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33 待てができない聖女②

『あの渡り人には二度と近付かないように』



お兄様にそう言われたのは、アンジェリア(わたし)とフィンレーもだった。あのマシロと言う渡り人が、竜王の許しの元竜王国の民として暮らす事になったようで、これ以上手出しをするのは禁止だと言われた。もう既に、マシロは竜王国に居るそうだ。マシロがオールステニアに居ないのであれば、私はそれで文句は無い。しかも、竜王国となれば、優秀な魔道士のフィンレーでも、そう簡単に行き来する事はできない。マシロははっきりとフィンレーを拒絶していたから、マシロがこちらに降りて来ない限り、2人が会う事はないだろう。

後は、フィンレーがどこまで今の状況を把握しているか──


マシロの命は、フィンレー次第だ



フィンレーが、マシロに追跡魔法を掛けていた事を知ったのは、フィンレーに付けていた影からの報告だった。フィンレーは、マシロが降りて来るのを待っているのだ。そして、魔力を込めた魔石を溜め込んでいると言う。

私は、フィンレーがマシロを諦めるのを待つ事なんてしない。フィンレーが諦めないのなら、諦めざるを得ないようにするだけ。勿論、私がマシロに近付く事はない。また、誰かが私の為に勝手に動いてくれるだけ。お兄様との約束は違えていない。



******


マシロが竜王国に行ってから1週間程経った日。



『どうやら、渡り人が降りて来たようです』


と、影からの報せが届いた。しかも、フィンレーの追跡魔法が反応したようで、フィンレーが魔力を込めた魔石を持ち、マシロを追跡しているそうだ。


「ただの渡り人のくせに……私とフィンレーの仲を引き裂こうとするのね………」


ホロリ……と涙を流せば『お任せ下さい。聖女様の憂いは直ぐに晴れるでしょう』と言う言葉が耳に届いた。


聖女の私の言葉を疑う者は居ない。聖女としての務めはきっちりして来た。王女としての公務も然り。私は今迄国の為に、民達の為に動いていたのだから、今度は私の為に周りが動く番だ。私がフィンレーと2人で幸せになる為には──



ー邪魔者は排除しなければー 








**********



「マシロ!」

「っ!?」


夕方前に、市場で食材を買っている時に名前を呼ばれて腕を掴まれた。私の腕を掴んでいるのは、フィンレー=コペルオンだった。


「やっと……見付けた!マシロ、ゆっくり話がしたいところだけど、あまり時間が無いから、今は何も言わずに俺と一緒に来て欲しい。これからは、俺がマシロを護るから」

「何処に……行くと言うの?」

「俺達の邪魔をする者達が居ない場所だ」


フィンレーは嬉しそうに笑うと、私を抱き上げて、人気の少ない方へと走り出した。


小さな公園の奥。辺りに人が居ないのを確認しながら結界を張るフィンレーを、ただただじっと見つめる。結界を張り終えた後、私達の周りに魔石を並べる。その魔石は規則的に並んでいるように見える。並べ終わるとまた、私の手を掴んだ。


「今から転移の魔法陣を展開するから」

「転移?一体どこに?」

「向こうに着いたら分かるよ。きっと、マシロが喜ぶ所だよ」


そう言って、フィンレーが私を抱き寄せると同時に、私達の足下に魔法陣が現れた。


「怖かったら目を閉じてても良いよ。俺が必ず護るから」

「………」


私は何も答えず、フィンレーに抱き寄せられたままにその魔法陣を確認する。フィンレーだけの魔力では2人の転移が無理だったのだろう。足りない魔力を魔石で埋め合わせている。これだけの魔力を込めた魔石を用意したのだから、かなり前から計画を立てていたのだろう。それが、また召喚を試みる為なのか、自分が向こうに渡る為かは分からないけど。

兎に角、フィンレーはまた、自分勝手な理由で、この魔法陣に手を出したのだ。この不完全な魔法陣に。




「残念だわ………フィンレー=コペルオン」

「え?」


今度は、私がフィンレーの腕を掴んだ。


「反省していれば、ある程度の手加減はしようかと思っていたけど………必要は無さそうで、ある意味安心したわ」

「マシ……ロ?」

「転移先を変更しないとね?」

「転移先を変える?何を──」


そう言って、私は足下に展開している魔法陣に上書きをする。久し振りの魔法だ。上手くいくのか?と少し不安もあったけど、努力して得たモノは私を裏切ってはいなかった。頭ではなく、体や感覚が覚えている。魔法陣の上書きは、それなりの魔力が必要で、勿論誰にでも出来る訳じゃない。


“浄化”の魔法は便利だ。応用が半端無いのだ。 


「“浄化”はね、ただ単に穢れたモノだけを綺麗にするんじゃないの。魔法をクリアにする事も出来るのよ。この、魔法陣みたいにね」

「浄化?え?マシロ……じゃない!?」


バッ─と私の手を振り払おうとするフィンレーだけど、私は更に力を込めて握りしめる。


「──いっ!!」

「あら、痛い?でも、離してあげない。だって、茉白もゲスな男に腕に痕が残るぐらい強い力で掴まれたんだから、貴方も、これぐらい我慢できるわよね?」

「は!?いっ…お前は一体誰なんだ!?」

「ふふっ……自己紹介が遅くなったわね」


そう言いながら、私は自身に掛けた魔法を解く。


「なっ───!?」

「初めまして、私が茉白の母親の由茉よ」


幻影魔法を使い、茉白に見えるようにしていたのだ。


「簡単に引っ掛かってくれて、ありがとう」





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