32 待てができない聖女①
レナルドさんとカイルスさんが戻って来たのは、日付が変わる少し前の時間だった。
それ迄はずっと茉白と色んな事を話しながら、お菓子を作ってティータイムを過ごし、ご飯を作って一緒に食べた。流石に一緒に入浴とまではできなかったけど、3年分を取り返すように沢山話をした。たった3年、されど3年。可愛いだけだった茉白は、少し落ち着いて綺麗な女性へと変わりつつある。
その茉白は、レナルドさん達の帰りを待っていたけど、睡魔には勝てずに寝てしまった。
「レナルドさん、カイルスさん、おかえりなさい」
「ただいま。今日も何事もなかった?」
「茉白と2人で楽しく過ごした事以外は、何も無かったわ。茉白も2人の帰りを待っていたけど、寝てしまったわ」
「それなら、話はまた明日にしよう」
茉白も一緒に──との事なんだろうけど、私はそんなに気長に“待て”をするつもりはさらさらない。
「フィンだかフィレだか知らないけど、私が直接動いて良いかな?」
「え?」
私がニコリと微笑めば、レナルドさんは顔を引き攣らせた。
「私がまたこっちの世界に来たのも、茉白がこっちに来たのも彼のせいなんでしょう?3年も離れ離れになった上に、茉白を放置して……運良くカイルスさん達に助けられたから良かったものの、私は最愛の娘を喪うところだったのよ。私と茉白が何をしたって言うの?私はこの世界を救っただけで、殺されるような事はしてないわ。茉白だってそうよ」
レナルドさんとカイルスさんは黙ったままだ。
「ベレニスさんの事だって、正直、いくらでも反撃する事ができたけど、そうしなかったのは、彼女がイーデンの番だと言う事と、私のお腹に茉白が居たからよ」
イーデンの事は本当に好きだった。でも、彼は私とは違って竜人で、竜人にとっての番の存在は理性でどうなるものでは無いと言う事を知っていた。それでも、番であるベレニスさんから私を護ろうとしてくれたイーデンには、本当に感謝している。だからこそ、イーデンには番であるベレニスさんと幸せになって欲しいと心からそう思えた。ベレニスさんが、私を殺したい程イーデンが好きなのだと言う気持ちも、ある意味好感が持てた。だから、私は2人を祝福できたし、ベレニスさんに反撃はしなかった。それでも──
「彼とベレニスさんが、茉白に手を出すのなら私は容赦しない。勿論、私に何かあれば茉白が悲しむから、私に手を出して来ても反撃するわ。喩え、イーデンに恨まれてもね」
私は受け身になるつもりも、悲劇のヒロインになるつもりも無い。やられたらやり返すだけ。寧ろ、やられる前にやりたいぐらいだ。
「ユマ、少し……落ち着こうか?」
「…………それもそうね………」
レナルドさんの言葉に、少し冷静さを欠いていた自分に気付く。私にとって、茉白は私の存在理由だ。茉白が居るから、どんなに大変な日々でも毎日が幸せなのだ。
「取り敢えず、イーデン様とベレニス様の事は置いといて、フィンレーが問題だな。フィンレーは、マシロに“追跡魔法”を掛けているからね」
「追跡魔法!?それじゃあ──」
「あ、でも大丈夫。私の作ったあのネックレスが無力化しているから、フィンレーはマシロの存在すら感知できていないから」
流石はレナルドさんだ。魔力と竜力を隠す魔法が込められたネックレス。このお陰で、私の聖女としての力と茉白の竜力が隠されているから、イーデンやベレニス様が私達にも気付いていないのだ。
「その追跡魔法を反応させれば、きっとフィンレーはマシロに接触しようとするだろうね。それでフィンレーが動けば、十中八九、王女も動くだろうから、その王女が動く前にフィンレーは逃れる為に、あの魔法陣を使って向こうの世界に転移しようとするかもしれない」
そうなれば、あの魔法陣は完璧なモノではないから、また茉白とは離れ離れになるどころか、茉白が何処へ飛ばされるのかさえ分からない。それに、もう日本に戻れないなら、この世界で生きて行く為に危険要因は潰しておいた方が良い。
「オールステニアの国王様には、挨拶をしておくべきよね?」
「そう……だね………」
今のオールステニアの国王は、私が聖女としてやって来た時はまだ王太子で、私とも一緒に行動していた1人だ。彼の娘が関係して来るのなら、先に挨拶をして様子を見てからどう動くか考えよう。もう既に、茉白に手を出しているようだから、二度目は容赦しない。
「取り敢えず、彼にはきっちりお礼はしないとね。ふふっ……」
「ユマ様は、こんな感じの聖女だったんだな…」
「はい。変わってない。なんなら、以前よりパワーアップしているかも………」
ー久し振りに魔法が使えるわー
と、少しわくわくしていたから、レナルドさんとカイルスさんの会話は耳には入って来なかったし、キースが部屋の隅で震えていた事には全く気付かなかった。




