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箱庭の魔法使い-Snail and the Angel-  作者: 横谷昌資
箱庭の魔法使い-Atavism of Twilight-
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第四話 愛より何より-Even if I can say help me-・1

「それで、結果は?」

「う〜ん……」

 翌日。学校が終わって店で秀明は龍介と対面していた。

 龍介の複雑そうな顔は秀明の予想通りではあった。

「具体的に」

(具体的に)「あの二人は付き合うことになったみたいで」

「ほう」それは予想通りだった。混乱している真琴が自分に縋ってくる度に誠の中で恋心がどんどん形になっていた中、告白をされたのだから。「そして」

「あのう、先輩の言った通り俺の兄貴が浅川辰彦だって言ったら、あのサラリーマンの個人情報を伝えろ伝えろってなんか必死になって、楠本のやつ」

 龍介の想起域には半狂乱のイメージの真琴が浮かんだ。

「伝えてあげるの?」

「まさか。ていうか兄貴が教えてくれるはずないし」

「それで谷先輩は?」

 真琴の騎士ナイト、というイメージで誠が浮かんだ。

「楠本を宥めるのに必死でした。あの、これでよかったんすかね。俺の兄貴が依頼した探偵だなんて話、やっぱりしない方が良かったんじゃないすかね。先輩はそう言ってみろって言いましたけど」

「状況に別の要素が組み合わさったときどのような展開になるかって言っただろ。今、楠本さんはすごく混乱してる。そこに更に混乱させる要素を注ぎ込めば——一種の逆療法だよ」

 こんな雑な説明で龍介がすんなり納得するとも思っていないが、しかし専門的な話題に見せかけているため“素人”の自分には難しい話なのだろうと思わせることはできたようだった。

 龍介は、うーん、と唸った。

「大した展開にはならないと思うけどなぁ。俺がちょっと面倒臭いことになるんじゃないかって気がしたけど実際そんな感じだし」

 これで誠はカッツェを誠に返すという行動に出るといいと秀明は思う。

 確かに実兄が例の探偵であるという事実を告げたときしばし龍介は面倒なことになるだろうと思ったがそれは仕方がなかった。とにかく真琴が今まさに動き出そうとしているというシチュエーションが重要なのである。そうすることにより誠も連鎖的に動くだろうと秀明は踏んだ。このまま放っておいたら真琴は瑛貴を警察に訴えるだろう。誠としてはそんなことをさせるわけにはいかない。であるのあればカッツェをもうじき返してあげるはずだった。

 それがどのような返却方法になるかまでは秀明にはわからなかった。少なくとも直接動くことはないだろうと思った。そんなことをしたら自分がカッツェを誘拐していたことがバレてしまう。そうしたら嫌われてしまう。ただでさえ失恋の達人だったところをようやく人生初めての彼女ができたのだ、その恋が消滅するというのは誠の抱く死のイメージが決定的に固定されてしまう。ひどければ実際に死んでしまうかもしれない。そして今、部活の後輩の兄が探偵であることがわかったことである程度自分の次の行動を考えなければならない必要性が誠には生まれていたはずだった。つまり結果的に余裕ができたはずだった。

 これで事態が好転すれば良いと思う。

「ところで、昨日、谷先輩が自殺しようとしてた理由と、二人がお互いを突き落とそうとしていた理由っていうのはなんだったんだい」

 急に話題が変わったので龍介はちょっと戸惑いつつも答えた。

「具体的には聞いてないんすけど、なんか、楠本が谷先輩に告ったらしいんすね、駅で」

「ふむ。それがきっかけで付き合うことになったんだろ」

「そしたら誠先輩がすごい顔になったみたいで。嬉しいんだか怖がってるんだか」

 わからなくもない。「告白されて死にたくなった、と」

「ってことなのかなぁ。なんか谷先輩、舞い上がっちゃっておかしな行動に出そうになっちゃったってことっすけど」(幸せだと死にたくなる)(そんなことがあるんだなぁ)「でも楠本が落ち着かせて——それで楠本のやつも猫のことでちょっと冷静になったみたいで」

 今、この場には話を聞いた龍介しかいないから、具体的なあらましまではわからない。ただ、おそらく秀明の想像が正しいだろう。誠に自殺衝動が生まれたのはやはり罪悪感が原因だ。なんと言っても今この状況を展開させているのはカッツェを誘拐している自分に原因がある。恋が叶うことで事の詳細が全て明るみに出たらと危惧した気持ちが突発的な自殺衝動を生み出したのだろう。ただ、それは決定的なものではなかったはずだった。だから真琴の説得によって彼は死を選ばないで済んだ。無論、事の詳細は具体的にはわからない。だが細かいディテールは違えど秀明の推理とさほど違いはないはずだとテレパスとしての秀明の直感が訴えていた。

「突き落とそうとしていたっていうのは?」

「それはなんか、遠回しに聞いたら、そんなに死にたかったら死ねばいいみたいな。でも俺はお前が好きだ私は先輩が好きだみたいな感じで。もう人騒がせな」

「人騒がせだ」

「まあ俺が聞けたのはそんな感じで」

 昨日に引き続き、ここの推理は情報が足りなすぎて秀明にもよくわからなかった。なぜ二人は互いを突き落とそうとしたのか。

 そこでふと考える。命を弄ぶ男ふたりにおいては、一旦それぞれ自殺しようとしていたのを互いが止め、やがて死にたければ死ねばいいと互いに動く。しかし死にたくないと互いに相手をふり解く。その瞬間においては眼鏡の男も包帯の男も生への強い渇望を抱く。そしてうっかり線路に落ちそうになる二人はそれぞれ必死になって生きたいと動く。

 ラストシーンでは、今夜は死ぬのはやめておくとそれぞれ帰路に着く……。

 秀明は思う。

 誠と真琴は、()()()()()()()()()()のだろう、と。

 それをいうなら、真琴がカッツェを利用したのも、誠がカッツェを誘拐したのも、ちょっと自尊心がなさすぎたが故の結果だ。

 それが命を弄ぶ事態に繋がった。全く無関係の瑛貴をも巻き込もうとしてしまった——今回、二人は、“自分のことばかり考え過ぎた”。それが事件の原因だったのだろうと、秀明はそんな風に思うのだった。

「わかった。これで猫が無事帰ってきたらいいね」

 龍介は、ふう、と、ため息をついた。

「ほんとっすよね」

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