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箱庭の魔法使い-Snail and the Angel-  作者: 横谷昌資
箱庭の魔法使い-Atavism of Twilight-
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第四話 愛より何より-Even if I can say help me-・2

 結論から言えば、カッツェは死んでしまった。

 交通事故だったそうだ。真琴の家の目の前で車に轢かれて死んでいたのを彼女が発見した。

 龍介が又聞きで聞いた説明によると、台所のカッツェの餌がなくなっていたそうだ。つまり誠に放されたカッツェは一旦開け放された玄関の窓を出入りし楠本家に帰り食事を摂り、そしてまた外に出て行ったところを車に轢かれたのだろうと秀明は推測する。

 瑛貴が数日前から中国に出張していることは真琴も知っている。つまり彼が無関係であることはカッツェの死によってはっきりと判明した。

 なんとも言えない結末だった。

「谷先輩は?」

「慰めてます」

「そうかい」

 またふらりとやってきて、岸田國士きしだくにお全集を読みながら二人の話を聞いていた秀隆は、秀明に声をかけた。

「ところで秀明、ちょっと付き合ってくれ」

 ん、と、秀明は彼に目をやった。

「どこへ?」

「イル・フラウト・マジコで、エリカの花の種が欲しい」

「季節が違うんじゃないですか」

「家で育てるんだし」

「まあ、そうかもしれませんけど」

()()()()()()

 秀明は龍介と向き合った。

「ごめん、まだ慣れてないだろうが冴がもうじき帰ってくるだろうから店番をお願いできるかい。買取には応じなくていい」

「わかりましたー」

 あっさり頷いた龍介を横目に秀隆は出入り口まで向かった。

「じゃあ秀明、付き合ってくれ」

「わかりました」

 二人は目的地へと向かう。

「色々と気にしているようだね」

「そうですね」

「猫が死んだなんてねぇ」

「他人事ながらショックです」

「もしも、秀明が助けてあげられたとしたら、助けたかい」

 秀明は秀隆の心をまさぐった。

 秀明が超能力者なのではないかという疑問は、彼は抱いていない。

 それでも秀明が(微妙に関係者)であるような気が秀隆にはしていた。

 秀明は答えた。

「自分が最優先でしょうね」

 秀隆は頷く。

「そうだね。まずは己のことだ」


 イル・フラウト・マジコで二人は花を買いに来た七瀬と遭遇した。

 先ほど、駅のホームでまた真琴と誠が言い争っていたらしい。

 原因は、遠巻きに見ていた七瀬にまではわからない。故に真相はわからない。

 ただ、例の戯曲を元にすれば——うっかり死にそうになったところを、必死で食い止めた、というところだろうと秀明は思う。

 その後、二人して駅のパン屋へと入っていったらしい。

 じゃあね、と言って七瀬は去っていった。

 秀隆は目当てのエリカの花の種を買いにレジへと向かう。

 秀明はふと思った。

 エリカの花言葉は、確か孤独、寂しさ、博愛、そして——裏切り。

 秀隆が特殊な力を持っているわけではないことは秀明が一番よくわかっている。

 だがその勘の鋭さでもって、自分と似たような日常を過ごしているのかもしれないと、そう思うのだった


 シャンゼリゼ。

「まあコーヒーでもお飲みなさい」

「ありがとうございます」

 と、秀明はコーヒーに口をつけた。

「……」

「……」

 しばしの沈黙。

 秀隆の心を読み取る

(何か悩んでいる)(我がかわいい孫)(そして賢い孫)(そして、かわいそうな孫)(何かを抱えている)(勘の鋭さ)(遺伝だろうか)(猫の死)(かつてのあの子)(感情移入)(共感性が高いというのも、困りものだ)

「少し付き合ってもらえますか。お爺ちゃん」

「話があるなら聞くよ」

「ただそばにいてくれたらいいんです」

 秀隆は微笑んでアップルティーを飲む。

 秀明は心の窓を閉じた。

 考える。

 瑛貴は無関係だったことを思う。

 それは、最初からわかっていた。それを真琴に伝えてあげていられたら。しかしそれを伝えてあげるだけでは何の解決にもならなかっただろう。なぜなら真琴は完全に彼が犯人だと思い込んでしまっていたから。

 だから、自分が精神感応能力者テレパスであることを明かすことによってでしか、真実を伝えてあげることはできなかった。

 それは、できない。

 自分が超能力を持っていることで自分が得をしているのか損をしているのか秀明にはよくわからない。ずっとこうやって生きてきたから、これからもこうやって生きていくのだろうと思うばかりだった。

 こうやって傍観者の立場に徹する以外に、自分にはできることは何もないのだろうか。それに限界を感じたから龍介に助言をした。そして事は動いた。

 結果、カッツェは死んでしまった。

 自分が真実を伝えていたら。

 でも、それは、無理な相談だった。

 どこまでも考えても——それは、できないことだった。

 ふう、と、秀明はため息をつき、コーヒーを飲む。

「あんまり悩み過ぎないように」

「ありがとうございます。ああ。もう、大丈夫です」

「そうかい。では……わたしはこれで」

 と秀隆が立ち上がったので、秀明は再び心の窓を開いた。

「店ですか?」

「いやドイツへ帰るよ」

「忙しいですね」

「ま、そんな自分が好きなのさ」(君が気になるが)(わたしにもしなければならないことがあるからね)

(わかりましたよ、お爺さん)

 秀明は頷いた。

「じゃあ、また会う日までお元気で」

「さらば愛しき孫よ」

 やがて秀隆は店を出ていった。

 一人シャンゼリゼに残された秀明は、コーヒーをゆっくり飲む。

 そのとき龍介からLINEが届いたのでそれを見てみると、辰彦が店にいるらしい。実は辰彦は背取りが趣味らしく、買い取ってもらいたい本がいくつかあるそうだ。

 もうちょっと早ければ秀隆と出会えただろうに、と、秀明は思う。

「二度あることは三度ある。三度あることは確率的に……」

 クスッと、笑う。

「すれ違う二人だ」

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