第24話「できることなら」
恋人になって、初めて体を重ねたあの日から、毎晩のように仲良くしている。
親に隠れてコソコソと、小声でしか会話できないもどかしさはあれど身も心も満たされて、おかげで日中にもいい影響を及ぼし、充実した毎日を送っている。
冬休みにも入って、年末年始は毎年、母方の田舎へと帰るんだけど。
「わたし、今回はパス」
「私も」
「え〜?なんでよ。おばあちゃん楽しみにしてたのに」
「友達と年越ししたくてさ。もう約束しちゃってんだよね」
「私は……課題が、やばくて…」
母はかなり渋ったものの、説得しても動じない姉妹ふたりに「仕方ないか」と最終的には納得してくれた。父もしぶしぶといった感じで頷いていた。
わたしはもちろん、友達との約束なんてない。
姉であり、最愛の人であり、今では恋人の祈里と、イチャイチャする気満々で家に残った。
それはもう、普段できないリビングとかキッチンとか玄関とか階段とか。ありとあらゆる場所で襲って、家中どこにいても記憶が残るくらいの思い出を作ろうと企んでたのに。
「はぁー……まじで終わんないの」
「うぅ〜、ごめん。ごめんなさい〜…」
どうやら課題がやばいのは嘘でなく本当だったらしく、大晦日の午前から午後まで。ひたすら家庭教師に専念するハメに。
相変わらず能力の低い姉は何度教えても頭の上にはてなマークを浮かべるばかりで、まったく進まない。
刻一刻とふたりきりの時間は減っていって、年頃故に性欲も高まっていた分、気持ちは焦る。このままじゃ、思い出の大半が参考書とプリント、ノートを行き来する映像になってしまう。
「祈里ちゃんさー……勘弁してよ」
逆算しても終わりそうになくて、がっくしと項垂れた。
「ごめんね。神楽も疲れちゃうよね。…私、あとはひとりでがんばる」
そうじゃない。そうじゃないんだよ、お姉ちゃん。
小さく拳を作ってやる気を見せた可愛らしい相手を、文句ありげな細目で見つめる。なんで睨まれてるのか分かってない祈里ちゃんは眉を垂らして小首を傾げる。
そんなにも何も知らない純真無垢な顔されると、わたしばっか期待してバカみたいじゃんか。
「教えるのは、いいけどさー……そろそろ。ご、ご褒美も、欲しいんだけど」
「ごほうび?」
「うん」
「いいけど……何が欲しいの?お小遣い足りるかな…」
だから、そうじゃないんだってば。
財布の中身を確認しようとする鈍い姉の手首を掴んで、顔を近付ける。
触れる前に気が付いたのか「あ」と声を出した唇を塞いで、目を閉じたところを見てから自分も瞼を下ろした。
柔らかな皮膚の薄さが気持ちよくて、体はどんどん前のめりになっていく。抗えないのか、体重をかけられるままに後ろへ倒れて、最後には床に背中をつけた。
両手首を押さえつけて、体を少しだけ起こす。
見下ろした先で、姉は頬を赤くして潤んだ瞳で狼狽えていた。
「や……だめ、だよ。神楽ちゃん」
「なんで」
「課題、やんなきゃ…」
「そんなん、後でいいじゃん」
もう途中まではやったんだし、と。
開き直って、相手の服の裾を持ち上げる。でも、そっと腕を押さえられて止められてしまった。
「わ、私……そんなつもりじゃ、なかったから」
「わたしはずっとそんなつもりだった」
「下着、かわいくない…から」
「本体がかわいいから問題ない」
「お風呂も、まだだし…」
「じゃあ、一緒に入ろ」
出される言い訳の全部を丁寧に潰していく。
髪の束を絡め持って口づけして、次に頬へキスを落とした。そのまま耳の外側まで移動する。
「わたしが、洗ってあげるから。ね…?」
首筋に弱く吸いついて顔を離せば、疑わしい眼差しをした姉と目が合った。
「神楽ちゃん……絶対、えっちなことする」
洗うだけでは済まされないことを理解した愛しの恋人には笑顔を返して、
「あたりまえ」
逃げてしまう前に手を差し出して起き上がらせて、るんるんとお風呂場へ向かう。こんなにも堂々と家の中を手を繋いで歩けるだけでも、気分は良かった。
その後、浴室で致したのは言わずもがな。
癖で口元を覆って声を抑える健気な相手に、
「今日は我慢しないで、声出していいんだよ」
「ん、あ……っでも」
「聞かせて?祈里ちゃん」
悪魔の囁きをして、抑圧された欲を解放させた瞬間が、一番興奮した。
慣れない声の大きさに耳を傾けながら抱きしめる肌感は最高で、終わってふたりで湯船に浸かった時も密着した体が一ミリも離れないよう後ろから腕の中に閉じ込めた。
「は〜……しあわせ」
「ふふ。こんな機会、ないもんね」
「うん」
このまま、親が帰ってこなければいいのに。平然と、親不孝なことを考える。
「将来、さ…」
「うん?」
「一緒に、暮らす?」
周りから、どう思われるかとか。
悩む要素は、たくさんある。
姉妹で二人暮らしなんて、人によってはおかしいって勘繰られる可能性もあるし、親も「いつまでも結婚もしないで」って残念がるかもしれない。
でも、実家にいたらこうやって、好きな時に好きなだけ触れられないし、
「か、考えとく」
照れて耳まで真っ赤にした祈里ちゃんの期待を、裏切りたくないし。
許される限りの未来を、夢見ていたい。
できることなら、死ぬまで。




