第三話 その瞳、潤いにつき-To Be Only Yours-・1
真琴と誠が駅のホームで言い争いをしていたという事件は、二人を知る生徒たちの間でちょっとした話題になっていた。
なんでも真琴が自殺しようとしていたところを誠が必死で食い止め、その過程で駅員がやってきて、どうしても落ち着かない真琴を見て学校に連絡をしてきたのだ。特別な大ごとにはならずに済んでいたが、その話を龍介から聞いた秀明は彼らのことがだんだん心配になってきていた。
体育館。バスケ部の練習中。秀明はまたも練習を見にきていた。壁を背にして立ち、真琴と誠の心をまさぐる。一方で龍介は先輩の誠とクラスメイトの真琴のことが気になってなかなか試合に集中できずにいた。
(なんで自殺なんか)ボールを手にしてあまり上手とは言えないドリブルでゴールへと向かう誠。(俺のせいだ)
(もう死んでしまいたい)隅っこで練習を見る真琴。(カッツェ。どうか無事で)(でもきっとあのサラリーマンが)(カッツェを殺した)(そんなまさか)(でももう、いなくなって二週間も経つ)
(俺が伝えてやれたら)(カッツェ見つけたよって)(でも俺がやったことがバレたら)(失恋)(失恋なのかな)(涙)(好きなのだろうか俺は)
誠は、今朝の混乱状態にある真琴の潤んだ瞳を見て、少しずつ恋心が確かなものになろうとしていた。
誠はいつも死のイメージを漂わせていた。それは“死のイメージ”と彼の中で言語化はされていなかったが、秀明からすれば要するにそれは、死のイメージだった。いつも好きな女の子に振られ続ける中、彼の中で自己否定の精神がどんどん育っていったのだ。だが生来の明るさがそれを覆い隠していた。だからいつもネタにしていた。本当はいつも苦しんでいる。愛が砕けるということがどれだけ苦痛を伴うことか、もう誠にはわかっていた。しかしどうすればモテるのかがわからない。テクニックも大切、と周囲には言われているが、どうすれば技術が身につくのかわからない。いつも一生懸命好きだった。だから否定されることは自分自身そのものを否定されることと同義だった。秀明は思う。その“モテなさ”は己を弱者男性だと定義づけていることからきているのかもしれなかったが、だがそこに誠は気づかないでいた。
朝。一緒に学校に向かう中、真琴が死んでしまいたいと言って、そんなことはやめてくれと必死に切願する誠。それでも勢いで飛び込む直前まで行ってしまった真琴。どうすればこの問題が、真琴の問題が解決できるのかは誠にはよくわかっている。だがカッツェをどのようにして彼女の元へと返せばいいのか、それがどうしても誠にはわからないでいた。
(外に出して)(でも今度こそ行方不明になったら)(カッツェが家に帰れなくなったら)(でも俺が直接渡すのは)(それはいけない)(バレたらきっと——)(この恋心はどうなる)(死にたくなるのはもうごめんだ)(でも真琴が)
(カッツェ)(ごめんね)(本当にごめんなさい)(それでもまこちゃんが好きなのは本当)(どうすればいいの)(探偵)(サラリーマンが犯人)
「じゃ、試合始めまーす」
というキャプテンの声に、部員一同は「はい!」と元気よく答える。そんな中で誠だけが憂鬱な気分だった。
そのうち部活動の時間が終了し、真琴は誠と一緒にいるためそのまま体育館に残る。誠が抱えている秘密を無論真琴は知らない。だが今は大好きな幼馴染みであり恋心を抱いている誠にそばにいてほしかった。
(カッツェ)(カッツェ)(早く会いたい)(死んじゃったのかな)(私のせいで)(サラリーマンが犯人)(あいつがカッツェを)(やだ。やだ)(きっとまた会える)(会えるから)(ごめんねカッツェ)
どうやら日に日に真琴は誠への想いが膨らんでいるようだった。しかし、カッツェに対する罪悪感でまさに死んでしまいそうだった。そしてその罪悪感が瑛貴への攻撃性へと表れている。
このまま放っておいたら面倒なことになるのではないかと秀明は思う。事情を知った以上、自分は何かしなければならないことがあるのではないかとも思う。それでもそのように動くわけにはどうしてもいかなかった。それは自分が超能力者であるという事実が暴かれ魔女狩りされる危険性を秘めているからだった。
誠に対して秀明は、早くカッツェを返してやればいいのだがと思うばかりだった。なんとでも言い訳は作れるはずだった。だが“犯人”たる彼にそんな余裕はなかったし、どうすれば事態があっさり解決できるのか、その方法をいくら考えても結局は自分が犯人だということがバレてしまうのではないかという恐怖へと繋がるばかりだった。
自分ならなんとかできるとは思う秀明だったが、なんとかするために驚異的なリスクを背負うことはとてもできない。しかしこのままでは瑛貴が厄介な目に遭う恐れがある。
龍介を間に挟む、というように事態を持っていけないだろうかと秀明は思った。何か手があるはずだと思う。事情を知ってしまった以上——自分は動かなければならないはずだという、あるいは超能力者としての使命感が秀明を突き動かす。それなら、なんとしてでもこの問題が丸く収まる方法を自分は考えなければならないはずだと、秀明はそうしばらく逡巡する……。




