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なまいきさかり  作者: 小坂あと
第二章

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第22話「生半可な覚悟で」









 今日こそは、襲ってやろう。


 と、企んでいた交際二日目の夜。


「……浮気者」


 愛らしい拗ねた顔で睨まれて、それどころじゃなかった。


 やらしい雰囲気に持っていこうにも、本気で地雷を踏み抜いていた場合に、呑気に誘うのは最悪な選択でしかないから小心者なわたしはまず顔色を伺った。


「な、なに怒ってんの」

「自分の胸に聞いて」

「あ。はい…」


 とりつく島もなし。


 自分の部屋のベッドなのに肩身が狭くて端っこで小さくなっていたら、今度は足先でグリグリ背中を抉られる。


 姉の表情は不貞腐れていて、とてもじゃないけどイチャイチャに進む感じじゃない。これは、多分ほんとに怒ってるやつ。ふざけちゃだめなやつ。


 ……なんか、したかな。


 昨日の今日で?


 思い当たる節がどこを探しても見つからなくて、頭を抱えながらため息をついた。


「……ちゃんと、別れてきて」

「え…?」

「祀莉って子。…今日、会った」


 な、なるほど。


 放課後にでも突撃されたか。


 知らないところで起きた修羅場を思い浮かべて、ヒヤヒヤする。あいつ、余計なこと言ってないだろうな。


 いや。


 余計なことを言われたから、姉は、


「別れるまで……えっちしない」


 沈みきった、この声色と表情なんだろう。


 何を言われたかまでは、想像しないでおくけど。


「もう別れてるよ」

「うそつき」

「ほんと」


 慰めの言葉じゃないものの、意固地になった姉の心には響かないから、伝え方を変えようと上を向いて思案する。


 試しに、今日あったことを話してみよう。


 そうすれば、疑心暗鬼に陥って猜疑心から抜け出せなくなって、視野を狭めて苦しんでいる愛しいプレンセスの心も救えるはずだ。


「別れたから、変な噂流されちゃってさ――」


 以下、回想。


『一ノ瀬さんって、お姉さんのこと好きなの?』


 お昼休み、クラスメイトに聞かれた。


『や、まぁ……普通に。好きっちゃ、好きだけど』

『それって、恋愛的なやつ?』


 興味津々というよりも、怪訝なニュアンスを感じ取って、すぐに元カノの仕業だと勘付く。


 甘いな、祀莉。


『そんなわけないよ。だって家族相手だよ?』

『だよね〜』

『なんで急にそんなこと確認するの』

『やー……それは。はは』

『ま、いいや。とにかく、あんま真に受けないで』


 高校三年間で築き上げてきた周りとの信頼と、持ち前の外面の良さを、ナメてはいけない。


 びっしりと虫達が蠢くような泥や草で汚れた裏側も、綺麗に作られた表面の美しさによって覗かれることすらない。みんな、それだけで満足するから。


 トチって『好きじゃない』と否定するのは逆効果だから、あえて少しの好意はちゃんと認める。


『一ノ瀬、お前さ』

『うん』

『姉ちゃんとセックスしてるってまじ?』


 故に放課後、部活中にとんでもないことを平然と確認されても、


『んなわけあるか』

『でもお前……シスコンじゃん』

『まぁ……そこは認める』

『え。じゃあやっぱり…』

『ただ、それとこれとは別。逆に聞くけど、そっちだってお母さん好きなマザコンじゃん?』

『それは言うな。…そうだけど』

『お母さんとセックスできんの』

『気持ち悪いこと言うなよ!無理に決まってんだろ』

『おんなじ。わたしも無理。さすがにね』


 八割の嘘と二割の本物を織り交ぜて回避できた。


 信じる人間は、ほとんどいない。一定数、こちらが何を言っても決めつけてくる脳みそ足りないアホ共は、無視。奴らよりも圧倒的に、わたしのが発言力も価値もあるから。


『一ノ瀬さんが変態とか……ありえないよね』

『うんうん。妬みでしょ、どうせ』

『噂流したやつの方がやばくない?』


 このように。


 雑魚の戯言は、誰も信じない。


 よって、わたしの人生に少しの不幸ももたらしてないよ。祀莉ちゃん。


 残念だったね。こちとら、こうなることは想定済み。なんなら、死にたいくらいの不幸はもう味わってんだわ。


 やっと掴んだ幸せ分、不幸になれっていうなら話は別だけどね。それさえも背負えってんなら、黙って背負って生きますよ。


 生半可な覚悟で、愛してるって言ってない。


「――って、ことだから」


 祀莉の連絡先も全部消していて、もう関わりがないことも含めて今日あったことを話せば、少しは安心してくれたらしい。


 体の力が抜けたことを確認して、抱きしめにいく。


「大丈夫だよ、祈里ちゃん」

「うん…」

「わたし、さ。がんばって守るから」

「……ん」

「だからさー……その」


 改めて言おうとすると恥ずかしくなって、相手の肩に額を乗せて顔を見られないように隠した。


「一生、一緒にいよ」


 ただでさえ、血の繋がりのある家族。嫌でも離れない関係なのに。


 さらに強い繋がりを求めるのは、やっぱりどこかおかしいんだろうな。


 他人には共感できないだろう想いを持って、唇を重ねる。


「続き。しても、いい…?」

「……だめ」

「え」


 うそでしょ。


 いわゆるムードってやつを、壊さずいけると思ってたのに、


「今日は気分じゃない」

「な、なんで」

「神楽が浮気するから」

「っしてないってば」

「とにかく。今日はだめなの」


 まさかのおあずけを食らって、項垂れる。


 寝たら襲えばいいやって思考も、今ではどうせ付き合ってるんだから起きてる時にしたいとか欲深くなっちゃったせいで、できなくて。


 腹立つほど快眠な相手の隣で、泣く泣く朝が来るまで悶々と過ごした。









 



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