載っている。


五教科合計、432点。

学年8位。


「……なんだこれ」


まったく受けた記憶がない。


答案を書いた覚えも、問題を解いた覚えもない。


だがノートを開けば、板書はしっかり写されている。

提出物も出ている。


字は間違いなく自分のものだ。


「……まあ、悪くないか」


考えても仕方ない。


辰也は軽く肩をすくめた。


「おい、委員長!」


「昨日の会長とはどうなったんだよ?」


振り返ると、いつものメンツがいた。


話すのが久しぶりな気がする。


「会長ファンクラブ会員として、聞かないわけにはいかないな!」


「昨日のこと? ああ……」


辰也は少し考え、


「結局、作業はなしになったらしくて、それで終わりだよ」


と答えた。


「嘘だ!」


「ほんとだって」


「絶対なんかあっただろ!」


騒ぐクラスメイトたち。


その時。


「ちょっといいかしら?」


「なんだよ――って柊会長!?」


振り向いた瞬間、固まるファンクラブ会員二十三号。


会長は辰也の前に立つと、静かに問いかけた。


「私の持ってるもの、わかる?」


辰也は目を凝らす。


だが――


何も見えない。


「何も持ってないように見えますが?」


「……そう」


会長は小さく頷いた。


「よかったわ。じゃあね」


それだけ言うと、何事もなかったかのように立ち去っていった。


「なんだったんだ?」


「さあ?」


「ぼ、ぼく……柊会長と話しちゃったよ……」


「よかったな」


日常は、何も変わらないように見えた。


だが――


変わっていないのは、表面だけだった。



影は、ずっと辰也を狙っていた。


本来ならば。


召喚されたあの時。


辰也の体は、自分のものになるはずだった。


だが――


あの破壊神だとかいう、なり損ないに奪われた。


しかし昨日から。


その気配が、ぱったりと消えた。


一日、様子を見た。


二日、観測した。


出てくる気配はない。


ヤツの守護が消えた。


そう判断するには、十分だった。


獲物は、放課後の帰り道を一人で歩いている。


無防備に。


警戒もなく。


影は、側溝の闇から滲み出た。


静かに。


確実に。


辰也の足元へと絡みつく。


抵抗はなかった。


神の気配は、やはりない。


そのまま影は、体を飲み込んだ。


侵入。


支配。


同化。


すべては一瞬だった。


これまで警戒していたのが、馬鹿みたいだ。


「グフフ……ヤッタゾ。コレデ――」


その時だった。


背後に、気配を感じた。


感じてはいけない気配。


振り向く。


そこに立っていたのは――


あの神の、なり損ない。


次の瞬間。


白い閃光が走った。


辰也の体ごと、

影は、真っ二つに切り裂かれた。


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