第23話「愛してるから」
祀莉ちゃんとの一件が無事に済んで。
あの日はモヤモヤしてたから断っただけなのに、すっかりビビっちゃった神楽はあれから誘ってこない。
同じ布団に入っても遠慮して抱き締めてすらくれないから、私の方から潜りに行く。そうしてやっと、おそるおそるといった手つきで腰に手が回って、頬を寄せられる。
「祈里ちゃん、さ…」
「うん」
「もう、怒ってない…?」
何日目かの夜。
おどおどした口調で、顔を覗きこまれた。
子供みたいな表情が昔の、私よりも小さかった頃の面影を濃く残していて、仮に怒ってたとしても許せちゃうくらいの愛らしさを前に、口元を綻ばせる。
いつもの強気な態度はどこへやら。私の反応ひとつひとつを視線で追っては背中を丸めるかわいい妹の頬を触った。
「怒ってる」
「え」
「待ってたのに、来てくれないから…」
青ざめた顔は一瞬で、絡め取った指の動きによって赤く変わった。
手のひら同士を引っつけると、相手が汗をかくほど緊張しているのがよく分かる。……このくらい、何回もしてるのに。
手を繋ぐどころか、ハグやキスまで。
人が寝てる時には全て、奪い去っていったくせに。
「いくじなし」
目を細くして不満を告げれば、八の字に眉が下がる。
下がったのは眉だけじゃなくて首もで、肩に額を乗っけた神楽は「うー…」と小さく唸った。
「だって、さー……起きてる時は、初めてだし」
言い訳にもならない言い訳を並べだして、本人が満足するまで聞いてあげようと頭ごと包むように抱き寄せてあげたけど、言葉は続かなかった。
もしかして寝ちゃった?と不安になって見てみれば、どうしてか目に涙を溜めていて、恥ずかしいのかフイと逸らされる。
なんで、泣いて――
「また、直前で拒否られたら……しぬ、じゃん」
神楽がここまで臆病になってしまったのが自分のせいだと知って、反省する。
「ごめん。…もう、断らないよ」
「ほんと?」
「うん。ちゃんと、受け止めるから」
二年前、押し付けてしまった不幸も、押し返してしまった愛も。
気が合うとこも、ムカつくとこも。外見も性格も、憎たらしくて生意気なとこも。良いとこ、悪いとこ含めて、全部。
神楽の人生ごと。
「愛してるから。大丈夫」
そこまで言ってやっと勇気を出せたらしい妹は、遠慮がちに体勢を変える。
私の上で、胸元に顔をうずめるようにして乗っかって、右手はさり気なく背中にあるホックを触っていた。
土壇場になってしばらく、後はもう始まるだけだというのにウジウジとしてから、彼女の中で順番でも決まっているのか、まずは浅くキスを落とされた。
だけどそれも、すぐ胸の方に戻って強く抱きつかれて終わる。
「まじ……あの、さ」
「ん?」
「なんか、思ってたんと違う、とか。下手とか、あったらさ…」
「も〜。前置きが長いんですけど。神楽さん」
「だっ、だってさー……」
「だっても何もないよ。早くしてよ」
どれだけ弱気なんだとため息が出そうになるのを堪えて、頬をむにっと押しながら顔を上げさせた。
「夢の中でもきもちかったもん。きっと大丈夫」
あやふやな記憶の中でも、それだけは覚えてる。
だからはっきりと伝えてあげたら、今度こそ本当に、ようやく覚悟を決めたらしい。
「多分、寝かせらんない」
「ん……いいよ」
今度のキスは深めで、のぼせるくらいの熱を受け入れてからはあっという間だった。
夢じゃない夢のような時間は、神楽が言ったように朝まで続いて、睡眠なんてそっちの気で楽しんだ。夢中すぎて、逆にあまり覚えてない。
ただ、夢で見たよりもずっと神楽に余裕がなくて、どうしようもなくかわいかったことだけは脳に刻み込まれた。
「あー……やばい。もう、起きないとじゃん」
「お母さん、来ちゃうかな?」
「……たぶん」
「じゃあ、服着ないと」
朝、母親が起こしに来てしまうより前に、もっと余韻に浸りたいのを我慢して起き上がった。
「……祈里ちゃん」
だけど、すぐ毛布の中へ引き戻される。
何事かと驚いていたら、最後の最後に唇を奪われて、
「今日も、一緒に寝よ……てか、寝て」
強引な甘えん坊に、脳が思考するより先に頷いていた。
一線を超えてしまったんだ、と。
分かりやすい態度で接してくれる神楽のおかげで、改めて実感を持てた。良くも悪くも。
同時に両親や、その他にも色々と罪悪感で胸が苦しくなってしまったのは、自分だけの秘密として抱えることにした。




